第56話 屋敷の中にいたのは

文字数 2,664文字

 俺とミラはランシーヌの後を追うようにして走って行ったのである。もちろん、彼等から気付かれない様について行ったのだ。

 暫く走ると、近くに門が見えランシーヌは立ち止まると後ろを振り返ったのだ。


「ここまで来れば、問題ないわね……」


 そう言うと、彼女は呪文を唱えたのだ。


「我の姿を透明にし、不可視の存在とせよ!」


 すると、彼女は俺達の目の前で姿を消したのである。後から追いついたサービラ達はランシーヌを見失ったようである。


「何処に行った!?」


 アニウスとオトフリートはランシーヌを探していたが、見つける事が出来ずに困惑していたのだ。

 サービラ達は周りを見渡していた。そして、近くに門が見えたので町の外に出て行ったと考えるようになった。


「門を出て外に出たのかも……」


 サービラはそう言うと、仲間達に指示をしたのである。


「すぐに町の外に探しに行くわよ!」


 3人は黙って頷くと、急いでランシーヌの後を追いかけるように門の方へ行ったのである。

 門を見張っている兵士達が騎士の2人を見ると、慌てて敬礼していた。そして、話しかけて来たのである。


「これは、騎士隊長殿と副隊長殿ではないですか。何用で、ここに来たのですか?」


 アニウスが一歩前に出ると、兵士達に答えたのだ。


「町の外に怪しい女が出て行ったはずだ! 捜し出すぞ!」


 彼の言葉を聞いて兵士達は眉をひそめ驚いて顔を見合わせたのである。


「怪しい女ですか……? どの辺りで見ましたか?」


 兵士の1人が質問すると、オトフリートは顎髭を撫でながら答えた。


「この門の近くだ!すぐに捜せ!」


 2人は兵士達に指示をだすと、彼等は慌てて外に出て行ったのである。

 サービラ達は町の門を出ると、周りを見渡したのだ。しかし、辺りは見渡す限り荒野しか見えなかった。魔女を見つける事は出来なかったのだ。


「いないわね……。一体どこに……」


 サービラは不安そうにしていると、オトフリートが豪快な笑い声をあげながら答えていた。


「ガハハ! 心配するな! すぐに見つかるだろうぜ!」


 平然としている彼に対してアニウスはイラつきながら言ったのである。


「だが、魔女を見失うと厄介だぞ……」


 4人の表情は険しかった。それほどまでに、ランシーヌの能力が厄介だと思っているようだ。


「そうね……。とりあえずは手分けして捜しましょう!」


 サービラはそう言うと、二手に分かれ別々の方向へ走って行ったのだった。


 ランシーヌがサービラ達から逃走していた頃、ニアは屋敷の中に入って行った。

 中に入ると、廊下が続いており左右には扉が幾つもあった。ニアは周囲を警戒しながらシャイラを捜していたのである。

 屋敷の中を隅々まで調べたがシャイラの姿は何処にも無かったのである。

 怪しい所がないか探していると地下室に続く扉を発見したのである。


「もしかしたら……!?」


 ニアはそう呟くと、警戒しながら階段を降りて行った。地下室の扉の前で耳を澄ますと人の気配がしたのだ。

(間違いない!)

 そう確信したニアは扉を開いて中に入ったのである。するとそこには見覚えのある人物の姿があったのである。

 それは、シャイラだった。彼女は全裸で鎖に繋がれていたのだ。


「シャイラ!」


 ニアは慌てて彼女に駆け寄ると、彼女を拘束している鎖を外そうとしたのだ。


「……ニア?」


 シャイラは驚きながら弱々しく呟いていた。


「今助けるから!」

 ニアはシャイラを拘束している鎖の片方を力一杯引っ張ったのだ。

 だが、鎖は頑丈で中々壊れる気配が無かったのである。ニアは諦めずに何度も引っ張り続けた。すると、少しずつ壊れてきたようで、鎖が千切れたのである。

 彼女の力は人間の力ではなかったのだ。


「やった! もう片方を千切れば……」


 だが、その時突然、ニアの背後から殺気が生じロングソードの攻撃が襲いかかってきたのだ。

 ニアは咄嗟に避けようとしたが右肩を斬りつけられたのである。

 驚き振り返ると、そこには鎧と緑色のサーコートを着た騎士が立っていたのだ。


「うっ!! だ、誰!?」


 ニアは右肩を押さえながら睨みつけていると、騎士は30代後半ぐらいの男性であった。それはオッツだったのだがニアは彼を知らなかったのである。

 剣を構えながら、彼は冷たい眼差しで答えたのだ。


「気になって、分身を飛ばしてみたら魔女の手下が入り込んでいたとは……」


 オッツはそう言うと剣を構えて斬りかかったのである。


「死ね! 小娘!!」


 彼は剣を振りかぶってニアに斬りかかったのだ。ニアは急いで避けると、オッツの剣は空を切ったのだ。

 剣を尻目に、すぐさま回し蹴りを相手の胴体に叩き込んだのである。だが、オッツは少しよろめいただけで全く怯まなかった。

 すぐさま、彼は上段から剣を振り下ろしたのだ。

 ニアは咄嵯に避けたが左腕を浅く斬られてしまったのである。

(くっ! 強い……!)

 左腕を押さえながら距離を取ると、彼女は苦痛の表情を浮かべていたのだ。

 そんなニアに、オッツはニヤッと笑った。


「その腕では避けられまい! これで終わりだ!!」


 彼が叫びながら斬りかかってきた時であった。突如、剣に鎖が巻き付いたのであった。

 それは、ニアが千切った鎖をシャイラが操ったのである。


「なっ!?」


 オッツは驚きの声を上げると、剣の自由を封じられてしまったのだ。

 その隙を逃さず、ニアは彼の懐に飛び込むと鳩尾に拳を叩き込んだのである。


「ぐはっ!」


 彼は悶絶しながら胃液を吐き出し剣を落として地面に膝を着いたのだ。

(よし! いける!!)

 そう思った瞬間、オッツは怒りの形相でニアを睨んでいた。


「よくもやったな!!」


 彼は叫びながらニアに掴みかかって来たのである。そして、そのまま彼女は押し倒されてしまったのだ。


「きゃっ!!」


 思わず悲鳴を上げながら倒れてしまい、直ぐに立ち上がろうとしたが、オッツの大きな手で首を掴まれ動きを封じられてしまったのだ。

 ニアは手を剥そうとしたが彼女の人間離れした力であっても抗うことが出来ない、この男の力も人間の力ではなかったのである。

(く、苦しい……!)

 首を絞めつけられているせいで呼吸が困難になり意識を失いかけた時であった。突然、オッツの首に鎖が巻き付いたのである。


「ぐぁっ!」


 オッツは驚いて手を放すと、ニアは解放され咳き込みながら涙目で立ち上がったのだ。

 そして、シャイラが放った鎖がオッツの首を締め付けていたのだ。


「く、くそっ……! 貴様ぁ……!」


 彼は苦しい表情を浮かべながらも、鎖を外そうと必死に藻掻いていたのだった。
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