心の四季

文字数 2,610文字

心の四季

突然直美先生が、檀上の机から離れて、
「私は今43歳です。私オシャレが好きで、檀上の机の前で話すと私のセンスのいい服やアクセサリーとか、この美貌が見てもらえなくなっちゃうから、檀上の机の前で話したくないの」
僕らは、啞然と、というかポカンとしてしまった。英子も同じくポカンとしていた。
「いや、冗談よ冗談。いや、でも幾分は本気かな。みなさん、今の笑うところよ。なんかさ、教会にくると、特に日本の教会にくると、みんな笑わないし、笑うのが下品みたいなさ空気が流れているのよね。そもそも笑わう笑わないの問題じゃなくて、表情がないの。のっぺらぼうみたいな人が集まった教会が多くない。そりゃ、みんな教会に来たがらないわよ。自然界には春、夏、秋、冬というように四季があるように、神様は私たち人間に姿かたちだけでなく、感情、感性、精神、心を与えてくださったの。喜怒哀楽という心の四季を。嬉しい時は喜ぶ、怒りたい時は怒る、哀しいときは泣く、楽しい時は楽しむ。これ、社会でやると反感を買うわよね。嬉しい時は、謙虚に、いえいえ大したことないです。これからも精進します。怒りたい時はぐっと我慢する。哀しい時は、家に帰るまで泣くのを我慢する。楽しい時に楽しいと言ってしまうと調子に乗っていると陰口をたたかれるから、おとなしくする。ね、そうじゃない。たしかに社会に出るとそういうマナーも必要よ。でも、教会は天地万物を造られた神様をほめたたえるところよ、ここにいる時くらい喜怒哀楽を出してもいいんじゃないかな。もちろん節度は必要よ。別に、私のことをセンスがいい、綺麗だねとか言ってほしくないわけでは、ないわけでは、ないわけでは、、、ないのよ。もうどっちなのかわからなくなったじゃないの」
直美先生がそう言うと、どっと笑いが起こった。
「先生、センスがいいです、歳の割には」田原先生がそう言うと、もっと笑いが多くなって、女の子たちが、そして英子が、
「先生、スタイル抜群」「綺麗!!」「オシャレ!!」とか次々にそういってさらに笑いが起こったから、俺は調子に乗って、
「直美先生、俺のストライクゾーンに入っている」と叫んだら、教会全体が笑いで揺れそうになった。俺は本当にお調子者だなって思った。
そして、田原先生が率先して檀上の机を運ぶと、他の男の子も手伝って、檀上の机は、僕らから見えないようにしまわれた。
「ありがとうございます。やっと、真ん中に立てたわ。」
直美先生がそう言うと、更に笑いが大きくなった。
「私、週に2回はスポーツジムに行って、鍛えているの。そして、月に1回は家族でショッピングに行って、高くはないけれど、気に入った服やアクセサリーを買ったりしているの。いつも女として輝いていたいの。そんな努力をしているとね、教会の人たちが私に服とかアクセサリーをプレゼントしてくれるの。先週は可愛いニット帽をいただいたの。そして、私も最近着なくなった服とか思い出すと、教会に来た人たちにあげるの。ね、いい循環でしょ。クリスチャンこそ、オシャレに気を使うべきだと思うわ。そして、男性諸君、日本のクリスチャンの素敵な女性がクリスチャンの人と結婚してクリスチャンホームを作りたいと願っているのに、ノンクリスチャンと結婚しているのは、あなた達の責任よ」
チャーミングな笑顔で直美先生が言うと、穏やかな笑いが起こった。
「でも、本当。日本のクリスチャンの男性って、ダサい人が多くない。いや、少し言い過ぎたけれども、真面目すぎ。ギャグとか遊び心がないの。なんていうかさ、田原先生みたいに粋なところがないから、ノンクリスチャンの人にもっていかれちゃうのよ。粋って大切よ。」
俺は全くもって同感した。
「みんなクリスチャン、ノンクリスチャン問わず、ゴスペルって聞いたことがあるでしょう。昔私は讃美歌を英語にしたのがゴスペルだと思っていたの。でも、アメリカに行った時に、牧師先生が言っていたのがね、GODは神、SPELLは言葉。
GODSPELLは神が言葉の筆によって、全世界というキャンパスに自然界や愛してやまない人間を描いた。その愛のメッセージ、ストーリーを感謝したり、褒め称えることなんだよって。それでは、愛のメッセージを描いた神は、何をもって愛を伝えようとしたかっていうと、愛してやまない人間の罪を赦すために、十字架にかかってくださったイエスキリストその方なんだよって。直美にしってほしいのは、GODSPELLは宗教=religionではなくて、神様との関係=relationshipなんだよって。宗教の多くは、いまあなたが不幸で報われないのは、あるいは病気をしているのは、供養が足りないからとか、これを拝まないからだとか、人間のおそれにたたみかけてくる。私たち、みんなどっかしら罪悪感とかがあるから、そうだ私は供養が足りないからだとか、自分のためだけにお金を使っているからだとか、それらを変えないと、これから自分や自分の家族に不幸が起きるかもしれないという強迫感から、信者になって、お布施をしながら、布教活動をする。そして、いつの間にか、喜怒哀楽を無くして、疲れ果てていく。社会や世の中の常識に疑問を持ったりして信じたり、健康に、幸せになりたくて始めたつもりなのに、疲れ果てて、自分だけでなく周りの人にもそのよくない空気が伝わる。世の中以上に歯を食いしばって頑張れる人だけが残って、頑張れなかった人たちは不信仰者と蔑まれていく。それが宗教かなって思う。当たっていないかもしれないけれども、大きく外してもいないんじゃないかな。でも、GODSPELLは宗教的に生きられない。だって、religionじゃなくて、=relationshipなんだもん。だから、男性諸君、神様とrelationshipをとって、もっと自然に、それでいて格好つけて、ユーモアがあって、オシャレに気をつかって、一生懸命生きてみなさい。そうしたら、モテモテよ。クリスチャンの娘たちはようく見ているから、そしてイエス様もね」そう言って、直美先生はニコッと声を出さずに笑った。
「あれ、私今日なんの話をしに来たんだっけ?」直美先生がそういうとまた、教会が笑いで揺れそうになった。

                                           おしまい
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登場人物紹介

篠崎修三・・・20歳で初めて出来た彼女がクリスチャンだった。

佐藤英子・・・修三の彼女。3年前にクリスチャンになった。ちなみに修三とは保育園の時の同級生

上田基一・・・修三と同じ大学で同級生の友達。両親がクリスチャンで、小学校に入る前から教会に通い14歳の時に洗礼を受けてクリスチャンとなる。高校に入ったころから、高校3年生あたりから教会生活やクリスチャンに疑問を抱くようになり、大学に入学してから間もなく教会を離れる。現在は彼女、飲み会など遊ぶことが楽しく、教会を離れて良かったと思っている。

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