彼女はクリスチャン

文字数 16,345文字

彼女はクリスチャン

空(くう)の空。伝道者は言う。空の空。すべては空。(伝道者の書 1:2)

「はあー」無意識にため息をつくようになったのはいつからだろう。
生まれてこのかた彼女がいたことがない。顔は自分でいうのも悪くはないと思うが、イケメンでもない。身長は、親からの遺伝を引き継ぎ163cm、髪の毛は禿げの親父に似て、将来禿そうな細い髪の毛。大学は偏差値が二流大学で、駅伝だけは強いから、大学名を言うと、だいたいの人は「駅伝つよいよね」と誰も偏差値のことを口にすることはしない。将来のことを考えると暗澹たる気持ちになる。ブラック企業以外の会社に入れるのだろうか。正社員になれるのだろうか。そもそも何をやりたいのかすらわからないし、やりたいこともない。会社員になりらなくてもよいなら、ひもにでもなってみたい。世間体なんて気にしていない。結婚は出来るのだろうか。一人では寂しいから、結婚はしたいけれど、自分の遺伝子は絶対に残したくない。考えれば不安はつきないので、いつもため息をつきながらタバコを吸っている。
「はあー」1日何回ため息をついているのか、そんなことを考えては、タバコの煙と一緒にまた次のため息が出た。

大学2年生になって、1学期が終わった夏休みの8月のある日に、ブー子からlineが届いていた。
俺のline番号は、携帯電話の番号と同じで、友達への追加を許可しているから、俺の携帯番号さえ分かれば、lineの友達に追加されるが、どこで俺の番号を知ったのだろう。
「東保育園の同窓会をやります。これたら来てください。てか、修三元気?」保育園の同窓会なんて聞いたことがないけれど、発想がブー子らしいと思った。
ブー子とは保育園が同じだった。俺らのゆり組の代は、全員で15人だから1組しかなかった。ブー子は、石原里子という名前で、もう少しで美人女優の名前と同名になるが、顔はブー子というあだ名だけあって、仔豚のような顔で、体型はぽっちゃりしていた。
ブー子からのlineを見て、参加しようかしまいか迷ってしまった。
参加したい気持ちはあるけれども、みんな彼女、彼氏がいて、参加しても引け目を感じるだけではないだろうか。みんな20歳という人生の青春時代を謳歌しているのではないか。俺も青春を謳歌したい。そう思うけれど、現実は甘くない。甘くないけれど、俺と一緒の身長でも彼女がいる奴はいるし、高卒で俺より背が低い奴だって彼女がいる奴がいる。女は何を見て、どこに魅力を感じているのだろうか。俺にはそんなに魅力がないのだろうか。
「はあー」そんなことを考えては、ため息をついた後に、タバコを吸った。
タバコを吸いながら、ブー子は今もブー子なのだろうか、もしかしたら高校デビューをして、モテまくって、今じゃすごく可愛くなっているかもしれない。そういえば、ブー子は二重まぶたで愛くるしい顔をしていた。英子はどうなっているだろう。俺の初恋で、保育園時代のマドンナだった。英子は、クラスで一番背が高くて、歌うときも誰よりも大きな口で歌っていた。英子は俺の憧れであり、大好きな初恋の人だった。みんなどうなっているのだろう。同窓会に行きたいけれど、劣等感が強すぎて行きたくない。この面倒くさい気持ちを、タバコを吸ってうやむやにした。

2学期が始まったばかりの9月6日の同窓会に俺は決意して参加することにした。夕方6時に立川駅の改札に集合時間にぴったり間に合ったと思ったら、
「修三」大きな声で俺の名前を呼んだ細身の女性がいた。ようく見ると、ブー子だった。
「修三、変わらないね」笑顔でブー子はそう言った。変わらない、その言葉の意味は予想通りの風貌を意味していると思うから、自分は小柄でイケていないことを認識するには充分な言葉で少しへこんでしまった。ブー子以外にも女子はみなスタイリッシュで、男はほとんどが170センチ以上の身長があり、ピアスをしている者もいた。そんな中、一際オーラを発している、小柄な美人がいた。英子だった。そのオーラはすさまじく、自分と住む世界が違うような品のある少し痩せ過ぎているような美しい女性になっていて、唯一意外だったのは、160センチもなさそうな小柄な身長だった。
みんな揃ったところで、飲み屋に行って、飲みながら今の近況を話しあった。ほとんどが、彼氏・彼女とのことで、俺は苦笑いしながら、ずっとたばこを吸っていた。その後、ほとんどのメンバーでカラオケに行って、俺はブルーハーツの「人にやさしく」を歌った。サビの「がんばれー」をみんなで絶叫して、大いに盛り上がった。英子は、絶叫には参加せずに、ずっと上品に英子は笑っていた。そういえば、お酒を飲んでいる様子はなかった。何回か英子と目があって、嬉しかった。今日のこの日がこんなに嬉しく楽しくなるなんて、みんなに会う前の今朝には想像も出来なかった。
カラオケが終わって、みんなでラインの交換をした。英子と交換出来て、本当に嬉しかった。


