第43話 四三、母と清水寺詣で
文字数 468文字
こんなふうに、所在なく世の中を眺めるなどしている間に、物詣でもしなかったのだろうか。母はとても昔堅気の人なので、初瀬には、「ああ恐ろしい、奈良坂で人に捕らわれたりしたらなんとしよう。石山寺は、関山を越えて行くなど恐ろしいことだ。鞍馬は、猿が山に出て来るし、とても恐ろしい。父親が上京して戻って来たならば、ともかくも」と、私のことを放っておく人のようで、煩わしがって、わずかに清水寺に連れて行って籠った。それに、例の私の癖のせいで、真剣に御願いすべきことも事も、思いを申しあげる気にもならない。
彼岸の時期なので、やたら騒がしく恐ろしく思えて、お寺でうとうとと居眠りしていたところ、仏前の御帳の方の犬防ぎの内側に、青い織物の法衣を着た、錦を頭にも被り、足にも足袋を履いた僧で、別当と覚しき人が近寄ってきて、「ゆく末が哀れなることも知らず、そのようなとりとめもない事をのみ考えて」と、不機嫌そうに言った後、御帳の内に入って行った。そんな夢を見て、驚き、「このようなことを見た」と母にも言えず、心にも思いとどめずに寺から出て行ってしまった。
彼岸の時期なので、やたら騒がしく恐ろしく思えて、お寺でうとうとと居眠りしていたところ、仏前の御帳の方の犬防ぎの内側に、青い織物の法衣を着た、錦を頭にも被り、足にも足袋を履いた僧で、別当と覚しき人が近寄ってきて、「ゆく末が哀れなることも知らず、そのようなとりとめもない事をのみ考えて」と、不機嫌そうに言った後、御帳の内に入って行った。そんな夢を見て、驚き、「このようなことを見た」と母にも言えず、心にも思いとどめずに寺から出て行ってしまった。