第104話 エヴリンの最後

文字数 3,305文字

「どこにいるの……」


 シャイラは頬骨の下の熱感知器官でエヴリンを捜して動き回っていたのだが、やはり周囲には人の熱源は存在していなかったのである。

 しかし、墓地の入り口から少し離れた林の方へ目を向けると小さな赤い光が2つ見えていたのだ。


「見つけたわ!」


 彼女はそう言うと蛇の下半身で、そこに向かって行ったのである……。



 水晶でシャイラの行動を見ていたカイラニは、こちらに場所に気付いた半人半蛇の姿をした彼女に脅威を感じていたのであった。


「気付かれたか……。しかたがない、あの手を使うか……」


 彼女はそう言うと、水晶を通して自分とエヴリンの周りの空間に結界を張ったのである。カイラニは戦闘向きの能力ではない為、自衛の手段として結界を張る事が出来たのだ。


「これでいいだろう……」


 カイラニがそう言うと、シャイラは林の中に入り熱源を捜し始めたのだ。そして、彼女は2つの熱源がある場所に辿り着いたのである。

 1つは老婆でもう1つは眠りに着いて横たわっていた女性の熱源であった……。


「見つけたわよ!」


 シャイラはそう叫ぶと、カイラニは彼女に憎悪を向けて言ったのである。


「結界を張ったよ……お前は儂等に手を出すことが出来ないね!」

「くっ……!」


 シャイラは目の前の老婆を攻撃しようと、尾で薙ぎ払おうとしたが結界に弾かれたのだ。


「こざかしい真似を……!」


 彼女はそう言うと、老婆に向かって再び尾を振り下ろしたのだが結界によって阻まれてしまったのである。


「くっ……!?」


 彼女は何度も攻撃をしたが結界に全て弾かれてしまうのであった。


「無駄さ……。暫くしたらエヴリンが来るよ……」


 カイラニはそう言うと、隣で横たわっている女性の様子を確認したのであった。エヴリンの本体はスヤスヤと眠っていたのであった。

 シャイラは尾での薙ぎ払いや爪の攻撃で壊そうと試みたのだが結界に阻まれてダメージを与える事が出来なかったのである。


「この結界は簡単に破れんよ……」


 カイラニがそう言うと彼女は悔しそうにして一度引いたのであった。カイラニはそんな様子を嘲笑い言ったのである。


「そこで何も出来ずに見てるといいさ!」


 彼女はそう言うと、結界の維持に集中したのであった。するとシャイラは、何か思いついたのかニヤリと笑うと老婆に話し掛けたのであった。


「ねぇ、お婆さん……」

「ん……!?」


 老婆はシャイラの声に反応すると彼女の方に顔を向けたのである。


「私の目を見てくれる……?」


 シャイラはそう質問すると、老婆は彼女に視線を向けて言ったのである。


「何……?」


 彼女はそう呟くと、シャイラの赤く光る目を見たのである。そして、シャイラはニヤリと笑って老婆に質問したのであった。


「ねぇ、お婆さん……。貴女の結界を解いて欲しいんだけど……」

「……!?」


 老婆は驚きの表情を浮かべたが、暫くすると顔から冷や汗を流しながら彼女に言ったのである。


「け……結界は……と……解かせんよ……」


 カイラニは彼女の魅了の術に抵抗しようと言葉を絞り出したのであった。


「そう……つらそうね……」


 シャイラはそう言うと、カイラニは憎々しげに睨み付けて言ったのである。


「忌々しい……蛇女め……!」


 彼女は歯を食い縛り抵抗していたが、遂に限界がきたのか結界を解いてしまったのであった。


「なっ……!?」


 老婆は苦渋の表情を浮かべるとシャイラは言ったのである。


「どうも有り難う……」


 そう言った瞬間、シャイラは尾で薙ぎ払って老婆を昏倒させると、今度は寝てているエヴリンの本体に尾を巻き付き締め上げたのであった。


「うっ……!?」


 女性は苦しそうな声を上げると、シャイラは彼女に向かって囁いたのである。


「可哀そうだけど……貴女が死なないとオルガは倒せないわ……」


 そう言った瞬間、シャイラは尾に力を込めてエヴリンの本体を締め上げた。


「ぐっ……!?」


 彼女の体が全身からミシミシと嫌な音を立てると、エヴリンは苦悶の表情を浮かべて口から血を吐き出したのである。


「御免なさい……」