喜ぶ者といっしょに喜び、泣く者といっしょに泣きなさい。(ローマ 12:15)

「修三君、面白かった。」英子はlineを交換する際、そう言ってくれた。俺の一方的な思いかもしれないけれど、英子とは気があいそうな気がした。
そんな俺の勘は当たった。英子とは、その後毎日のようにラインをすることになった。将来来るであろう、就職活動のこと、今日のランチのメニューなど、色々なことをラインで話合っているうちに、二人で会うようになった。なんだか本当に現実に起こっている気がしなくて、喜びとか嬉しさを素直に受け止めることが出来なかった。
二人であっているうちに、英子には彼氏がいないことを確認出来て、ほっとした。そして、英子は、自分が毎週日曜日に教会に通っているクリスチャンであることを話した。
「私ね、3年前に洗礼を受けてクリスチャンになったの」
英子の清楚な姿を見ていると、3年前どころか生まれた時からクリスチャンのような気がした。
「そうなんだ。英子、言われてみればクリスチャンって感じだよ」
「え、何それ、それってどうなんだろう」英子はそう言って」上品に笑った。
「なんか嘘をついたことがない、人の悪口を言った事がないとか、家にピアノがあって学校から帰ってくるとお母さんはいつも讃美歌を弾いていていそう。そもそも子供の時の子守唄が讃美歌で育てられたような感じがするもん」
「何それ、修三君って面白いね」
「だって英子って、そんな雰囲気がいつも出ているよ」
「そうかな。そんなことないよ」
「うん、そうだよ」本当にそう思った。透き通った白い肌、笑った時に手にした白色のハンカチ、そして俺と話すときの優しくてきれいな瞳。英子には聖母マリア様のようなお母さんのような雰囲気がある。
会うことが増えてきて、11月初めに、今まで彼女が出来たことがない俺に奇跡が起きた。
俺たちは付き合うことにした。
「なんかさ、修三君があまりにもおいしそうにタバコを吸っているから、私もタバコっておいしいんだろうなって、吸っている修三君が羨ましくなっちゃう」
「本当に。でも、英子にはたばこは吸ってほしくないな」
「うん、前に付き合っていた人もたばこを吸っていたけれど、たばこの臭いは苦手だった」
「でも俺がたばこを吸っている姿が羨ましくなるって、矛盾していない」
「だって、本当においしそうに吸っているんだもん」
「たばこは、俺の親友だから」
「私は」
「俺の彼女。なんだかこう言うの恥ずかしいな」
初めての彼女は俺の初恋の英子で、英子は俺が初めてじゃなかったけれども、相手が英子であればそんなことは少し気にするくらいで済む。
「わー」俺は急に叫び出した。
「どうしたの修三君」英子が少し怖がっている顔をした。
「いや、嬉しくてしょうがない。わー」俺がまた叫ぶと、
「私も嬉しいよ。なんか、世界が明るくなったみたい」
俺たちは、互いに喜びあった。
立川駅の近くの小さい公園で、告白した後、俺らは初めて手をつないで帰った。
家に帰っても興奮はおさまらず、タバコを吸ったら、最高にうまかった。


愛は寛容であり、愛は親切です。また人をねたみません。愛は自慢せず、高慢になりません。礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、怒らず、人のした悪を思わず、不正を喜ばずに真理を喜びます。すべてをがまんし、すべてを信じ、すべてを期待し、すべてを耐え忍びます。愛は決して絶えることがありません。(コリント人への手紙I 13:4〜8)

11月の中旬、秋から冬に移ろうとする季節に、いつもの立川駅の近くの公園で、タバコを吸っていた。今日の天気は曇りで、タバコの煙と一緒の色をしているようだった。
「タバコの臭い、気にならない」
「うん、気になる。」
「そうか、これから英子の前では、吸わないようにするよ。前から気になっていたんだ」
「ありがとう」英子は、俺の目を見ながらそう言った。
俺にとって、タバコは親友だから少し強タバコを吸う時、ニコチンという体に害があるものだけでなく、人生の色々面倒なことや嫌なことも吸う。一度おなかの中に入れてから、すべてを吐き出す。でも、今は俺のことを受け入れてくれ、好きでいてくれる英子がいる。英子の前では、体に害があるものを吸わなくても我慢できそうな気がする。彼女が出来ても、たばこを辞めることは出来ないと思っていたが、少なくとも英子の前では、そんな作業をする必要はないみたいだ。


