第27話 二七、姉の乳母(めのと)家を出る

文字数 534文字

 姉の乳母だった人が、「今は何でここに留まっておられましょうか」などと言って、泣く泣く元住んでいた所に帰って行くので、  
「ふるさとにかくこそ人は帰りけれあはれいかなる別れなりけむ」
亡き人の形見として、ここに残していてはいかがでしょうかと思う」 などと言って、「硯の水も凍ってしまうし、皆の胸の思いも閉じられてしまう思いですし、ここで筆を止めます」などと書いて
  「かき流す文字のあとはつららに閉じてけりなにを忘れぬ形見とか見ん」
と書きやりたる返事に、
  「慰むるかたもなぎさの浜千鳥なにかうき世に跡もとどめむ」
この乳母は、姉の墓所を見て、泣く泣く帰ったというので、
  「昇りけむ野辺は煙もなかりけむいづこを墓とたづねてか見し」
これを聞いて継母だった人が、
  「そこはかと知りて行かねど先に立つ涙ぞ道のしるべなりける」
かばねたづぬる宮を送ってくれた人が、
  「住み慣れぬ野辺の笹原あとはかも泣く泣くいかに尋ねわびけむ」
これを見て、兄は、その夜野辺の送りに行ったのだが、
  「見しままに燃えし煙は尽きにしをいかがたづねし野辺の笹原」
雪が、何日も降り続くころ、吉野山に住む尼君のことを思やる。
  「雪降りてまれの人目も絶えぬらむ吉野の山の峰のかけみち」
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