第1話 魔女の護送
文字数 3,765文字
今、この国には疫病が流行り飢饉が発生し民衆は混乱していた。
そのような状況の中、人品は下落していき怪しい人物を魔女や魔女の仲間と告発し魔女狩り、魔女裁判が横行していた。
そして、俺ことラドリックはヤンテルの教会から魔女裁判が行われる修道院がある町まで護送する依頼を請け負ったのだった。
「まったく……面倒な仕事を引き受けちまったな」
俺はため息をつく。
今回、護送するのは3人の女達だ。
その女達は全員魔女だと教会は決めつけている。確かに、見た目は普通の女性だが、どこか妖しい雰囲気を持っているようにも見える。
「仕事だから仕方ないが……」
正直、あまり気乗りしない仕事だ。
魔女なんて本当にいるのか? もしいたとしても、どうしてそんな奴らを教会が恐れるんだ? 魔女はどんな力を持っているというのか?
まあ、考えても無駄か……。
とにかく俺は金のために仕方なく受けただけだ。
今回の報酬は、それなりの額で断わるわけにはいかなかったのだ。
それにしても、この町の空気の悪さは何なんだ!? 町のあちこちで病死した死体が転がっているぞ!
どうなっているんだこの町は……。
俺は、この町の居心地の悪さを感じ何とも言えない気持ちになった。
「……」
俺は無言のまま、馬車の中の魔女を見た。馬車の荷台が檻になっている。
そこに3人の女が座っていて一番年上だと思われる女性に目が行った。
歳は20代半ばくらいだろうか。長い黒髪でとても綺麗な顔をしているが、どことなく陰鬱な雰囲気を放っているように見える。
「君の名前は?」
俺は女に尋ねてみる。
「…………」
女は俺を見つめているが何も答えなかった。
次に若い女の2人に目をやる。
2人は10代後半ぐらいの女性で顔が瓜二つなので双子だろう。髪は金髪で少女の肌の色は透き通るように白く顔色は少し青白い。まるで妖精のような見かけの美少女だ。
ただ、無表情な顔をしているのが不気味だった。
「お前たち、名前は?」
双子の姉妹に尋ねる。
しかし、やはり返事はなかった。
俺はため息をつき、もう一度年上の女を見る。
すると、女と目が合った。女は俺を見て微笑んでいる。
何だこいつ……不気味な笑みを浮かべやがって……。
俺は女から視線を外す。
こんな状況なのによく笑っていられるものだ。
この状況を楽しんでいるのか? それなら、とんでもない異常者じゃないのか?
「……」
俺は女に対して嫌悪感を持った。
そして、護送の間の同僚となる2人の男にも目を向ける。
男の内の1人は30歳ぐらいといったところか。体格が良くいかにも強そうで粗暴な印象を受ける。
もう1人は瘦せていて目つきが悪い30代前半ぐらいの年齢の男だ。
どちらもあまり信用できない連中に見える。2人は知り合いらしい。
俺は不安になりながら男達の名前を聞いた。
「おい、あんたらの名前は?」
「……俺はゴードンだ」
体格のいい男は自己紹介をし、もう一人の男も口を開く。
「俺はハーキースだ……」
「俺はラドリックだ。よろしく頼む……」
俺は挨拶をしてみたが、誰からも反応がなかった。
「……」
2人とも黙ったままだ。まあ、別に会話する必要もないのだが……。
俺は気を取り直して馬車の方を見た。馬車には若い修道士が近くで待機していた。
「あなた達に神父様の伝言を伝えに来ました。これから、彼女達の魔女裁判をするため異端審問官がいるデムイの修道院に向かって貰います。そこで3人の身柄を引き渡せば今回の依頼は完了です。では、神の御加護がありますように……」
若い修道士はそう言って檻のカギを渡し馬車から去って行った。
「あの女達は何をしたんだろうな?」
「さあな……」
俺とゴードンは疑問を口にしたが、誰も答えるものはいなかった。
3人の女達は終始無言だった。
馬車の中では3人の女達がずっと俯いていた。
「デムイの町までは、ここから3日程かかる。悪いが我慢してくれ……」
俺の言葉に3人の女達は黙ったままだった。
「……」
「……」
「……」
俺は馬車の操縦をし、残りの2人は馬に乗って付いてきていた。
町を出てからというもの3人の女達は一言も喋らない。
ゴードンとハーキースは居心地が悪くなり、それぞれ無言のまま馬を走らせていた。
俺も正直この沈黙に耐えられなかった。
このままだと、気まずい空気になる。何か話題を考えないと……。
そうだ……魔女裁判って一体どんなことが行われるんだ?
