第50話 五〇、まづ一夜宮中へ
文字数 343文字
まずは一夜だけ、宮中へお目見え参上する。菊の模様が入ったが濃く薄い八枚ばかりに絹に、濃く薄い掻練を上に着用した。あんなに源氏物語に心を入れこんでいたのに、それを読むよりほかには行き通う仲間や親類などもなく、昔気質の親たちの影に隠れてばかりいて、月だの花だのを見るよりほかの事はしない習わしだった。それが宮仕えに立ち出でていく心地といったら、何がなにやら分からず、現実とも思われず、明け方には退出してしまった。
田舎者のような世間知らずの私の心持ちは、中々、定められた里に住んでいた頃よりは、面白い事をも見聞き出来るし、心も慰められる。そう思うことも折々あるのだけれど、実際は、体裁悪いことや悲しいことがあるかもしれないと、思うこともあるのだけれど、いかがせんどうにもならないのである。
田舎者のような世間知らずの私の心持ちは、中々、定められた里に住んでいた頃よりは、面白い事をも見聞き出来るし、心も慰められる。そう思うことも折々あるのだけれど、実際は、体裁悪いことや悲しいことがあるかもしれないと、思うこともあるのだけれど、いかがせんどうにもならないのである。