第19話 旧友との再会

文字数 2,543文字

 俺達は馬車で占い師が言っていた魔女が居るというネスコーの町に向かっていた。

 ネスコ―まではヤルトンから2日程かかるということだった。

 2日目の道中で、ランシーヌは御者台に座り俺の隣にいる。

 馬の手綱を握っていると、ランシーヌが俺に声を掛けてきた。

 ちなみに、ミラとニアは荷台の中で休んでいた。

 俺は、手を止めてランシーヌの方に振り向いたのである。

 彼女の美しい黒髪が風になびいていた。

 そんなランシーヌは、微笑みながら俺の顔をじっと見つめていたのだった。


「どうしたんだ?」


 そう聞くとランシーヌは嬉しそうな笑顔を浮かべて言ったのである。


「あなたと一緒に旅が出来て嬉しいのよ」

「そうなのか?」

「えぇ……。だって、魔女として目覚めて初めて出来た守護者であり友達だもの……」

「友達ねぇ……」


 俺は苦笑いをして呟いた。

 そんな俺にランシーヌは不満そうな表情を見せると、


「何よ! 私と友達になるのは嫌なの?」

「いや……そういうわけじゃないんだが……」

「だったら、もっと喜びなさいよね……」


 そう言いながら、ランシーヌは俺の腕に抱きついてきた。

 豊満な胸を押しつけられ、俺の鼓動は早くなったのである。


「ちょっ! 離れてくれって!!」


 俺が慌てて引き離そうとすると、ランシーヌは俺を睨んできた。

 その目は、まるで獲物を狙う肉食獣のように鋭く光っているように見えた。


「私達、これからずっと一緒に居るのだから、仲良くしないとね?」

「それは、わかっているよ……」

「それとも、私にこんな事されるのは迷惑?」


 いかにも拒んだら何かされそうな目付きで睨んできたのである。


「いや、別に……」

「じゃあ、いいじゃない!」


 そう言って、ランシーヌはさらに強く抱きしめてきたのであった。


「わかった!! わかったから離れてくれ!!」

「もう、仕方がないわね……」


 やっと諦めてくれたようで、渋々と俺から離れると頬を膨らませ拗ねたようにそっぽを向いてしまったのであった。

 俺は、ホッとして再び手綱を握った。

 すると、ランシーヌはチラッと俺の方を見ると小声で囁いたのである。


「……いつか必ず、あなたを私の男にしてやるわ……」

「ん? 何か言ったか?」

「ふふふ……何でもないわよ……」


 ランシーヌは妖艶な笑みを浮かべながら惚けたのであった。


 それからしばらくして、ようやくネスコーの町が見えたのである。

 この町は、ヤルトンと比べると小さな町で、人口も少なく閑散とした町になっていた。

 町の入口に着くと、そこには検問所があり兵士が立っていて通行人をチェックしていたのである。

 そして、兵士の1人がこちらに向かって歩いてきた。


「この町へは何の目的で来た?」

「 私達は、旅をしている者ですが……」

「そうか……。身分を証明するものはあるのか?」


 兵士達は俺達の方を見てそう聞いてきた。


「すみません。この辺りに来るのは初めてなので持っていないのですが……」

「そうか……。では、念のため全員を調べさせて貰おう」

「わかりました」


 そう言うと、全員は馬車から降りた。そして、全員の身体検査が行われたのである。

 俺は調べに対して特に怪しいところはなかったようだが、女性陣は兵士達から触られるのを嫌がっていた。

 ランシーヌは、何とか我慢して事なきを得たが、ミラとニアは抵抗して兵士に取り押さえられていた。


「お前達! 抵抗するなら牢屋に入れてやってもいいんだぞ!!」

「ちょっと、止めてよ! あんたらみたいな汚らしい奴らにベタベタと触れられたくないわ!!」


 ミラとニアは必死に抵抗するも、取り押さえられてしまい連行されそうになったのである。

 その様子を見ていた俺は、仕方なく助けに入った。


「おい! 俺の仲間に乱暴はしないでくれ!!」

「なんだ貴様は? 邪魔をするならお前も連行するぞ!!」

「おい!! 何かトラブルがあったのか!?」


 門から1人の男が出て来た。男は、20代後半で顔は整っていて髪が長髪で、背中に剣を2本背負っていた。

 その姿を見て、ミラとニアを押さえつけている兵士が慌てながら報告したのである。


「クレム様! 実は、こいつらが……」

「どうしたんだ?」

「おい! クレムじゃないか!! 久しぶりだな!」


 俺は知り合いの顔を見つけ、嬉しくなって声をかけた。


「ん!? ラドリックじゃないか!!」

「おぉ! 元気だったか?」

「おぉ……って! 今はそれどころじゃないだろう! 一体何が起きたんだ?」

「実は…………」


 事情を説明すると、クレムはミラとニアを解放しろと兵士に命令した。

 そして、解放されるとミラとニアはすぐに俺の後ろに隠れたのである。


「すまないな。ラドリック。ところで、後ろの女性達は誰だ?」

「あぁ、彼女はランシーヌと言って俺の仲間だよ。それと、こいつ等はランシーヌの連れのミラとニアだ」

「そうなのか。まあ、詳しい話は俺の家で聞こう。付いて来てくれ」

「あぁ、分かった」


 俺達はクレムに連れられて、家に向かったのであった。


 俺達がクレムの家に案内される途中、彼は自分のことを話してくれた。


「俺は傭兵を止めて、ここの領主の下で働いているんだ」

「そうなんだ。領主の元で働けるなんて凄いな」

「いや、そんなことは無いさ。ただ、たまたま俺の事を気に入ってくれただけなんだよ」


 そう言いながら、苦笑いをしていた。

 しばらく歩くと、大きな屋敷に到着したのである。


「ようこそ! 我が家へ!」


 そう言って、クレムは家の扉を開けてくれた。


「お帰りなさいませ! クレム様!」


 使用人が頭を下げながら出迎えた。


「今日は、客人を連れて来たんだ。悪いが部屋を用意してくれないかい?」

「かしこまりました。すぐに用意致します」


 そう言うと、使用人は急いで準備をしに行ったのである。


「それじゃあ、ゆっくりしてくれ。食事の準備が出来るまで、部屋で待っててくれないか?」

「あぁ、わかったよ」

「それじゃあ、また後で会おう!」


 そう言って、クレムは仕事に戻って行ったのであった。

 俺達は、そのまま客室に通された。そこは、広く豪華な作りになっていて、ソファーやテーブルなどが置かれていた。

 俺達はとりあえず、ソファーに腰を下ろし寛いだのである。

 すると、扉が開いて若い女性が入ってきたのである。
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