神はまた、それらを祝福して仰せられ。生めよ。ふえよ。海の水に満ちよ。また、鳥は、地に増えよ」(創世記 1:26)
「なんでクリスチャンになのに、クリスチャンじゃない俺と付き合おうと思ったの。普通一緒の価値観を持つ人と付き合ったりするんじゃないの。俺は正直宗教には興味がないよ。あ、もちろん英子がキリスト教を信じていることは尊重したいと思っている」
「うーん、内緒」英子は笑顔でそう言った。なんだか恥ずかしそうな表情だった。
「内緒か、内緒にする理由をこじ開けて聞きたいところだけれど、俺そういう強引さがないからな」
「修三君って面白い。私がしっている男の子の友達とかとなんか全然違う」
「いやーでも本当、そういうのダメなんだよね。でも理由はすごく聞きたいんだ」
「面白いから特別教えあげる。私たち、同じ保育園だったじゃない。私ね3歳の時に神様に将来修三君のお嫁さんになれますようにお祈りしていたの。直美先生にその話をしたら、英子がね、そのお祈りを神様がしてくださるって信じていたら、きっと叶うわよ。直美先生も祈るからねって言ってくれたの」
直美先生は、保育園の先生で、細身で背が高くて綺麗な先生だった。そして、俺は直美先生のハスキーな声が大好きだった。
「直美先生か、なつかしい、今何しているんだろう」
「今牧師婦人をしているんだって」
「牧師婦人!?直美先生ってクリスチャンだったの?」
「クリスチャンなんだって。でも、最初に結婚した人は、同じ教会のクリスチャンで普通の会社の人だったらしいんだけれど、その人が同じ会社の人と浮気していたのがばれて、離婚しちゃったらしい」
「クリスチャンが、離婚!?」
「修三君、驚きすぎだから。クリスチャンだって色んな人がいるし、みんな弱さを抱えている。でも、直美先生は、せっかく同じ信仰をもった人と結婚をしたのに、すごくショックで一時期うつ病になって、家に閉じこもっていたんだって」
「そうか、クリスチャンも人間だもんね。それにしても直美先生、相当落ち込んだだろうな
それで、」
「そう、離婚して、知り合いのつてでアメリカに行って、当時牧師のたまごだった今のご主人に出会って結婚したらしい」
「え、それじゃご主人はアメリカ人で、アメリカに住んでいるの」
「そう。そして子供が5人もいるんだって」
「5人!?すごい、なんか直美先生、聞いているだけで、凄すぎる」俺は驚きすぎで声が
かすれていくのがわかった。


佐藤 英子
「それじゃ帰ったら、またlineするよ。今日は遅くなって、ごめん。お母さんにも修三のせいで遅くなったって、修三が謝っていたと伝えておいてほしい」
私の家まで送ってくれた修三君は、家の前でそう言って、私の手を離してお互いバイバイをした。
家に帰って、部屋に戻るといい匂いがした。鼻がつんとするけれど、いい匂いだ。
「英子、入るよ」ドアノブのガチャっとした音が鳴って振り向いた時には既に私の部屋の真ん中辺りにいる。香水の心地よい香りは私を通り過ぎてカーテンの色を姉の色に染めてしまわないか心配になるほど強くていい匂いだ。
「何にやにやしてんのよ、気持ち悪い」いつもきつい言葉を言うくせに唇がうっすらと潤っていて優しい印象を与えるから姉は不思議だ。というより、同じ女としてずるいとすら感じる。
「気持ち悪いって言わないでよ。というより、遅くない?22時過ぎるとお母さんがうるさいのに、30分もオーバーじゃん。実は私も遅かったんだけどね、今日はコジとのデートはどうだった?」姉は私の4つ上で、24歳。彼氏の小島さんと付き合って6年目になる。
「は?どうだったもなにもないわよ。英子、私はあんたと違って私は社会人で、もう大人なの。そんなしょっちゅうあんたが考えるようなことはしないほうが普通なわけ」
続いて、結局普通が一番だわって言うから、その口調がどんどんお母さんに似ていくなと思う。
「別に、変なことを考えて聞いたわけじゃないよ。普通にどうだったって思って」
「ね、それより今日どうだったの?」姉は意地悪な声と目で聞いてくる。
「別にどうもこうもない。こちらも普通」普通って何なんだろうと思いながら、その単語を口にする。
「は?あんたの歳で普通はあり得ないのよ。それじゃダメなのよ。ね、チューしたの?」ついこの前は「大人は言葉を発する前に理性というフィルターを通してから話すものよ。ま、あんたはまだタバコを吸わないからわかるわけないか」って言っていたのに、随分ストレートに聞く姉。
「あ、でもあんたクリスチャンだから、そういうことしちゃいけないんだっけ?キスもだめなの」
「うん、基本的には。結婚してからはもちろんOKだけどね」
「うわっ、気持ち悪い。キスもだめなんて、クリスチャンって人生の半分以上も損しているわ。私は絶対無理。手はつないでいいの?」
「うん、たぶん。いつも手をつないで歩いている。」
「手をつながれたら、女特有の折り紙の織り方のように指を丁寧にからませてから手をつなぎ返す、これ基本よ。次からそれやってみな」
「それは恥ずかしいよ」
「つまんないな。もう宗教やっている人って、気持ちわるいし、もったいないよ。でも、修三君はクリスチャンじゃないんでしょ。そういうの求めてこないの?」
「今はまだそうだね」
「クリスマスも近づいているし、そんなしょっちゅう我慢出来ないでしょ。男だし、しかも宗教やっている子じゃないんだし」
お姉ちゃんの言っていることは半分くらい正しいことはわかっている。その辺のところは、修三君、どう思っているんだろう。まだ私たちはそういうことを話し合ったことがないし、話すのも恥ずかしいから私からは話をしたくない。
「英子、に男にはちゃんと口に出して伝えないと、本当にわからないんだから。男の方から英子が考えていることを察知する能力なんて皆無に等しいの。近所で6歳の男の子に道を教えてあげるように丁寧に、最低2回は同じことを言うのよ、本当よ」続いて、男なんてそんなもんよ、というから口調やセリフから姉はお母さんのコピーなんじゃないかと思った。
「久美、あんた今何時だと思っているの、早くお風呂に入りなさい」一階からマジで怒っているお母さんの声が聞こえてきた。
「はーい」とだるそうに返事をして、姉は香水の匂いを残して、部屋を出て階段を降りていった。そうか、そうだったのか。修三君は6歳の男の子と同じなのか。姉の言うことは大体いつも正しい。コジと6年も付き合っている姉の言葉にはいつも説得力がある。それとも姉が大人だからなのだろうか。