 そして、彼女は更に締め上げたのである。すると、遂に本体のエヴリンは骨を砕かれ絶命したのであった……。



 シャイラが結界を張ったカイラニと対峙していた時、双子とベスは幽体のエヴリンから逃げ回っていたのである。


「このままじゃ、こっちの体力が持たない!」


 ニアはそう言うと姉に話し掛けたのであった。


「このままだと、こちらの体力勝負になるわね……」


 ミラがそう言うと、襲い掛かるエヴリンを目で追いながら言ったのである。


「ジンの能力で、あの幽体に攻撃出来る?」


 ニアがそう尋ねると、ベスは首を横に振って答えたのであった。


「無理です……実体ではないので……」


 彼女がそう言うと、ミラは彼女に質問したのである。


「あの本体を攻撃すれば幽体を維持できなくなる?」


 ベスはミラの質問に少し考えた後に答えだしたのだ。


「恐らくそうでしょう……」

「なら、シャイラがやってくれるのを期待するしかないわね」


 ミラがそう答えると、双子はそのまま逃げ続けたのである。そして、ベスはエヴリンを睨み付けて言ったのであった。


「シャイラが本体を見付けてくれればいいんですが……」


 するとニアは彼女に話し掛けたのである。


「大丈夫……。彼女は私達にない能力できっと捜してくれるから……」


 ミラもその言葉に同意する様に頷きながら口を開いたのである。

 そして、彼女達はシャイラが本体を見付けて倒してくれると信じて逃げ続けたのであった。

 体力の続く限り逃げていたのだが、双子は息を切らしていたのであった。


「はぁ……はぁ……」


 ニアはそう言うと、ミラが彼女に話し掛けたのである。


「少し休みましょう」


 彼女はそう言うと、妹と距離を取って立ち止まったのであった。そして、ニアは後方のエヴリンに視線を向けて言ったのである。


「逃げ続ける事しかできないって辛いわ……」


 彼女がそう言った時である、エヴリンは彼女達に追いついて襲い掛かったのだが、つむじ風となったベスが囮となりエヴリンを翻弄したのであった。


「くっ……!」


 エヴリンはベスに翻弄されていると、ミラは妹に駆け出すように言ったのである。


「さあ、今のうちに逃げるわよ!」


 彼女はそう言うと、ニアと別れて逃げようとしたのだが背後にいるエヴリンは逃がすまいと追いかけたのだ。

 ミラは駆け出そうとした時に崩れ落ちた墓標に足を取られてしまい転倒してしまったのである。


「しまった……!」


 彼女は急いで立ち上がろうとしたのだが、エヴリンは彼女に襲い掛かったのであった。そして、ミラは彼女のすり抜け攻撃を受けたのだ。


「うっ……!?」


 2回目の攻撃を受けて彼女は更なる強烈な倦怠感と疲労感に襲われ倒れ込んだのであった。


「こいつ……!」


 ミラはエヴリンを睨んでいたが、立ち上がる事は出来なくなっていたのである。

 そして、再び3回目のすり抜け攻撃が襲って来たのである。彼女は死を覚悟して目を瞑ったのであった……。

 その時である、突然ミラの目の前のエヴリンが苦しみだしたのである。


「グアァァァ……!?」


 彼女は悲鳴を上げると、首に手を当て藻掻き苦しんでいたのだ。ミラは状況が理解できずに困惑していると、そこにベスが現れて言ったのである。


「シャイラが本体を見つけたんです! ミラ!」


 彼女はそう言うと、呆然としているミラに手を貸し起き上がらせて言ったのである。幽体のエヴリンは段々、姿が霞んでいき消えていったのであった。

 そして、墓地の入り口辺りからシャイラが悠然として歩いて来たのであった。


「シャイラ……。やったのね……」


 ミラがそう呟くと、ベスはシャイラに話し掛けたのである。


「やったのですね……!」


 ベスの質問に彼女は答える代わりにエヴリン本体の死体が横たわっている場所を見て言ったのである。


「ええ……倒したわ」


 そして、ミラはシャイラに視線を向けて言ったのだ。


「貴女のお陰よ……ありがとう」


 ミラは疲労困憊でベスに支えられながら、感謝の気持ちを述べたのである。そして、彼女達は上空でこちらの様子を見ている魔女達の出方を入念に眺めていたのであった……。
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