「ところで、魔女裁判とは具体的にどういうことをするんだ?」
俺は2人の男達に聞いてみる。
「知らねえよ……」
「魔女だと自白させるために色々な拷問をするという噂だ……」
ハーキースは嫌そうな顔をしながら答えた。
「例えばどんなことだ?」
「水責めとか針責めとか色々あるみたいだが、詳しくは知らない」
ハーキースはさらに顔をしかめる。
どうやら、あまり良いイメージはないようだ。まあ、当然か……。
俺はさらに質問を続ける。
「それで、自白させられた後、どうなるんだ?」
「死刑になるだろうな……」
「……」
俺は言葉を失った。
そもそも、そんな理不尽な理由で人を殺すなんて許されるわけがないだろう……。
俺は憤りを感じていた。
そんな時、ゴードンが大きな声を出す。
「おいっ! あれは何だ!?」
俺達は前方に目をやった。
前方の街道の脇には数人の死体が転がっていた。
それは、どう見ても人の仕業ではない。無残に殺された人の死骸だった。
何なんだこれは!? 俺は驚きの余り呆然としてしまう。
死体の中には原型を留めていない物もあり、内臓がはみだした死体や、身体の部分がバラバラになっている死体もあった……。
一体、何に襲われたというのか? 獣か? それとも盗賊か?
俺は恐怖で身震いをした。
「まさか、こんな場所で死体に遭遇するとはな……」
「ああ、全くだ!」
俺の呟きに、ゴードンは同意するように返事を返した。
2人も驚いているようで死体を見て青ざめている。
「この先に恐ろしい物でもいるのか……」
「迂回するか?」
「いや……このまま進んで行こう……」
俺達は死体を調べていく。あたり一面には血と内臓の匂いが充満していて吐き気を堪えながら必死で調べる。
しかし、何も手がかりになりそうな物は見つからなかった。
「チッ、何もないな……」
「先を急ごう……」
「そうだな……」
俺達は再び馬車を進めようとしたその時だった。
「ぎゃ――――!!」
突然、男の悲鳴が聞こえてきたのだ。
「何だ!?」
俺達は周囲を見渡す。
すると、少し離れた茂みに男が倒れていて喉を嚙み切られていた。
その近くには、巨大な狼が立っていた。
「何だこいつ……狼なのか……?」
俺は驚愕した。こんな大きな狼なんて見たことがないぞ……。
しかも、全身真っ黒だ。
俺達は慌てて武器を抜き構えるが、狼はこちらを威嚇して一睨みすると森の奥へと消えていった。
「何だあいつは……?」
俺は動揺しながら呟く。
すると、ハーキースが俺に声をかけてくる。
「あの狼はヤバいな……」
「確かにあんな大きな奴は初めてだ……」
「ああ、とにかく急いでここから離れようぜ……」
「分かった……」
俺達はすぐにその場から離れた。
しばらくしてから振り返ると、そこにはもうあの黒い狼の姿はなかった。
「危なかったな……」
ゴードンが息を整えながら言う。
「ああ、あの時は生きた心地がしなかったな……」
俺はそう言って、あの時の状況を思い出していた。
「あの黒い狼は何者なんだろうか……」
俺は疑問を口にする。
「さあな、ただの狼かもしれないし、あるいは魔物かもしれん……」
「魔物なんて伝説やおとぎ話でしか聞いたことないぞ……」
「俺だってそうだ。もしかしたら存在しているかもしれんな……」
「……」
しばらく沈黙が続く。時は夕刻を迎えていた。
そして、俺は馬車に乗りデムイの町を目指して進み始めた。
3人の女達は相変わらず黙ったまま俯いている。さっきの光景を見たせいか、誰も口を開こうとはしない。
俺は気まずくなり話題を探した。
そうだ……魔女の疑いをかけられるということは、どんなことをしたんだろうか?
「ところで、何で魔女の疑いをかけられたんだ?」
3人の女達に訊いてみた。
すると、1人の女が口を開く。
「私は無実よ……」
3人の女達の中で一番年上の女はそう言った。
どうやら、この女は魔女じゃないということらしい。他の2人はどうだろうか?
