第2話 二、仮茅葺の家で、しとみ戸なし(いかだ)

文字数 703文字

 門出して移った所は、巡り塀なども無くて、かりそめの茅葺の家で、しとみ戸などもない。簾を掛けたり、幕など引いたりしてある。南側は遠くに野原を見ることができる。東西は海が近くにあり、とても面白い。夕霧が立ち渡り、趣があるので、朝寝などもしないで、あっちこっちを見ながら、ここを立って行くことも、名残惜しく悲しいのに、同月十五日、雨か暗くなるほど降るなかを、国境を出て、常陸と下総の国境といふ所に泊った。泊まっている庵なども浮きあがりそうな程の雨降りなので、恐ろしくてとても寝られなかった。野原に岡のような所があり、ただ木が三本だけ立っている。その日は雨にぬれたる物ども干し、国から出発が遅れている人々を待つということで、 そこで一日を暮らした。
※1008年生まれだから1022年の14歳の頃、引っ越しの状況を詳しく書かれている。この平安時代の貴族の引っ越しは、一般的ではなく、ホテルのなく列車や車もない。牛の曳く車での移動は、人が歩くくらいの速度だろう。房総半島の市原を出発し20キロ行ったところだろうか。西の東京湾が見え東は太平洋。自然の景色は、変化もあり面白そうだ。宿泊場所はかやぶき屋根で壁もなく簾や幕を引いた家。雨露を避ける程度の家だったのだろうか。付き添いの下男などは、外でどうやって寝ていたのだろうか。雨などが降る中を歩くときは、麦ワラで作った合羽のような蓑を背中に、頭に菅笠を被り歩いたのだろう。市原駅の前にある作者の姿は菅笠を被り和装の道中着のようなものを着ている。旅は雨風を忍びながらの、辛い体験なのだろうが、前向きな考えで、珍しいものを見て聞いて、自分の中へ消化していったような趣である。

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