第76話 七六、夫が信濃任国へ男の子と共に

文字数 322文字

 夫が二十七日に下向する時に、男の子は父に付き添って下ることになった。紅を打った、萩の裏地、紫苑の織物の指貫きを着て、太刀を腰に佩いて、父の後に付いて歩き出したが、夫も織物の青鈍色の指貫、狩衣を着て、渡り廊下の辺りで馬に乗った。大騒ぎして出発した後、この上なく手持ち無沙汰であるが、それほど遠いところではないと聞いていたので、昔のようには心細く思わなかった。
 見送りに行った人が、次の日に帰ってきて、「素晴らしくきらきら輝くように下って行かれました」などと言って、「この暁の頃、非常に大きな人魂らしいものが立ち現われ、京の方へ飛んで行っていました」と語るのだけれど、それは誰か供の人のことではないかと思う。不吉な予感などとは想像すらしなかった。
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