第73話 七三、親しき人筑前へ

文字数 261文字

 同じ気心で、このように便りをかわし、世の中の憂きもつらきもおかしきも、親しく言い語らっていた人が、筑前に下って後、月がことのほか明るい時に、こうした夜は、宮家に参って、あの人に会っては、少しも眠ることもなく、ながめ明かしたものだが、と恋しく思いつつ寝てしまった。宮家に参り逢いて、実際に 昔のように、その人と過ごしている夢を見て、驚いて目を覚ましたところ、夢だった。月も山の端近くに沈む頃になっていた。夢と知っていたら覚めざらましをと、いとどながめられて、
   「夢さめて寝覚めの床の浮くばかり恋ひきと告げよ西へ行く月」
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