第34話 魔女対魔女

文字数 2,450文字

 その頃、ミラはシャイラの血を吸って眷属化していた。

 血を吸った後、離れた所でランシーヌが魔物と戦っている様子を見て驚いていた。

(あの魔物は、何なの? あれは……)

 ミラが驚愕していると、ランシーヌが魔法の炎で攻撃し始めており、その炎がキマイラの体に燃え広がっていったのだが全く効いていないようであった。

(そんな馬鹿な……)

 ランシーヌが魔物から一方的に襲われている光景を信じれられないといった表情で見ていた。

(このままでは、まずいわね……)

 そう思ったミラは、ランシーヌを助ける為に行動を開始したのだ。

 そして、気を失っているシャイラに向かって命令したのだ。


「アンドレアを襲いなさい!!」


 すると、シャイラは目を覚まして起き上がるとアンドレアに向かって飛び掛かっていったのである。


「何!?」


 突然の事に驚きの声を上げたアンドレアだったが、すぐに冷静になるとキマイラに迎撃させたのだ。

 キマイラは、鋭い爪でアンドレアに向かって来るシャイラを引き裂こうとしたのだが、それを躱されてシャイラの主人に肉薄していた。


「まさか、シャイラが操られるとは……」


 アンドレアは動揺していたが、すぐに冷静さを取り戻すと呪文を唱えた。


「我に立ち向かう者を凍て付く寒さで……凍えよ!」


 魔法を発動すると、凄まじい冷気がシャイラを襲い一瞬で氷漬けにしたのだ。

 だが、その時アンドレアが冷気の魔法を放った時、キマイラが一瞬、狼狽えたのをランシーヌは見逃さなかった。


「よくも我が守護者を支配したな!」


 アンドレアは、怒りの表情を浮かべていた。


「死ね!! 仇名す者に裁きの雷を喰らわせよ!」


 彼女は、ミラに向けて電撃の魔法を放ってきた。


「きゃあぁぁ!!」


 ミラは、全身を痙攣させて悲鳴を上げた後に失神してしまった。

 アンドレアは、邪な笑みを浮かべながらミラに近付いていった。

 倒れているミラを見下ろすと彼女の体を足で踏みつけたのであった。


「うっ……。うぅ……」


 気を失ったまま、踏みつけられているミラを案じてニアは、アンドレアに叫びながら体当たりをした。


「止めて――!!」


 しかし体当たりに対して魔女は泰然としていた。


「邪魔だ!」


 アンドレアは冷たい視線でニアを見ると、拳でニアの顔面を殴りつけたのである。


「ぎゃっ……!!」


 ニアは口内を切って口から血を吐き出し、そのまま床に叩きつけられた。


「ニア!!」


 ランシーヌは、双子の妹に叫んだが、キマイラが邪魔して近付けなかったのである。

(このままでは……)

 焦燥感に駆られて思考がまとまらなかったのだ。

(何とかして2人を助けないと……)

 彼女は必死に考えていた。彼女の脳裏に浮かんでいたのは、キマイラの弱点である冷気の事であった。

 考えているとキマイラが吠えて威嚇してきた。


「くっ……」


 ランシーヌは、キマイラの咆哮に怯んでしまった。

 その隙を付いてキマイラは、爪で彼女を斬りつけようとしたのである。

 辛うじて躱したが体勢が崩れてしまった。

 その隙を狙っていたかのようにキマイラは、再び彼女に飛び掛かってきた。


「しまった!?」


 叫ぶと同時に鋭い爪が振り下ろされて、彼女の左肩を斬り裂いていたのだ。


「うぐぅぅ!!」


 激痛が走り、血が噴き出してきた。

 そして、キマイラは更に攻撃を加えようと追撃してきたのだ。

(まずいわ!)

 ランシーヌは、何とか躱すが肩の傷は深かったのである。

(このままだと……)

 その時であった。ランシーヌは、冷気の呪文を唱えていたのだ。


「凍える冷気よ! 我が敵を覆いつくせ!」


 ランシーヌが呪文を唱えた瞬間、キマイラの足元から白い霧が発生して包み込んだのである。そして徐々に体を凍らせていったのだ。

 キマイラは苦しみながら暴れていたが、暫くすると完全に凍り付いてしまい、そのまま砕け散って氷の結晶になってしまったのだ。


「やったわね……」


 安堵するとアンドレアを指さして、


「次は貴女の番よ!! 覚悟しなさい!!」


 アンドレアは、信じられないといった表情で結晶の破片となったキマイラを見詰めていた。


「まさか……こんな展開になるとは……」


 そして、ランシーヌとアンドレアの戦いが始まったのだ。


 2人の魔女はお互いに対峙し、これからの戦いに身構えていた。


「貴女も不死身よね?」


 突如、ランシーヌはアンドレアに質問してきたのだ。


「もちろん、そうだ……」


 アンドレアも、当然の様に答えた。


「それなら、お互い魔法を防御するような真似はしないで戦わない?」


 ランシーヌの提案に、アンドレアは一瞬躊躇したがすぐに笑みを浮かべて承諾した。


「いいだろう……。防御は無しだ!」


 2人は同時に呪文を唱え始めていった。


「出でよ全てを焼き尽くす灼熱の炎よ!!」

「あらゆる物を焼き尽くせ紅蓮の業火よ!」


 2人は同時に魔法を放ったのだ。その瞬間、炎と炎がぶつかり合い爆発した。その爆風により、2人とも後方に吹き飛ばされてしまった。


「くぅぅ!!」


 飛ばされた後、彼女はアンドレアの力に驚愕していた。

(何て魔力なの……)

 一方、アンドレアは吹き飛ばされながらも直ぐに体勢を整えていたのだ。

 ランシーヌと距離が離れた為か、追撃してくることはなかった。

 2人は互いに睨み合っていたが、また同時に魔法を放とうとしていたのである。


「貫く魔法の矢よ! 相手に降り注げ!」

「全てを切り裂く風の刃よ! 敵を切り刻め!」


 2人は同時に魔法を放った。その瞬間、無数の風の刃がランシーヌを襲ったのである。


「うぐぅ!!」


 ランシーヌは、全身を切り裂かれて血塗れとなっていて足元には血溜まりが出来ていた。

 だが魔法の矢もアンドレアの体を貫いていたのであった。


「ぐはっ!!」


 彼女の方は多数の魔法の矢の跡から出血し、おびただしく血を流していた。

 2人は痛みで顔を歪ませていたが、戦いは終わらなかったのである。


「まだよ!! これで終わりじゃないでしょ!?」

「当然だ!! 舐めるな!!」


 2人の戦いは更に激しさを増していったのである。
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