第30話 三〇、 念佛、ホトトギス 

文字数 407文字

 念仏をする僧が、暁に額を地につけ礼拝する音が尊く聞こえるので、戸を押しあけたところ、ほのぼのと明けゆく山際は、まだ暗い木々の梢に霧がわたっており、花や紅葉の盛りよりも、なんとなく木々が茂りわたれっているような空の景色が、曇りかげんで趣があるうえに、ホトトギスまでが、すぐ近くに梢に留まり何回も鳴いている。
「誰に見せ誰に聞かせむ山里のこの暁もおちかへる音も」
この月末に、谷の方の木の上に、ほととぎすが、かしましく鳴いている。
  「都には待つらむものをほととぎす、ここではひねもすに鳴き暮らすかな」
などと、眺めていると、一緒にいる人が、「ただ今、京にてもホトトギスを聞いたと言う人がいただろうか。こんなふうに私たちが、眺めているだろうと思い起こしてくれる人があるだろうか」などと言って、
  「山深く誰か思いはおこすべき月見る人は多からめども」
と言うと、
  「深き夜に月見る折は知らねどもまづ山里ぞ思いやらるる」
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