39歳 柳沢さん(女性)の相談 その6~最終~

文字数 2,661文字

田原すみれ先生と柳沢さん

「あ、話が脱線しちゃった。そう言えば、なんで、その人と付き合おうと思ったの」
「器が大きい人だなと思ったからかな。あと、話とか食事の趣味が合うの。お互いワインが好きだし、魚とか牛、豚と肉類が好きなの。お互いいつもダイエットしていたりとか(笑)」
「牧師もワイン飲むんだ」
「飲むよ。でも、出会った時は、一度牧師を辞めた後だったから、普通の会社員だったのよ」
「ふーん、じゃあキリスト教以外の世界もしっているんだ」
「そうなの、だから私この人クリスチャンだけれども、ありかなって思ったの。なんか上から目線だね」
「ううん」
「私は両親がクリスチャンで、中学校1年生の途中まで、毎週教会に行っていたの。いかなくなった理由は、クリスチャンってダサくて、弱い、ずるいと思ったの」
「ずるい?どういうこと」
「なんか、温室育ちっていうかさ、失敗してもうまくいっても神様の御心とか言ってさ、受験とか落ちても単に実力がないだけなのに、御心とか当日サタンの攻撃があったとか、そういう人が多かったの。あと、成人しても働かない人も多かったし。楽して、教会に面倒みてもらっている人のように見えたし、実際そういう人が多かったし、牧師だって、所詮信者の献金で生活しているし、社会って厳しいはずなのに、なんか甘々だなって思って、陰口ばかりたたいていたの」
「すみれさん、普通の感覚を持ったクリスチャンね、珍しくない?たぶんすみれさんみたいなタイプは」
「うーんどうだろう、まあ思春期だったのもあるかもしれないけれどね。でも、うちの主人なんて、もっと普通の感覚をもっていると思うわ」
「ふーん、変わった牧師夫妻なのね」
「真面目な教会からしたら、負債かも。あ、主人の真似をしちゃった。私おやじみたい」
「うける」
「当時付き合っていた彼氏のことは大好きだったけれど、こっそり日曜日に主人が通っている教会に行くようになって、礼拝が終わったら、喫茶店で主人とお茶するの。教会に行くことがメインとすれば、浮気じゃないでしょ(笑)」
「よく教会に行ったね」
「そう、二度と行かないって思っていたのに、15年ぶりに行ったの。主人と接していて、この人の信じている神様なら信じてみたいと思ったの」
「へーそんなことあるんだ」
「ねえ不思議だよね。あとさ、私大学出てから自分でいうのもなんだけれど、結構バリバリ働いていたし、お給料もそれなりに貰っていたし、結構ガツガツしていたの。でも、教会に行ったら、相変わらずゆるい世界なんだけれど、昔と違って、なんかほっとするなーって思ったの。あと、主人の周りに人が集まるの。不思議だった。小さな教会だったけれど、私が来ただけで、歓迎の証におばあちゃんがアップルパイを作ってきてくれたり、ある時は主人と話をしていたら、40代くらいのおばさんが来て、ただただ泣いているの。私たちは、頷くだけしかできなかったけれど、なんか主人といると共同作業をしているっていう喜びがあったの。当時付き合っていた彼とは、好きになればなるほど、苦しくなったの、でもすごく愛していたの。だから今の主人に相談したの、あなたと会うと楽しいし、好きっていう感情が芽生えてきたの。でも私には結婚も考えている彼氏がいて、彼のことが好きなの。だから、少し時間を空けてみたいの、そうストレートに言ったわ」
「そしたらなんて言ったの」
「それがさ、二人の人を同時に好きになることは、罪じゃないと思う。でも、自分は良くても、どちらかの相手が苦しむことになると思う。好きになるっていう思いは罪じゃないけれど、行動に移すと罪になると思う。僕はすみれさんに罪を犯す人生を歩んでほしくない。僕は、すみれさんの幸せを祈るよ。きっと神様は示してくださるよ、もしかしたら現在の彼氏でも僕でもないかもしれない。僕もね、すみれさんのことが好きだっていう感情が芽生えているんだ、だから一時的に感情に走るより、一旦距離を置くのは良いと思う。ただ、私はすみれさんを愛することが出来るんだ。っていうの。まだ付き合ってもいないのに、愛することが出来るって何って少し語気を強めて聞いたの、調子のいいことを言うから。そしたら、祈ることは愛することだよ。僕は祈る。祈ることを実践することは、罪ではなく、愛だと思う。祝福を、神様からのメッセージを祈る、自由だし無料だし、目にみえないけれど僕は祈りを通して、神様と僕の愛を届けたい、神様はそうしてくださると信じている。
そんなこと言われたら、もう惚れてしまった(笑)でも、最初の提案通り、1か月間くらい距離を、時間を置いたの。そして彼氏に別れを告げて、今の主人のもと、教会に戻って、その1年後くらいに結婚をしたの。結婚するまで、キスもしてくれなかったけれど、素敵な結婚式が出来たの。あ、ごめんなさい」
「ううん、素直に羨ましい。素敵な旦那さんね」
「それで、その後も主人が会社員だったんだけれど、どう見ても牧師が似合うと思ったの。私だけこの人の愛を独占するのはもったないと思って、私からまた牧師に戻るようお願いしたの。二人で祈って、このジーザス教会を始めることになったの。今から5年前かな。喫煙所を作ったり、主人が信じる神様は、本当に大きくて寛容だなって思うし、それを通して、柳沢さんに出会って、こうして色んな話が出来たし。私は今幸せ」
「もうあなたにはお腹いっぱい。今日初めて会ったと思わないな、なんか不思議。またさ、タバコ吸いにくるわよ、その時も礼拝に誘わないでね、私宗教嫌いだから」
「私も嫌いよ」
「ふん、本当かな。でも、楽しかったわ。また、くるわよ」
「最後に祈ってもいい」
「いいわよ、でも結局宗教が好きなんじゃない」
「うん、そう言われてもいいから、祈らせて。神様、今日柳沢さんと出会えていろんなことを分かち合えたことを感謝します。柳沢さんのこれからの人生を祝福して、あらゆるトラブルからお守りください。そして神様からのギフトをいつか受け取りますように。イエス様のお名前で祈ります。アーメン」
「神さまからのギフトって何?」
「秘密、うふ」
「もったいぶって」
「信仰、希望、愛、その中でいちばん優れているのは愛ですって聖書に書いているの。神様からのギフトは、イエスキリストよ」
「まったく、結局宗教じゃないの」
「そうかな、うーん、そう見えるのかもね」
「あなた笑顔が素敵ね」
「ありがとう。柳沢さんもね」

おしまい
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登場人物紹介

篠崎修三・・・20歳で初めて出来た彼女がクリスチャンだった。

佐藤英子・・・修三の彼女。3年前にクリスチャンになった。ちなみに修三とは保育園の時の同級生

上田基一・・・修三と同じ大学で同級生の友達。両親がクリスチャンで、小学校に入る前から教会に通い14歳の時に洗礼を受けてクリスチャンとなる。高校に入ったころから、高校3年生あたりから教会生活やクリスチャンに疑問を抱くようになり、大学に入学してから間もなく教会を離れる。現在は彼女、飲み会など遊ぶことが楽しく、教会を離れて良かったと思っている。

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