第４７話　四七、吾妻より父帰る　

　吾妻の方に下った父親が、かろうじて京に上って帰ってきた。西山にある家に落ち着いていた。そこに家族一同が引き移って行くことになり、対面したとき、心から嬉しく思われ、月の明るい一夜を、いろいろ物語などをして、
「かかる世もありけるものを限りとて君に別れし秋はいかにぞ」
と詠うと、父は感極まって泣いて、
　「思うこと叶わずなぞといとひこし命のほども今ぞ嬉しき」
これが別れの門出と、吾妻に下る父が私に言い知らせた時の悲しさよりは、無事に父を待ち迎えたほうが、かぎりなく嬉しのだけれど、「他人ごととして思えてきたが、私も老い衰えて世間に出てお付き合いするのは、おこがましく見えてきた。この機会に私は、引退して、家に閉じ籠もるつもりである」と、老い先短い自分の思いを言いだすので、私は心細さに堪えられぬ思いである。