第40話 四〇、八月太秦参篭
文字数 307文字
八月頃に、太秦に参籠するために、一条大路より参上する道に男車が、二台ばかり引き立ててあり、物見へ行くのに、一緒に行く人を待っているようだ。私の車が通り過ぎて行くと、随身らしい者を寄こして、「花見に行くと君を見るかな」
と言わせてきたので、「このような事は答えないのも、不都合では」と周囲に言われたので、「千草のように色々な心に慣れている秋の野のような人などとは、違います」と言いながら過ぎ去った。
七日も太秦参りをしていても、ただ父のいる吾妻のことばかりが思いやられて、たあいもない事から、かろうじて離れて、「平らかに父に逢わせて見せ給へ」とお祈り申しあげたので、仏も哀れに思われ、聞き入れさせ給われたのだろう。
と言わせてきたので、「このような事は答えないのも、不都合では」と周囲に言われたので、「千草のように色々な心に慣れている秋の野のような人などとは、違います」と言いながら過ぎ去った。
七日も太秦参りをしていても、ただ父のいる吾妻のことばかりが思いやられて、たあいもない事から、かろうじて離れて、「平らかに父に逢わせて見せ給へ」とお祈り申しあげたので、仏も哀れに思われ、聞き入れさせ給われたのだろう。