第29話 ランシーヌの到着

文字数 2,442文字

 激しい爆発音がして 広間に、兵士が慌てふためきながら入って来て、アンドレアに報告していた。


「何があったと言うのだ!?」

「分かりません。いきなり、門の方で爆発が起こりました……」

「何だと!?」


 アンドレアは怒りを露にし、兵士を怒鳴り付けた。


「何をしている! すぐに調べに行け!」

「はい!」


 兵士は急いで城から出ていったのである。

 アンドレアは舌打ちをしながら、姉弟に指示を出した。


「貴方達! 一緒に来なさい!」

「はい!」

「はい……」


 アンドレアは、シャイラとダリルを連れて、兵士の後を追うように館の外に出ていったのだった。


 地下にいた俺は、アレシア達と共に階段を駆け上がり、地上に出た。

 そこには、爆発により兵士達の死体が転がっていたのである。

 爆発により兵士達の中にはバラバラになっていた死体もあった。

 破壊された門から1人の女性と、その周りを無数に飛ぶ火の玉のような物が出て来た。


「やっと来たな……、ランシーヌ!」

「ラドリック、遅くなったわね……」


 ラドリックとランシ―ヌは互いに見つめ合っていた。

 そして、俺は彼女の周りにいる火の玉に視線を向けて怪訝な表情をしてしまった。


「ところで、周りを飛んでいるのは何なんだ?」

「これは、私が召喚した物よ」

「……?」

(何を召喚したのか?)


 俺は不思議に思っていた。

 火の玉は、危険な光を伴って今にも攻撃してきそうな勢いであった。


「それは、一体なんなんだ?」

「説明をしている暇はないわ。早くしないと、アンドレアが来るわ!」

「そうだな……」

「さあ、行くわよ!」

「待て!! アンドレアの元には行かせないぞ!!」


 クレムがランシーヌに叫んだ。


「うるさいわね……」


 彼女は不機嫌そうにクレムを睨んだ。


「お前にアンドレアを殺されたら大変なことになる……」

「そんなこと私には関係ないわ……」

「貴様ぁー!!!」


 クレムは激怒し剣を構えて、ランシーヌに攻撃しようとした。


「さうはさせるか!!」


 俺はクレムの前に立ち塞がった。


「邪魔をするな!」

「悪いが、俺も彼女が倒されるのを黙って見ているわけにもいかないんでな……」


 しかし、言ったはいいがクレムは剣を構えていてるのに対して、俺は何も武器を持っていなかった。


「剣もないくせに! お前から先に片付けてやる……」

「ラドリック! これを……!!」


 ランシーヌはクレムの屋敷から俺の愛用の剣を持ってきてくれて、俺に向かって投げ込んだ。


「ありがたい……」

「礼はいらないわ……。その代わり、必ず勝ちなさい!」

「ああ……」


 俺は剣を受け取り、鞘から抜き放った。


「俺が相手をする!!」

「お前と戦う時が来るとはな……」


 クレムが神妙な顔つきで、左右の手に剣を構えた。


「いくぞ!」

「こい!」


 俺とクレムの戦いが始まったのである。


 ランシーヌがアンドレアの館を襲撃した頃、双子の姉であるミラは外で爆発音が聞こえていた時からシャイラの魅了の能力から解放されていた。

 彼女は外で戦闘が始まっていることに気が付き、慌てて服を着ている兵士達の背後を襲い次々と殺害していったのである。

 ミラが兵士を殺した後、まだ魅了されて虚ろな表情の妹を介抱していた。


「しっかりしなさい!」

「お姉ちゃん?」

「そうよ! 目を覚まして!」

「私はいったい?」

「私達は操られていたのよ……」

「えっ!?」

「私は吸血鬼だから魅了に対して、ある程度抵抗できたので、すぐに解けたのよ……」

「ありがとう! お姉ちゃん!」

「気にしないで……」

「でも、外で何が起こったのかしら?」


 外からは兵士達の騒いでいる声が聞こえていた。


「恐らく、ランシーヌの仕業でしょう……。急いでここから出ましょう……」

「分かった……」


 ミラとニアは服を素早く着て、外に向かって走っていった。


 その頃、ランシーヌは門から中に入っていき、中庭にいる兵士達に向かって火の玉を飛ばしていた。

 彼女の周りを飛んでいた火の玉が、兵士達目掛けて一直線に飛んでいき爆発を起こしていた。


「ぐあっ! 熱い……」

「助けてくれぇ!!」

「ぎゃあぁぁぁ!!」


 兵士達は悲鳴を上げながら爆発に飲み込まれ消し炭になり死んでいった。

 生き残った者は戦意を喪失して逃げ惑っていたのである。


「これで、だいたい片づけたかしら?」


 ランシ―ヌは辺りを見回しながらアンドレアを探していた。

 そして、爆発音を聞いて中庭にやって来たアンドレア達は、目の前に広がる光景を見て驚愕していたのである。


「何だこれは!?」

「兵士達が黒焦げになっている……」

「人の焼け焦げた匂いがするわ……」


 アンドレア達の周りは兵士の死体だらけだった。

 爆発の煙の中からランシーヌが出て来たのだ。


「この者達を倒したのはお前なのか!?」

「そうよ!」

「そうか……。お前がウィルオウィプスを召喚したのだな……。お初にお目にかかる。私がアンドレアだ」

「知っているわよ……」

「では、貴女の名は?」


 アンドレアは微笑みを浮かべながら問うていた。


「ランシーヌよ!」


 ランシーヌも不遜な笑みを浮かべながら名乗っていた。

 アンドレアとランシーヌは互いに見つめ合い不気味に笑っている。

 しかし、アンドレアの後ろから、シャイラとダリルが現れて姉弟は、ランシーヌに殺気を放っていた。


「貴方達が、私の相手かしら?」

「そうだ!」

「殺す!!」


 2人とも怒りの形相をして、今にもランシーヌを襲撃しようとしていた。


「雑魚は、どうでもいいわ……」


 ランシーヌは2人を無視して、アンドレアだけしか見えていないようであった。


「おい! 無視するのか!!」


 ダリルは怒声を上げて、ランシ―ヌに向かって走り出した。


「弟よ! 待て!!」

「うるさい!! 姉さん!」


 ダリルはシャイラの制止を振り切り、ランシ―ヌに襲い掛かかろうとした。


「貴方達の相手は私達よ!」


 背後から声が聞こえて来てダリルは足を止めた。

 その声は双子の姉のミラの声であった。

 そして、ミラとニアはアンドレア達の後ろに立ち塞がり、戦闘態勢をとったのである。
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