第65話 六五、鞍馬に参籠
文字数 363文字
二、三年、また四、五年と歳月を隔てたことを、順序もなく書き続けていると、引き続いて物詣でに行く修行者のようだけれど、そうではなくて、年月を置いての事である。
春頃、鞍馬に参籠した。山際が霞みがわたり、のどかな時に、山の方より、わずかに野老などを堀って持って来るのも風情がある。帰り道は、花もみんな散りはてており何の趣もないが、再び十月頃に詣でると、道中の山の景色が、この時期は、とても素晴らしく、前回を優るものである。山の端は、紅葉の錦をひろげたようである。ほとばしり流れゆく水は、水晶を散らすように湧き返るなど、どこもなんとも素晴らしい。お寺に詣で着いて、僧坊に行き着いた頃、しぐれに濡れた紅葉が、他に類がないほど美しく見えたことか。
「奥山の紅葉の錦ほかよりもいかにしぐれて深く染めけむ」
と眺め見やったのである。
春頃、鞍馬に参籠した。山際が霞みがわたり、のどかな時に、山の方より、わずかに野老などを堀って持って来るのも風情がある。帰り道は、花もみんな散りはてており何の趣もないが、再び十月頃に詣でると、道中の山の景色が、この時期は、とても素晴らしく、前回を優るものである。山の端は、紅葉の錦をひろげたようである。ほとばしり流れゆく水は、水晶を散らすように湧き返るなど、どこもなんとも素晴らしい。お寺に詣で着いて、僧坊に行き着いた頃、しぐれに濡れた紅葉が、他に類がないほど美しく見えたことか。
「奥山の紅葉の錦ほかよりもいかにしぐれて深く染めけむ」
と眺め見やったのである。