文字数 1,230文字

狭い門からはいりなさい。滅びに至る門は大きく、その道は広いからです。そして、そこからはいって行く者が多いのです。
(マタイ:7・3)

里奈ちゃんは約束の時間より15分くらい遅れてきた。水着はもちろん着ていなくて、3月の始めで少し寒いから、茶色のコートを着ていた。俺たちはお互いお金がないから、コンビニで酒と、唐揚げとかおつまみを買って、近くの公園のベンチで飲み食いしたりタバコを吸ったりしていた。幸い公園の電燈が明るくて、夜になってもそんなに暗くなりそうになかった。女の娘と二人でタバコを吸うのは初めてで、気楽だった。
「はあー」俺がため息をつくと、
「なんで私の前でため息をつくの」里奈ちゃんは少し怒った声でそう言った。
「いやー、里奈ちゃんはいるのが、なんか自然というか楽で、ついつい」女の娘と二人でタバコを吸うのは初めてと言おうか迷ったけれど、やめておいた。俺は変な見栄をはった。
「楽か、そう言われれば、修三、なんか格好つけないし、こんなキュートな女の娘が横にいるのに、全然ギラギラしていないから楽と言えば楽かも」里奈ちゃんはそう言ってタバコを吸った。
「夕日が綺麗だね。私空を見るのが好きなんだ。空を見ていると、昔のこととか、将来のことを考えないの」
「昔のこととか、将来のこと」
「うん、私中学校の時、いじめられていたの、主に男の子に。デブとかデカ眼鏡とか言われたり、モノを投げられたり、毎日学校に行くのが嫌だった。でもね、空を見ると落ち着いたの。好きな人のことも考えなくていいし、なんだか無になれるの」
「ふーん」里奈ちゃんはカラオケで出会った時とは違う顔「を見せた。
タバコを吸う里奈ちゃんは、なんだか寂しげな雰囲気を醸し出していた。そうして、俺によりかかってきた。左の胸が少しだけ当たって、女性の胸は思ったより、柔らかかった。
「お酒って美味しいね。なんかずっと飲んでもいい国に住んで、その国は、たばこもなぜか体に良くて、唐揚げとかおいしいものを食べないとどんどん瘦せていくから、みんななるべくおいしいものを食べる。みんな幸せだから、いじめもなくて、スタイリッシュで、でもみんなオシャレだからわざとワイルドな格好をする人もいて、そういう国があったらいいなって思う。でも恋愛だけは、そういう国でも、色々なトラブルがあるかもしてない。でも、あまりにも幸せすぎるから、失恋を美とする風潮もあったり、恋愛でうまくいかなくなることで、恋愛以外はすごく幸せなんだって気づいたりして、でも失恋は辛くて辛くて、日本より命を絶つ人がいて、気づいたら、人生は不幸せな人が多くいる。何言っているだろう、私」そう言って里奈ちゃんは
またタバコを吸いだした。そういえば、英子のことをすっかり忘れている自分がいた。たばこ、酒、女の娘どれも好きで今どれも満たされている状況にいる、英子には悪いけれど、いっそ里奈ちゃんと付き合った方が幸せかもしれないと思った。

おしまい
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登場人物紹介

篠崎修三・・・20歳で初めて出来た彼女がクリスチャンだった。

佐藤英子・・・修三の彼女。3年前にクリスチャンになった。ちなみに修三とは保育園の時の同級生

上田基一・・・修三と同じ大学で同級生の友達。両親がクリスチャンで、小学校に入る前から教会に通い14歳の時に洗礼を受けてクリスチャンとなる。高校に入ったころから、高校3年生あたりから教会生活やクリスチャンに疑問を抱くようになり、大学に入学してから間もなく教会を離れる。現在は彼女、飲み会など遊ぶことが楽しく、教会を離れて良かったと思っている。

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