上田の失恋

文字数 1,476文字

聖なるものを犬に与えてはいけません。また豚の前に、真珠を投げてはなりません。それを足で踏みにじり、向き直ってあながたを引き裂くでしょうから。マタイ7:6

今の状態が続くほど人生は甘くない。そんなことはわかっているつもりだ。このままではこのままが続くどころか、英子も理名ちゃんも俺から離れていくだろう。そんな気がする。でも、これからどうしたらよいのだろう。田原先生も困っていたし、英子に本当のことを言えるはずがない。どうしよう?
ん?そう言えば、俺には合コンの神様という先輩がいる。しかし、神様の連絡先を知らないから、上田に聞いてみることにした。

「はあ」上田にラインの電話をした際の、第一声はため息だった。
「はあー」突っ込む前に次のため息を発した。さっきより重くて深いため息だった。
「はあー俺」今度は俺という言葉がついてきた三回目のため息は、二回目のそれよりも1.05倍厚みをましたため息が解き放たれた。「はあ」四回目、5回目と続き、ついに10回目が続いた。1.05倍のため息の厚みは単利ではなく複利で増えていったようで、とんでもないため息となって、ラインが耐えられるか心配になった。11回目は、
「はあー」と少し声が上ずっていた。これ以上ため息が続いた場合、俺はどう接すればよいのか、優しくするのか、喝を入れるのか、このまま原状復帰するのをひたすら待つのか、と思った時、
「おい、お前なんか言えよ」突っ込みを待っていたんかい!!とようやく突っこみをする機会が与えられたと思ったら、
「おせーよ、このちんちくりんが」と逆ギレだった。ここまで理不尽な上田は初めてだった。

「修三、玲子と別れちまったよ」玲子さんとは、上田が教会を離れてすぐに付き合った上田の最初の彼女だ。2年間も続いて、彼女が2人、3人と増えてきても、玲子さんは俺から離れることはない、そう思っていたそうだ。俺は一度だけ、上田と玲子さんと俺の3人で遊んだことがある。俺がまだ英子と出会う前で、背は俺より少し低くて160㎝はない位で、美人というわけではないが、顔は整っていて、優しい雰囲気がある娘だった。
あいつとは結婚するんだ、本当にそう信じているように、たまに口にした。だったら浮気している場合ではないだろう、何度かつっかかったが、
「あいつなら大丈夫って。あいつは運命の女だからな」と強気の発言をしていたから、今日の上田は悪いが超ショボい。
「俺が何をしても、許してくれたから、俺から離れるというのが、なんか現実感に欠けるわ」俺は上田の現実感に欠けるという言葉を聞いて怖くなった。
英子も理名ちゃんも離れる時は同時に離れるのだろうか。俺は今実質二股をしているから、いつバチが当たっても不思議ではない。
「浮気がばれたのか?」
「おう。でも、お前がいうな」
「おう、そうだな」
「でもさ、ダブルパンチなのが、他に好きな人が出来たって。今までさ、なんだかんだ言って一緒に歩いてきたわけだけれどな」
「他の娘とも一緒にあるいていたけれどな」
「おう。でも、お前がいうな」
「おう、そうだな」
「あいつ、最後会った時に、これで俺らも最後だな、ありがとうなって、いつも通りハグしようとしたら、腕をペシってはねのけたんだ。その瞬間、ああ本当に終わったんだって思ったよ」
「そうか、なんだか怖いな」
「だろ、英子ちゃんも、同じようにお前の目を見ずにお前と違う道をあるいていく、それ考えるだけで、怖いだろ。俺らには出来ねーことだな」
「怖い、出来ない、マジ怖い」俺はぞっとした。

おしまい
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登場人物紹介

篠崎修三・・・20歳で初めて出来た彼女がクリスチャンだった。

佐藤英子・・・修三の彼女。3年前にクリスチャンになった。ちなみに修三とは保育園の時の同級生

上田基一・・・修三と同じ大学で同級生の友達。両親がクリスチャンで、小学校に入る前から教会に通い14歳の時に洗礼を受けてクリスチャンとなる。高校に入ったころから、高校3年生あたりから教会生活やクリスチャンに疑問を抱くようになり、大学に入学してから間もなく教会を離れる。現在は彼女、飲み会など遊ぶことが楽しく、教会を離れて良かったと思っている。

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