第43話 騎士の兄弟

文字数 2,709文字

 ランシーヌとシャイラが兵士の所に歩いて行くと、兵士達は警戒して彼女達を睨みつけていた。


「何だお前ら?」


 彼等のリーダーと思われる、兵士が2人に話し掛けた。彼女達は足を止めて答えたのだ。


「私達は旅人よ……。この門を通りたいの……」


 ランシーヌが言うとリーダーの兵士が彼女達に剣を向けてきたのだ。


「通行証はあるか?」


 兵士が言うとランシーヌが答えた。


「ないわ……」

「なら通せないな……。ここは、通行証がなければ通れないのだぞ」


 リーダーの言葉にランシーヌは笑みを浮かべて言った。


「あら、それなら彼女を見てみれば……」


 そう言われて、兵士達はシャイラに顔を向けていた。


「何だ? この女がどうしたんだ?」


 リーダーが言うと、シャイラは兵士達に向かって毒々しい笑みを浮かべたのだ。すると、兵士達の目付きが変わったのである。


「……」


 兵士達は顔付きがボーっとするようになった。全員、彼女を見つめているのだ。

 暫くすると、シャイラは兵士達に話し掛けた。


「ここを通してくれる?」


 兵士達は皆、彼女に魅了されて言う通りにしていたのである。


「ありがとう」


 彼女は礼を言うと、兵士達はランシーヌと馬車に乗っている俺達を通したのである。


「凄いわね……シャイラの能力……」


 馬車の中でニアが呟いた。そして、彼女はシャイラに話し掛けていた。


「凄いけど……本当に大丈夫なの?」


 そんなニアの心配をよそにシャイラは平然と答えていた。


「大丈夫よ……。魅了した人達は普通に仕事を続けるわ……」


 そんなシャイラにミラが話し掛けた。


「でも、もし魅了が解けて私達を追跡しにきたらどうするの?」


 この質問にも彼女は平然と答えたのだ。


「それはないわ……。魅了が解けたら、その記憶がなくなっているもの……」


 彼女の言葉を聞いて、俺と双子達は納得していた。

 そして、馬車はブリーストンの街の中に入って行ったのだ……。


 俺達がブリーストンの街中に入って行くと、街は厳戒態勢だった。

 国境の町なので、隣国との紛争に備えて警戒しているのだろう。

 町の中にも兵士が多くいたのである……。俺達は無事に馬車と馬を預かってくれる所を見つけて預ける事にしたのだ。

 そして、厩舎を紹介してもらってから、宿に向かったのだ。

 宿に泊まる事で安心して寝られる場所を確保する事ができたのは幸運だった。

 俺達は宿の部屋に入り、そこで今後の事を打ち合わせをする事になったのだ。


「盗賊団の頭が、この町にいる魔女から力を貰ったわけだが……ランシーヌ、君は魔女の気配を感じているのか?」


 俺が尋ねるとランシーヌが頷いていた。


「ええ……。何処からか魔女の気配を感じるわ……。それが何処なのかは分からないけど……」


 彼女は神妙な顔で答えていた。


「そうか……。やはり、この町にいるんだな……」


 俺が言うと、ランシーヌが頷いていた。


「ええ……。この町にいるのは間違いないわ……。情報を集めて行くしかないわね」


 俺達はブリーストンに滞在して、魔女の探索を行う事になったのだ。


 その頃、ブリーストンの町の外で隣国との小規模の衝突が発生していた。

 小数の軍隊が国境を越えて、こちらに向かって来ていると云うことだった。

 それを知った常駐している騎士団の一部が、早速、出撃したのだ。

 小競り合いが発生している時は、兵士達の消耗を押さえるため傭兵達が先に出撃する。

 だが、ひときわ率先して出馬する騎士達がいた。

 アニウスとオトフリートである。彼等は兄弟でもある。

 アニウスは騎士隊長で、オトフリートが副隊長であった。

 2人共、長身でアニウスは長髪でオトフリートは短髪で顎髭を生やしていた。

 兄の方は鎧の上に青色のサーコートを着て、弟の方は赤色のサーコートを着ていたのである。

 年齢も兄の方が30代前半、弟の方は20代後半と見られた。

 2人は馬に跨って荒涼とした地を先頭に立って進んで行く。そして、出撃した傭兵達も後に続いていた。


「兄貴! 今日は何人ぐらい殺すんだ?」


 オトフリートが先頭を進んでいる兄に向かって声を上げた。彼等は隣国との衝突が起きる事を待ち侘びていたのだ。


「さあな……。とりあえず、奴等を皆殺しにすればいいんだよ! そうすりゃあ、当分は攻めてこなくなるだろ?」


 アニウスが答えるとオトフリートが頷いていた。


「そうだな!」


 2人は馬を並べて会話をしながら進んでいたのだ。そして、暫くすると隣国から雇われた数十人の傭兵達と出くわしたのである。


「おい! お前等、その人数で侵攻してきたのか?」


 オトフリートが敵の傭兵達に話し掛けると、先頭にいた男が答えた。


「まさか……。俺達は傭兵だ、無駄死にはしない。相手の戦力の手の内を調べに来ただけだ……」

「なるほど……。だが、その人数で俺達に勝てると思っているのか?」


 オトフリートが問い掛けると傭兵のリーダーがニヤッと笑った。


「ああ……。俺は金さえ貰えればそれでいいからな! お前等を殺して、金を受け取るだけだ!」


 傭兵のリーダーは答えると、他の傭兵達も剣を抜いて戦闘態勢に入ったのだ。


「そうか……。それなら、お前等全員殺してやるよ!」


 オトフリートも満面の笑みを浮かべながら馬から降りた。そして、アニウスも馬から降りて剣を抜いていた。


「兄貴! どっちが多くの敵を倒すか競争しようぜ!」


 オトフリートが言うと、アニウスは笑って答えた。


「いいだろう……。俺が勝ったら、酒代は全てお前持ちだからな!」

「ああ! 俺は絶対、負けないぜ!」


 2人は会話を終えると傭兵達に向かって走り出していた。


「行くぞ! 野郎ども!」


 オトフリートが号令を掛けると傭兵達は襲いかかって来たのだ。そして、2人も剣を抜いて傭兵達と戦い始めたのである。

 彼は傭兵達の斬撃を軽々とかわして、剣で相手を斬り捨てていた。彼の持つバスタードソードは普通のロングソードより長いのでリーチが長かったのだ。その為、彼は不利な間合いでも有利に戦えるのである。

 一方、アニウスの方はリーチは少し短いが、ロングソードで傭兵達を斬り捨てていた。

 彼等は笑いながら敵を斬り捨てていったのだ。

 そして短時間の間に敵の傭兵達が全滅していた。傭兵達の死体がゴロゴロと重なり合っていたのである……。


「おいおい……。兄貴より俺の方が倒した数が少ないじゃないか?」

「フン……。お前が弱いだけだ! 今日はお前の奢りだからな!」

「わかったよ……。なら兄貴は休んでいてくれよ! 俺が殺すからさ!」


 オトフリートが豪快に笑いながら言うと、アニウスは得意げな笑みを浮かべていたのである。

 それから、2人は再び馬に乗って町へと帰って行くのだった……。
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