今日ダビデの町で、あなたがたのために、救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリストです。ルカ 1:11

英子に誘われて、英子が通っている教会に行くことにした。クリスマス会だけなら抵抗は少なく感じた。
牧師先生は、俺と同じく小柄でメガネをかけていて、オーラもなく、普通のおっさんという感じがした。
メッセージは、処女マリアから汚い馬小屋の飼い葉おけでイエスキリストを生んだこと。世界中の救い主なのに、汚い馬小屋で生まれたこと。キリストは成長するにつれ、何も罪を犯すことなく、大人になり、病人を癒す等神様の栄光を現わしてして、自分のことを救い主と言っていること。宗教家が描いていた、救い主とみすぼらしい恰好をしたキリストがあまり違うことに、嫉妬と共に怒ったこと。それゆえ、キリストを極悪人扱いして、当時一番悲惨な処刑であった、十字架にかけられ、大衆から罵声を浴びさせられ、死んだこと。それだけならただただ悲惨な悲しい話だけれど、これは神様のご計画であり、キリストはすべての人間の罪を贖うために、十字架にかかって死に、3日後に生き返って、神の右の座につかれたこと。これは神様が時代を超えて私たちをすべての人間が、キリストが自分の罪のために十字架にかかって、罪を贖っていただいたことを信じれば、救われ天国に行くことが出来るという現実の素晴らしい事実であることを熱く先生が話された。熱い真剣な表情で話す先生は少し恰好よかった。
「クリスマスとは、キリスト・ミサという言葉から派生されたと言われております。キリスト・ミサとは、キリストを礼拝すること。私たちは、キリストを心で信じて受け入れ、救われます。救われるとイエスキリストを礼拝します。救われたクリスチャンは、イエスキリストを礼拝すれば、今日だけでなく、毎週がクリスマス、極端なことをいえば毎日礼拝をすれば毎日がクリスマスとなります。素晴らしい人生とは、より多くの日がクリスマスとなることを指すことかもしれません。みなさんも、是非キリストを信じて、クリスマスが多い人生を歩んでほしいと思います」
先生は、そう締めくくって、祝福のお祈りをした。その後、30代前半くらいのきれいな女性が出てきて、自分がクリスチャンであり、神様への感謝と讃美をしたいことが話し、歌い始めた。

終わらないものを求めたらあなたにたどり着いた。うかんでは消えていったすべてのことがらにどうかこれ以上、傷つかないで。
変わらないものを探したらあなたにたどり着いた。失っては消えていったすべてのことがらにどうかこれ以上、傷つかないで。
ありがとう神様、どれくらい私のことを愛してくれて。遠回りをしたけれど、イエス様に
出会い、私はみつけた。変わらない愛を。