「おい、お前達は何の疑いを掛けられたんだ?」
双子達に訊いてみる。
すると、2人は顔を見合わせてから答えた。
「私達は何もしてないわ……」
1人の若い娘が答える。
「でも、魔女狩りの時に魔女のふりをしたのよ……」
「そうね……」
「えっ!?」
俺は呆気にとられる。
「ちょっと待て! それはどういうことだ?」
俺は思わず大声を出してしまった。
「そのままの意味よ……」
「魔女のふりをしておけば、魔女として捕らえられるからよ……」
「何でそんなことをしたんだ!?」
「仕方がなかったのよ……」
「……」
俺は言葉が出てこなかった。
どうやら、この3人の女達は何か訳ありのようだ……。
俺はそれ以上追及するのをやめることにした。
「そうか……」
俺はそれだけを言うと、また沈黙の時間が続いていった。
そのような状況の中、人品は下落していき怪しい人物を魔女や魔女の仲間と告発し魔女狩り、魔女裁判が横行していた。
そして、俺ことラドリックはヤンテルの教会から魔女裁判が行われる修道院がある町まで護送する依頼を請け負ったのだった。
「まったく……面倒な仕事を引き受けちまったな」
俺はため息をつく。
今回、護送するのは3人の女達だ。
その女達は全員魔女だと教会は決めつけている。確かに、見た目は普通の女性だが、どこか妖しい雰囲気を持っているようにも見える。
「仕事だから仕方ないが……」
正直、あまり気乗りしない仕事だ。
魔女なんて本当にいるのか? もしいたとしても、どうしてそんな奴らを教会が恐れるんだ? 魔女はどんな力を持っているというのか?
まあ、考えても無駄か……。
とにかく俺は金のために仕方なく受けただけだ。
今回の報酬は、それなりの額で断わるわけにはいかなかったのだ。
それにしても、この町の空気の悪さは何なんだ!? 町のあちこちで病死した死体が転がっているぞ!
どうなっているんだこの町は……。
俺は、この町の居心地の悪さを感じ何とも言えない気持ちになった。
「……」
俺は無言のまま、馬車の中の魔女を見た。馬車の荷台が檻になっている。
そこに3人の女が座っていて一番年上だと思われる女性に目が行った。
歳は20代半ばくらいだろうか。長い黒髪でとても綺麗な顔をしているが、どことなく陰鬱な雰囲気を放っているように見える。
「君の名前は?」
俺は女に尋ねてみる。
「…………」
女は俺を見つめているが何も答えなかった。
次に若い女の2人に目をやる。
2人は10代後半ぐらいの女性で顔が瓜二つなので双子だろう。髪は金髪で少女の肌の色は透き通るように白く顔色は少し青白い。まるで妖精のような見かけの美少女だ。
ただ、無表情な顔をしているのが不気味だった。
「お前たち、名前は?」
双子の姉妹に尋ねる。
しかし、やはり返事はなかった。
俺はため息をつき、もう一度年上の女を見る。
すると、女と目が合った。女は俺を見て微笑んでいる。
何だこいつ……不気味な笑みを浮かべやがって……。
俺は女から視線を外す。
こんな状況なのによく笑っていられるものだ。
この状況を楽しんでいるのか? それなら、とんでもない異常者じゃないのか?
「……」
俺は女に対して嫌悪感を持った。
そして、護送の間の同僚となる2人の男にも目を向ける。
男の内の1人は30歳ぐらいといったところか。体格が良くいかにも強そうで粗暴な印象を受ける。
もう1人は瘦せていて目つきが悪い30代前半ぐらいの年齢の男だ。
どちらもあまり信用できない連中に見える。2人は知り合いらしい。
俺は不安になりながら男達の名前を聞いた。
「おい、あんたらの名前は?」
「……俺はゴードンだ」
体格のいい男は自己紹介をし、もう一人の男も口を開く。
「俺はハーキースだ……」
「俺はラドリックだ。よろしく頼む……」
俺は挨拶をしてみたが、誰からも反応がなかった。
「……」
2人とも黙ったままだ。まあ、別に会話する必要もないのだが……。
俺は気を取り直して馬車の方を見た。馬車には若い修道士が近くで待機していた。
「あなた達に神父様の伝言を伝えに来ました。これから、彼女達の魔女裁判をするため異端審問官がいるデムイの修道院に向かって貰います。そこで3人の身柄を引き渡せば今回の依頼は完了です。では、神の御加護がありますように……」
若い修道士はそう言って檻のカギを渡し馬車から去って行った。
「あの女達は何をしたんだろうな?」
「さあな……」
俺とゴードンは疑問を口にしたが、誰も答えるものはいなかった。
3人の女達は終始無言だった。
馬車の中では3人の女達がずっと俯いていた。
「デムイの町までは、ここから3日程かかる。悪いが我慢してくれ……」
俺の言葉に3人の女達は黙ったままだった。
「……」
「……」
「……」
俺は馬車の操縦をし、残りの2人は馬に乗って付いてきていた。
町を出てからというもの3人の女達は一言も喋らない。
ゴードンとハーキースは居心地が悪くなり、それぞれ無言のまま馬を走らせていた。
俺も正直この沈黙に耐えられなかった。
このままだと、気まずい空気になる。何か話題を考えないと……。
そうだ……魔女裁判って一体どんなことが行われるんだ?
