第77話 七七、十月五日夫亡くなる
文字数 467文字
今は、どんなにしてでも若い子供たちを一人前にしたいと、思うよりほかの事はなにも考えずにいた。翌年の四月に夫が上京し戻って来て、そのまま夏秋が過ぎてしまった。
九月二十五日より病気になって、十月五日に亡くなってしまった。夢のようにはかなく見送って思い嘆く心地は、世の中にまたと例のない事のように思える。かつて初瀬に鏡を奉納した時に、倒れ臥して泣いている影が見えたのは、これこそがそうであったのだ。嬉しそうな影があったのだが、来し方に思い当たることが無いような気がする。今からのゆく末は、ますます思いやられる。
二十三日、はかない雲煙のように火葬をした夜、昨年の秋、息子が立派になり装束を着て、かしづかれて、父に付き添って、下って行ったのを見送ったばかりなのに、今日はといえば、なんと黒い衣の上に忌まわしい感じのする喪服を着て、棺の車の供として泣く泣く歩み出て行くのを家の中から見送っていた、昨年のことを思い出すという心地は、全くたとえようが無いので、そのまま夢路にさまよい、思い嘆くのを、あの人はあの世からきっと見たことであろう。
九月二十五日より病気になって、十月五日に亡くなってしまった。夢のようにはかなく見送って思い嘆く心地は、世の中にまたと例のない事のように思える。かつて初瀬に鏡を奉納した時に、倒れ臥して泣いている影が見えたのは、これこそがそうであったのだ。嬉しそうな影があったのだが、来し方に思い当たることが無いような気がする。今からのゆく末は、ますます思いやられる。
二十三日、はかない雲煙のように火葬をした夜、昨年の秋、息子が立派になり装束を着て、かしづかれて、父に付き添って、下って行ったのを見送ったばかりなのに、今日はといえば、なんと黒い衣の上に忌まわしい感じのする喪服を着て、棺の車の供として泣く泣く歩み出て行くのを家の中から見送っていた、昨年のことを思い出すという心地は、全くたとえようが無いので、そのまま夢路にさまよい、思い嘆くのを、あの人はあの世からきっと見たことであろう。