歌を聴いて、すごく良い歌詞だなと思った。横を見ると、英子がハンカチで涙を拭いていた。涙を流している英子は、純粋で本当に素敵な女性だと思った。


信仰の創始者であり、完成者であるイエスから目を離さないでいなさい。
(ヘブル 12:2)
歌が終わって、教会の人が、折りたたみの机をだして、ケーキとコーヒーが出てきた。
英子の隣でケーキを食べていると、牧師先生が、俺らの前の席に座った。
「初めまして、牧師の田原武と申します」
「あ、篠崎修三と申します」
「緊張しなくていいんだよ。英子さんの親しい人が来ることは英子さんから聞いていたんだ。どうですか、教会に来た感想は」
「なんかステンドグラスとかあるのかなと思ったんですけれど、大きな家みたいなところ、敷居が高くなくて、入りやすかったです。あと、女性が歌った歌の歌詞がすごくよかったので、感動しちゃいました。俺にとって讃美歌はブルーハーツで、バイブルは村上春樹のノルウェーの森なんですけれど、今日の讃美はブルーハーツと同じくらいよかったです」
「そうか、でも修三君の歳からすると随分と渋い讃美歌とバイブルだね」
「ええ、温故知新ってやつですかね」いつもの癖で大して考えずに思い浮んだ適当な言葉を発言をした。
「温故知新か」先生はそう言って笑った。
「綺麗で歌を歌っていた女性は、先生の奥様のすみれ先生なんだよ」英子はそう教えてくれた。
「まじで。先生、失礼ですけれど、年齢は結構離れているんじゃないっすか」
「僕が45で、一回り離れているから今彼女は32歳だね」
「すげー、羨ましい」俺がそういうと先生も英子も笑った。
色々話をしているうちに、先生に質問をしてみた。
「俺は無宗教だけれど、神様みたいな大きな存在はいるんじゃないかと思うときもあります。でも、キリスト教は私たちが信じる神様が本当の神様と言っていますけれど、イスラム教や世界中の宗教で神様を信じているのに、キリスト教の神様だけ本物だなんて、なんか違うと思うんです」
「神様はキリスト教、クリスチャンのためだけの神様じゃないんだよ。神様は、宗教、宗派、仏教、キリスト教、イスラム教、新興宗教、過激派と呼ばれる団体の人、無宗教の人、すべてのひとを愛してくださっているお方なんだ。だから安心して欲しい。教会に来て聖書の話を聞いているうちにその回答がわかるはずだと思うよ。僕らの教会が合わなかったら来なくなっても大丈夫。でも、他に自分合うところがあれば違う教会に行って欲しい。何故なら神様の言葉である聖書のメッセージを聞くことが出来るから。教会に来ることだけが信仰ではない。教会に来たって、来なくたって神様からの愛は変わらない。
先生はね、牧師なんだけれど、キリスト教にあまり興味がないかな。」
牧師先生は何を言い始めたたんだと思った。
「牧師なのに、キリスト教のことにあまり興味ない。それって、ラーメン屋の店主なのに、ラーメンに興味がないってことですか。」
「少し違うかな。」
「それじゃラーメン屋のなかでも豚骨ラーメン屋を営んでいるのに、豚骨ラーメンに興味がないってことですか。」俺はほかにたとえが浮かばないので、ラーメンで続けた。
「それも少し違うかな。キリスト教じゃなくてキリスト、先生がいつも目を向けるべきところは、そういう意味だよ。昔はね、ある歴史ある教団に牧師として属していたから、その教団の掲げている理念や過去のしきたりに気をつかいながら、自分で言うのもなんだけれどもいつもいつも精一杯頑張っていた。少しでもうまくいかないことがあるとサタンの働きで全てがうまくいかない、だからサタンを追い出すように、サタンがこれ以上介入しないように神様にたくさん祈った。時には3日間断食して祈った。」
「サタンってなんですか」
「サタンは、神様の働きを妨げる悪魔のこと」今回は英子が答えた。
「でも状況はどんどん悪化していく。信徒同士が争うようになり、ある家族が全員去ってしまったり、人が減ると役員から怒られるし、不満や怒りがあってもいつも牧師らしいふるまいを求められる。本当はお酒でも飲んで、ストレスを発散したいところだったけれど、
そんなことをすれば、伝統のある大きなキリスト教会のなかで大問題になる。疲れ果てて、気づいたら、イエスキリストよりキリスト教ばかりに目を向けるようになっていて、その秩序を守るための信仰生活をするようになったんだ」
「へー、牧師が酒を飲むだけで、大問題になる世界って、キリスト教の神様は随分と器の小さい神様ですね。」
「そう、僕も当時これはなんか違う。イエスキリストが望んでいる人生はこんなもんじゃないと、当時若かった僕は、牧師を5年経験して、35歳で牧師を辞めるだけでなく、その教団を離れることにして、その5年後の40歳の時にどの教団にも属さないこのジーザス教会を建てたんだ」
「へー、そうだったんですね。でも、35歳から40歳までの間は、何をされていたんですか」
「会社員になって、ケーブルテレビを加入してもらうための営業マンをやっていたよ。」
「へー、牧師を辞めて、会社員を経験した牧師に再就職するパターンって、なんか珍しい気がする」
「そうかもね。先生は会社員になってから気づいた。仕事でうまくいかなくなる。上司や同僚との関係で悩むことはしょっちゅうで、経済は毎日動いているから長年の重要な取引先を担当したら自分の担当の時に限って、その取引先の業績が悪くなって契約が打ち切りになったり、まるでサタンが働いているんじゃないかってことをたくさん経験したよ。そして、周りのクリスチャンでない人たちも多かれ少なかれそういうことを経験している。それからは、教会でうまくいかなくなる時はいつもサタンのせいにして、恐れていたけれど、
必要以上にサタンを怖がらなくなったんだよ。本当におそろしいのは神様の方だって気づかされたよ。」
「本当におそろしいのは神様、ですか」
「うん。それはクリスチャンになるとより理解が深まるかもしれない。おっと、話が長くなり過ぎた、ごめんね。また、今度ゆっくり話が出来れば幸いです」そう言った後、先生は俺と握手をしてから席を離れた。本当におそろしいのは神様、俺はそのことが理解出来なかった。


不品行を避けなさい。人が犯す罪はすべて、からだの外のものです。しかし、不品行を行なう者は、自分のからだに対して罪を犯すのです。(Ⅰコリント 6:18)

