第9話 九、富士川に黄なる紙の除目
文字数 474文字
冨士川というのは冨士の山より 落ちた水である。その国の人が出て来て語るには、「先年のこと、他所に行っていたときのこと、とても暑い日だったので、この川の傍で休んでいると、ふと川を見ると、川上の方から黄色い物が流れて来て、物に付いてとどまっていた。よく見ると、それは反古紙であった。川から、その古紙を取り上げ、見ると、黄色の紙で、朱色の筆で、濃く麗しく書かれていた。何かと見ると、来年の国司が任官されるべき国どもを、除目として全部を書いて、この駿河の国の来年の空くべき席も、守を任命して、また添えて二人を任命してある。おかしいと不思議に思い、取り上げて、干して、納めていたのだが、翌年の司召しには、この文に書かれたものが、見事に、一つとして違わず、この国の守となり、黄色の紙にかかれたままになったのだ。三月のうちに、その人は亡くなり、又なり代わった人も、この傍らに添え書きされた人であった。このようなことがあった。来年の司召しなどは、今年、この山に、多くの神々集まり、お決めになり給うのだろう思料したのであります。珍しい事でございました」と語っていた。