「ところで、魔女裁判とは具体的にどういうことをするんだ?」
俺は2人の男達に聞いてみる。
「知らねえよ……」
「魔女だと自白させるために色々な拷問をするという噂だ……」
ハーキースは嫌そうな顔をしながら答えた。
「例えばどんなことだ?」
「水責めとか針責めとか色々あるみたいだが、詳しくは知らない」
ハーキースはさらに顔をしかめる。
どうやら、あまり良いイメージはないようだ。まあ、当然か……。
俺はさらに質問を続ける。
「それで、自白させられた後、どうなるんだ?」
「死刑になるだろうな……」
「……」
俺は言葉を失った。
そもそも、そんな理不尽な理由で人を殺すなんて許されるわけがないだろう……。
俺は憤りを感じていた。
そんな時、ゴードンが大きな声を出す。
「おいっ! あれは何だ!?」
俺達は前方に目をやった。
前方の街道の脇には数人の死体が転がっていた。
それは、どう見ても人の仕業ではない。無残に殺された人の死骸だった。
何なんだこれは!? 俺は驚きの余り呆然としてしまう。
死体の中には原型を留めていない物もあり、内臓がはみだした死体や、身体の部分がバラバラになっている死体もあった……。
一体、何に襲われたというのか? 獣か? それとも盗賊か?
俺は恐怖で身震いをした。
「まさか、こんな場所で死体に遭遇するとはな……」
「ああ、全くだ!」
俺の呟きに、ゴードンは同意するように返事を返した。
2人も驚いているようで死体を見て青ざめている。
「この先に恐ろしい物でもいるのか……」
「迂回するか?」
「いや……このまま進んで行こう……」
俺達は死体を調べていく。あたり一面には血と内臓の匂いが充満していて吐き気を堪えながら必死で調べる。
しかし、何も手がかりになりそうな物は見つからなかった。
「チッ、何もないな……」
「先を急ごう……」
「そうだな……」
俺達は再び馬車を進めようとしたその時だった。
「ぎゃ――――!!」
突然、男の悲鳴が聞こえてきたのだ。
「何だ!?」
俺達は周囲を見渡す。
すると、少し離れた茂みに男が倒れていて喉を嚙み切られていた。
その近くには、巨大な狼が立っていた。
「何だこいつ……狼なのか……?」
俺は驚愕した。こんな大きな狼なんて見たことがないぞ……。
しかも、全身真っ黒だ。
俺達は慌てて武器を抜き構えるが、狼はこちらを威嚇して一睨みすると森の奥へと消えていった。
「何だあいつは……?」
俺は動揺しながら呟く。
すると、ハーキースが俺に声をかけてくる。
「あの狼はヤバいな……」
「確かにあんな大きな奴は初めてだ……」
「ああ、とにかく急いでここから離れようぜ……」
「分かった……」
俺達はすぐにその場から離れた。
しばらくしてから振り返ると、そこにはもうあの黒い狼の姿はなかった。
「危なかったな……」
ゴードンが息を整えながら言う。
「ああ、あの時は生きた心地がしなかったな……」
俺はそう言って、あの時の状況を思い出していた。
「あの黒い狼は何者なんだろうか……」
俺は疑問を口にする。
「さあな、ただの狼かもしれないし、あるいは魔物かもしれん……」
「魔物なんて伝説やおとぎ話でしか聞いたことないぞ……」
「俺だってそうだ。もしかしたら存在しているかもしれんな……」
「……」
しばらく沈黙が続く。時は夕刻を迎えていた。
そして、俺は馬車に乗りデムイの町を目指して進み始めた。
3人の女達は相変わらず黙ったまま俯いている。さっきの光景を見たせいか、誰も口を開こうとはしない。
俺は気まずくなり話題を探した。
そうだ……魔女の疑いをかけられるということは、どんなことをしたんだろうか?
「ところで、何で魔女の疑いをかけられたんだ?」
3人の女達に訊いてみた。
すると、1人の女が口を開く。
「私は無実よ……」
3人の女達の中で一番年上の女はそう言った。
どうやら、この女は魔女じゃないということらしい。他の2人はどうだろうか?
「おい、お前達は何の疑いを掛けられたんだ?」
双子達に訊いてみる。
すると、2人は顔を見合わせてから答えた。
「私達は何もしてないわ……」
1人の若い娘が答える。
「でも、魔女狩りの時に魔女のふりをしたのよ……」
「そうね……」
「えっ!?」
俺は呆気にとられる。
「ちょっと待て! それはどういうことだ?」
俺は思わず大声を出してしまった。
「そのままの意味よ……」
「魔女のふりをしておけば、魔女として捕らえられるからよ……」
「何でそんなことをしたんだ!?」
「仕方がなかったのよ……」
「……」
俺は言葉が出てこなかった。
どうやら、この3人の女達は何か訳ありのようだ……。
俺はそれ以上追及するのをやめることにした。
「そうか……」
俺はそれだけを言うと、また沈黙の時間が続いていった。