第78話 七八、悲しげな鏡の影

文字数 351文字

 昔より、よしなき物語や、歌のことをだけを心に留めていて、夜昼、仏道修行をしていたならば、こうような夢のようなはかない世を見ずにすんだだろうに。初瀬に以前、参籠したとき、「稲荷より賜わった霊験のある杉ですよ」と言って、投げ出されたのを、夢に出てきた。その時に、稲荷に詣でていたならば、こんなことにはならなかっただろう。
 長年、「天照御神を念じたてまつれ」と見た夢は、私が高貴な人の御乳母になり、内裏あたりに出仕し、帝、后の御影を被るさまをのみを、夢解きも判断したのだけれども、そのことは一つとして叶わないで止んでしまった。ただ悲しげなりと見た鏡の影のみが当たっていた。あわれに心憂しことである。こんなふうに心に思った事が叶わずに終った私なので、功徳も作らず、なにもしないまま日々をむなしく過ごしている。
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