第82話 八二、ふるさとに一人 ー完ー

文字数 251文字

 歳月は過ぎ移り変わってゆくのだけれど、夢のようであった色々なことを思い出すと、気も心もそぞろとなり、目の前が真っ暗になるような気がするし、その当時の事は、もうはっきりとは覚えていない。
 人々は、皆な他の所に住み別れていってしまい、長年暮らしたところには私一人。心細くて悲しく、物思いにふけりながら夜を明かす。長らく訪れて来ない人に、
   「茂りゆく蓬が露にそぼちつつ人に訪われぬ音をのみぞ泣く」
歌を送った人は尼になった人であった。
「世の常の宿の蓬を思いやれそむきはてたる庭の草むら」

     ー完ー
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