クリスマス会から月に1回くらい教会に顔を出すようになった。英子が安心している姿を見ていて、俺も安心したし、教会の雰囲気も悪くないなと思ったからだ。
英子と再会した秋から春が来るまえの冬が終わりそうな2月20日の英子の誕生日に、二人で立川駅のショッピングセンターに行って、プレゼントに、春に来たら似合いそうな、薄い緑色をした靴を買った。英子はすごく喜んでくれて、俺も初めて女性にプレゼントしたことが嬉しかった。俺たちは、イタリアンでパスタを食べて、俺は普段飲みもしない、白ワインのグラスを注文して酔ってしまった。帰り際に、
「修三君、今何を考えている」英子は自分の指のあたりを見ながら、そう聞いてきた。
「何も考えていないけれど、英子の誕生日を一緒に過ごすことが出来て、よかったなという気持ちとなんか安心感というほっとしている」
「ふーん」
「ふーん、って何だ」
「ありがとうっていう意味を含んだふーんって言葉」
「なんかさ、英子と出会って、付き合うことが出来て、すごく嬉しい。その気持ちは今も変わらない。変わらないけれど、今まで考えてもみなかった本来なら聞いただけでうぜーと思う教会に行ったり、神様のことを聞いたり、考えたり、色々なことがてんやわんやな状況の中で過ごしてきたなあと思う」
「そうか。そうだよね、なんか悪いことをしてしまったみたい」
「いや、それは違う。英子のことは好きとかというより、なんだかな、恥ずかしいなあ。
でも愛っていう言葉がしっくりくる。愛について考えたりすることがたまにある。そう、その言葉以外には代わりは見当たらない。そうじゃなかったら」
「そうじゃなかったら?」
「キスとかエッチは我慢出来なかったと思う、絶対。愛がくいとどめてくれる」
「そうか。我慢させちゃってごめんね」
「英子が悲しまないように努力するよ」
「ありがとう」
「英子は、我慢している?」
「うーん、キスは少し我慢かな、エッチは我慢していていない」
「そうか」
「そうだよ、そうだよ」
「何で二回も言う?」
「そうだから」英子はそう言って、俺を見ながら笑った。優しい目をしていて、今日は少し疲れている表情をしていた。
「行こう」英子はそう言って、俺の手を握って公園から歩いて帰ることにした。
「この前先生のメッセージがさ、コンビニエンスを好まない神様というメッセージでさ」
「コンビニエンスを好まない神様」俺はそのまま英子の言葉を口にした。
「うん。手軽に得たものは手軽な価値しか生まれないから、神様は色々な試練を通して人を訓練していくっていう内容。聖書に出てくる登場人物はみんなそうだって。例えばヨナとかダビデとかノアとか」
「登場人物はよくわからないけれど、言っていることは何となくわかるような気がする」
「聖書には、結婚まで貞操を守りなさいって言っているの。エッチは結婚後ねって」
「そっか、聖書らしいな」
「でも、それらがコンビニエンスに得られる今は、結婚後の喜びとか感動が薄れてしまうんじゃないかって言っていた」
「そうかな」
「まあエッチだけじゃないけれど、価値は神様の言葉を信じた者同士で歩みことによって、高められるんじゃないかって」
「随分哲学的な話になってきたね」
「たしかに哲学的だね。でも、私人文学部哲学科だよ。でも、哲学のことなんてわからない」英子はそう言って、笑った。英子の笑顔は自然で哲学的な感じなんかちっともしないから安心した。


「神の、目に見えない本性、すなわち神の永遠の力と神性は、世界の創造された時からこのかた、被造物によって知られ、はっきりと認められるのであって、彼らに弁解の余地はないのです。」(ローマ1:20)

空を見ながら、タバコを吸っていると、夕日が綺麗で、タバコがすごくうまかった。
先週の日曜日に、神は被造物によっても存在を現すという話を聞いた。この空は人間が作ったわけではなさそうだ。だとしたら、神が作ったというのもなんだか発想が安直すぎるような気がする。神がいようがいまいが、この空は昔から存在していたはずで、だれが作ったわけでもないとも考えられる。神が空を作るというのも、なんだか違う気がする。そんな面倒なことを考えてみたものの、答えなんか俺にわかるはずもない。ただ、夕焼けが綺麗で、見ているだけですごく気分がよく、タバコがいつもより格段にうまいということだけはたしかだ。


