上田の罪

文字数 2,472文字

舌は火である。不義の世界である。舌は、わたしたちの器官の一つとしてそなえられたものであるが、全身を汚し、生存の車輪を燃やし、自らは地獄の火で焼かれる。
あらゆる種類の獣、鳥、這うもの、海の生物は、すべて人類に制せられるし、また制せられてきた。
ところが、舌を制しうる人は、ひとりもいない。それは、制しにくい悪であって、死の毒に満ちている。
わたしたちは、この舌で父なる主をさんびし、また、その同じ舌で、神にかたどって造られた人間をのろっている。
同じ口から、さんびとのろいとが出て来る。わたしの兄弟たちよ。このような事は、あるべきでない。(ヤコブ:3・6~10)

調布駅で降りて、コンビニによって、俺たちは酒とつまみとタバコをそれぞれ買った。さすがにそこは自分の分は自分で出した。上田はアパートで一人暮らしをしていて、外観は古く見えたけれど、部屋の中に入ると、オシャレなつくりをしていた。
酒を空けて、飲み始めると、
「まあ、悪かったよ。でも、そこまで怒ると思っていなかったな」
「俺の今の状況、葛藤をお前は知ってんだろう。しかも、お前教会育ちだから、お前自身もそういう葛藤の時期があっただろう。それなのに、酷いいたずらだよ」
「まあ確かに葛藤はありまくったな」上田がそう言うと、俺たちは5分くらい何も喋らず、タバコを吸った。合コンが終わった安心感からすごくうまかった。

「なあ、お前、いつクリチャンになったの。自分の意思で、それとも半強制的に?」
「は、そんなどうでもいいこと聞くなよ。」
「いいじゃねーか、今日の俺を辱め、精神的な苦痛を与えた代償として、話せよ」
「嫌だ、」上田がそう言うと、お互いタバコを吸いながら、また5分くらい無言の時間が続いた。
「話してくれよ」
「あーお前はしつけークソガキだな。うるせーなー、マジでよ。
しつこいと嫌われるぞ。」
「教えて欲しい、教えて欲しい」俺はブルーハーツのキスして欲しいのサビを歌いながら、
「教えてくれなったら、今ここで、発狂してキスして欲しいを歌うぞ」
「やめろ、てめー。隣の人とかから苦情がくんだろう。ちっ、ショウガねーな、この世界三大しつけー男がよ。縦笛だよ」
「縦笛?」何のことかさっぱりわからなかった。
「はい、もう言った」
「わからねーよ縦笛じゃ。はい、続きは」
「じゃ、お前が買ったカレーマン、半分くれたらいいよ」
「多い方とらなきゃいいよ。俺がわるからな」
「お前に友情を感じるよ」上田はそう言って、我が割ったカレーマンをどちらが多い方かわからないほどのスピードで手にとった。
「お前、マジ言うなよ。英子ちゃんにもだぞ。」
「うーん、英子には言いたいな。でも、いいわ、言わない、だから教えてくれ」
「小学生4年生の時さ、俺とりょうと杉田って奴の3人で、放課後に教室に入って、それぞれ好きな娘の縦笛を口にするという、大胆かつ非人道的な犯罪行為を行った。見つかったらどうしよう、夕方の教室に近づくに連れ、俺は怖くなって、
「ちょっと、俺、お腹いてー。トイレに行くわ」って言ったら、
二人は、
「じゃ、先にやっているよ」というんだ。俺は、
「ふざけんな、じゃあ俺も行くよ」俺たちは、すごいことをやろうとしている自分に酔っていて、恐怖心、好奇心、欲望、希望、一方的な歪んだ愛、破壊的な行為に対する興奮、色々なことが混じり合わさって、判断力がなくなっていたんだ。そして、教室につくと、杉田が石綿さんって娘の机に走っていって、バンって音が鳴ったんだ。石綿さんは、地味で眼鏡をかけていたんだけれど、たまに、眼鏡ふきで眼鏡をふくために眼鏡をはずすと、綺麗な顔立ちであることを俺ら男どもが気づき、そのギャップにやられている奴が結構いたんだ。杉田もその一人だったんだけれど、奴は、放課後の教室は、毎日の掃除係で綺麗にされていることを分からず、猛進してしまった。床は掃除当番の四人組で、雑巾レースをしてピカピカだってことを知るには経験が少なすぎた。でも、杉田は勇敢だった。右の頭に手をやりながら、
「いてぇー」と情けない顔と声を出しながら、何事もなかったように、石綿さんの縦笛を袋から取り出して、口に含んだ。さっきのスピード感溢れる彼から想像できないほど、笛をならしたり、笛を両手でもって、おでこにつけたり、神聖なものを扱って、石綿さんに敬意を示しているのが分かった。こいつはとんでもない小学生4年生だと思ったよ。それを見た俺たちは、まだ若かったから、とりあえず放課後の教室は滑りやすいということを知って、ゆっくり、自分の好きな娘の机に向かった。二人ともゆっくり歩いている姿は今となっては、滑稽だったな。
「下品極まりないのに、清潔感を感じるのは俺だけか?」俺がそう言うと、
「そうなんだよ。悪いことをする、そんな中でも静寂を感じたんだよ」上田の言葉は、俺がそう感じたものと一緒だった。でも、一瞬我に返って、ものすごく下品でアホな話だなと思った。
りょうは、神馬さんの机に向かった。そして奴は、神馬さんの縦笛で翼をくださいを約3分間演奏したんだ。もし、神馬さんが見たら、
「りょう君、ありがとう。私、涙出ちゃった。もう一回聴かせて」tって言うんじゃないかっていうくらい、美しい音色を奏でたんだ。奴は芸術性、音楽は音を楽しむという原点に返ることによって、犯罪行為を限りなくゼロにしてしまったんだ。俺、プロ野球選手以外に始めて尊敬したよ。皮肉も、好きな娘がいない間に、好きな娘の笛をなめちゃおうぜっていうC級映画にも出てこないようなシチュエーションでさ」
「それで、お前は」俺はそう質問した。
「俺、杉田がなんヵ足音が聞こえるみたいなことを言うから、転ばないように歩いて、当時一番人気だった近藤美香ちゃんの席に行くと、りょう君が早く出ようぜっていうから、近藤さんの縦笛の袋を開けて、縦笛を5秒くらい口にして、震えている手で縦笛を袋にしまって、みんなでダッシュで教室を出たよ」

おしまい
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登場人物紹介

篠崎修三・・・20歳で初めて出来た彼女がクリスチャンだった。

佐藤英子・・・修三の彼女。3年前にクリスチャンになった。ちなみに修三とは保育園の時の同級生

上田基一・・・修三と同じ大学で同級生の友達。両親がクリスチャンで、小学校に入る前から教会に通い14歳の時に洗礼を受けてクリスチャンとなる。高校に入ったころから、高校3年生あたりから教会生活やクリスチャンに疑問を抱くようになり、大学に入学してから間もなく教会を離れる。現在は彼女、飲み会など遊ぶことが楽しく、教会を離れて良かったと思っている。

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