第75話 七五、世の中に生きていく

文字数 511文字

 世の中に生きていくために、とにかく心に思うこと全てを尽くし対応しているが、宮仕えにしたところで、もともと一筋にお仕えしていれば、どうだったのだろうか、時々出仕するくらいでは、なんにもならないはずなのに。
 年はやや盛りを過ぎてゆくのに、人中にいて若々しそうに振舞っていても、相応しくないように思われてくるが、私自身の病気も重くなって、心にまかせ物詣でなどしていたのもできなくなったし、たまに出仕することも絶えてきてしまった。長生きできそうな心地もしないので、幼い子供たちの将来も私が世に生きているうちに見定めておきたいと、寝ても覚めても思い嘆き、また頼みとする夫が任官するという喜ばしい時を、心もとなく待ち続けている。秋になって待ちに待った任官をすることが出来たが、思っていた任務先と違い、都に近い所ではなく不本意なことで残念である。
 親の時代より経験しつくした吾妻路よりは、近いように聞いているのだが、どうしようもないと諦めた。間もなく下向する準備も急ぎ整えて、出発する門出には、嫁いだ娘が新しく引っ越した家に、八月十余日に移った。この後のことは知らずに、その門出の有様は、騒々しいいまでに大勢の人たちで活気づいていた。
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