あなたの若い日に、あなたの創造者を覚えよ。わざわいの日が来ないうちに、また「何の喜びもない」と言う年月が近づく前に。(伝道者の書 12:1)
「あんちゃん、キリスト教の味付けはカレー味だよ」
「かっ」カレー味ですか?と言いたかったけれど、夏目おじいちゃんから急にわけのわからないを言われたから、カレーのかっ、しか言葉が出なかった。
「そうカレー嫌いな奴いないだろう?あんちゃんは好きか、それとも嫌いか?」
「いや、好きです」
「だろ、カレーが嫌いな奴なんて俺は今まで一度も会ったことがねえ」
「そうですね、そう言われてみれば色んなカレーがあるからエスニックカレーは苦手だという人はいると思うけれども、そもそもカレー自体を嫌いって人は聞いたことがないですね」
「そうなんだよ、イエスって奴は味付けが上手なんだよ」
「味付けが上手?」
「だから、キリスト教が広まったんだよ。色々昔のことを振り返ったり、俺は説教で聞く以外は、ほとんど自分から読むことはねーんだけどよ、聖書の話を聞いていると、人生の歩みやその時代に起きたこと、タイミングとかなんか色々なことは、神が働いていたことがわかるんだよ。そんでこんな俺をイエスの絶妙な味付けによって救っちまうわけだ。あっぱれだよ」
夏目おじいちゃんは、70歳を超えていて、一度話をするとなかなか話が終わらないところがあるけれど、遊び人の俺が60歳で救われたことを多くの人によく話しをしていた。その割には礼拝中によく寝ていることがあり、そのギャップが俺にとって、なんだか癒しの存在に思えることがある。

「あんちゃん、また、背が伸びたんじゃねーか。この前会ったときは、俺と同じくらいだったじゃねーか」
「いやいや、俺もう20歳ですよ」
夏目おじいちゃんは、会うたびに、自分より身長が高いことを話題にする。163㎝の俺より明らかに低いから、160㎝はないと思う。おそらく俺と同じように、若いころは身長の低さに相当悩んだに違いないと思う。
「そういえば、あんちゃん、彼女はいるんのか」
「いや、え、俺に。いや、いないですよ」隣に彼女の英子がいるから、俺は明らかに狼狽してしまった。夏目おじいちゃんに本当のことを言っていいのかどうかもわからなかった。
悪気はないけれど、口が軽そうに感じたからだ。
「俺なんてよ、金はなかったけれど、なぜか女にはモテたんだ」
夏目おじいちゃんは、つぶらな瞳で可愛い顔をしている。
「どれくらいモテたんですか」
「中学に入ってから、途切れたことがないな」
「中学ですか、随分ませていますね。いつ途切れたんですか」
「うーん、25で結婚してよ、しばらくはおとなしくしていたからよ、その辺が途切れた時じゃねーか」
「しばらくって、結局復活しちゃったんですか」
「復活っていうか、かみさんとは別れちまってよ。まあ、俺の場合、女が寄ってくんだよ。
こればっかりは、長嶋茂雄と王貞治が野球の才能があるように、俺には女にモテる才能があるんだからしかたねーんだよ。かみさんはそのことがわかっていなかったんだろうな。結局飲みに行く度に色んなお姉ちゃんと仲良くなって帰ってくるもんだから、愛想つかされて逃げられちゃったよ」
「ふーん、おじいちゃんにそんな暗い過去があったんですね。すみません」
「別に暗かねーよ。ある意味明るかったよ。逃げられる前に色々説得したつもりだったけれど、ダメだったね」
「どんな風に説得したんですか」
「お前は選ばれたんだって。数多いる俺のファンクラブの娘からNo.1に選ばれたんだって。これも不思議な縁なんだ、七転び八起きで頑張ろうって」
「今のアイドルの総選挙のハシリじゃないですか?」
「そうだよ、著作権侵害だよ」
「で、奥様以外の娘たちはどうなったんですか?」
「あー、なんか政府非公認の被害者の会みたいの作って色々あったけど、なんか楽しかったよ、今となれば」
「No.1に選ばれたんだって説得したら何とおっしゃったんですか」
「私ばかり転んで、私だけ起き上がってばかりじゃない。あんたもたまに起き上がれないくらいは転びいや、と言ってビンタされちまって、家から出て行っちまった。その後は結婚しなかったよ。結婚寸前まで何人かといったんだけどよ、なまじっか女にモテちまうという変な才能を持ってしまったことで、またかみさんと同じ目に合わせるんじゃないかと思うと、どうも踏み切れなかったね」
「おじいちゃん、すごい羨ましい才能を持っているんですね」
「そうでもねーよ。才能が人生をだめにすることだってあんだ」
「才能がない俺にはわかんないすね。なんで教会に来るようになったんですか」
「当時付き合っていた女がクリスチャンでよ、飲み屋で知り合って、すぐ同棲をして、
お互い毎日酒を飲んでタバコを吸ったりして、毎日愛し合って好きかってしていたんだけど、何故か彼女は日曜日の朝には教会に行くんだ。最初はそんなことは自分だけの趣味だから、俺をかかわらせるなと言っていたんだけどよ、なんか気になるんだよな。いつも俺にベタベタしてくるのに、日曜日の朝だけは、教会に行くことを妨げさないような強烈なオーラを発するんだよ。」
「それで教会に行くことにしたんですか」
「まあそういうことだな。俺ももう60歳が見えていた頃だし、若い時みたいに酒や女、タバコ、喧嘩、仕事とかそういう刺激のあるものより、なんだかやすらぎが欲しかったんだろうな」
「行ってみてどうだったですか」
「説教はよくわかなかった。でも、賛美歌を聞いて、寝てしまったね。こんなに綺麗な子守唄は初めてだった。それから3か月間毎週日曜日の午後に聖書を学んで、イエスを受け入れ救われた。キリスト教は味付けがうめーもんだと思ったよ。カレー味だなと思ったよ」
「人生が急に変わったんですね」
「そうだな。当時の彼女もものすごく喜んでくれて、俺もまんざらでもなかったね。でもその3か月後に、彼女は心筋梗塞で突然死んじまった。」
「え、まじっすか」
「それを聞いて、病院に駆け付けたら、その彼女が本当に天使のようにやすらかな顔をしていたんだ。既に死んでいたけれど、こんなに美しい女性とイエスは出会わせてくれたんだって、自然と涙が出てきたよ。」
「へー」俺はそれ以外、何ていう言葉を選べばいいのか分からなかった。
「そして、葬式にまたやられちまった。悲しい雰囲気ではなくて、天国に召された喜びの
感謝の賛美をみんなで歌ったんだ。あー、彼女は俺が救われるまでの最後の手助けをしてくれたんだと思ったね」
「すごい話ですね」
「だろ、あんちゃん」


俺の彼女はクリスチャン

初めて出来た彼女はクリスチャン。
俺のことが好きな英子は、クリスチャン。
彼女がいるのに、エッチどころかキスすら出来ないクリスチャンとの付き合い。
俺の彼女はクリスチャン。
嬉しくもあり、我慢もしている。でも幸せな、喜びがある。
俺の彼女はクリスチャン。

自転車に乗りながら、そんな詩がうかんだ。空を見ると綺麗だった。
今はたばこを吸いたいと思わなかった。


飲み会

久しぶりに大学の友達の飲み会に参加した。ここ最近英子を始め、教会の人と会うことが多かったからビールやサワー、カルーアミルクなど色んなお酒をみんなで飲んですごく楽しかった。みんなでくだらない話をしたりするのが俺の性に合っているし、俺にはクリスチャンのような生活ではなくて、こういう生活が合っているんだなと思った。
俺に彼女が出来たこと、彼女はクリスチャンで、最近ちょこちょこ教会に行っていることを
話すと、一瞬場が白けた。その時、上田という最近仲良くなった友達は、両親がクリスチャンで、子供の頃から教会に通っていて、現在は通っていないことを話し始めた。
「高校から煙草吸い始めて、なんかサタンに負けているみたいな扱いを受けたり、大学に入って飲み会があってもクリスチャンだから飲めませんって証しなさいとか言われたり、牧師や教会の人達なんて教会っていう狭い世界にいるから俺の置かれている環境なんて分からないんだろ。教会のおばさん達は、酒は麻薬と同じだって言ってたし頭おかしいよな。なんで教会の奴らってアルコール5%のビール飲んだだけで、信仰がないとか怒るんだろうな。お前らの怒りは80%超えてんぞこらーって感じだよな」上田がそう言うと、みんなで爆笑してしまった。
「教会に喫煙所作ったら、あの気持ち悪い伝道なんかしなくてもちょっとは人が集まるんじゃないかな。今はどこもかしこも禁煙ブームだからな」上田が言っていることは俺も同感して、なんだか安心した。
「修三、クリスチャンとなんかと付き合って、我慢していたら人生後悔するぞ。今人生の青春まっただかなだぞ。多少傷つくことがあっても、失敗しても許されるのが若さの特権だぞ。
俺、来週他の大学の超綺麗な娘に告るんだ。あたってくだけろだ」
「上田、お前彼女と別れたのか?」
「別れてねーよ、超ラブラブだよ。でも、彼女は一人なんて誰が決めたんだ。俺は大学生活を謳歌するぜ、絶対後悔だけはしたくない。失敗は俺の糧になる、でも後悔は悲惨だ。一生残る傷みたいなものだ。修三、俺はクリスチャンの家族に生まれたから、お前の葛藤は少しは理解出来る。だから、騙されるな。我慢したら、ストレスがたまる。結局ストレスが爆発して、誰もが不幸になる。俺が教会もいかねーが、一応洗礼を受けているし、クリスチャンの精神があるのだとしたら、結果誰もが幸せになるになる人生を歩みたい。よかったら、可愛い娘を紹介するよ。まず、遊べ。遊びをしないで、おっちゃんになってから遊びにはまったら、キモイぜ。」上田の言っていることは、一理ある。俺は教会に行くことで、なんか騙されているんじゃないかと一瞬思った。いや、騙すような人はいないけれど、俺も後悔したくないと思った。今日は久しぶりに英子にlineをしなかった。

                                           おしまい
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登場人物紹介

篠崎修三・・・20歳で初めて出来た彼女がクリスチャンだった。

佐藤英子・・・修三の彼女。3年前にクリスチャンになった。ちなみに修三とは保育園の時の同級生

上田基一・・・修三と同じ大学で同級生の友達。両親がクリスチャンで、小学校に入る前から教会に通い14歳の時に洗礼を受けてクリスチャンとなる。高校に入ったころから、高校3年生あたりから教会生活やクリスチャンに疑問を抱くようになり、大学に入学してから間もなく教会を離れる。現在は彼女、飲み会など遊ぶことが楽しく、教会を離れて良かったと思っている。

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