上田の洗礼

文字数 3,530文字

上田の洗礼

あなたがたは自分の罪過と罪との中に死んでいた者であって、そのころは、それらの罪の中にあってこの世の流れに従い、空中の権威を持つ支配者として今も不従順の子らの中に働いている霊に従って、歩んでいました。私たちもみな、かつては不従順の子らの中にあって、自分の肉の欲の中に生き、肉と心の望むままを行い、ほかの人たちと同じように、生まれながら御怒りを受けるべき子らでした。しかし、あわれみ豊かな神は、私たちを愛してくださったその大きな愛のゆえに、罪過の中に死んでいたこの私たちをキリストとともに生かし、──あなたがたが救われたのは、ただ恵みによるのです──キリスト・イエスにおいて、ともによみがえらせ、ともに天の所にすわらせてくださいました。(エペソ2:1〜6)

「次の日から星ブーは、近藤さんの隣を外され、俺が座っていた一番後ろに座った。で、近藤さんの隣に座った。いや、まじ気まずかったし、近藤さんの机から見える、縦笛が、おいっ、俺を舐めたのはお前だろ、いいのか、このままでいいのかって言ってはあっかんべーってするんだ、一日に何回も。まじ、メンタルやられるかと思ったよ、なんせ、近藤さんは俺に対していつも超やさしいんだ。」
「それで、罪悪感を感じて洗礼を受けたのか」俺は気づけば、上田が何故洗礼を受けたか本気で知りたくなっていた。
「いや、異臭騒ぎが起きたのが、3月の下旬だったから、4月になったらクラス変えになって、ドッヂボールで英雄になって、超天狗になって、女の子にモテて、星ブーの存在を忘れていたよ。なんせ、ドッヂボールで相手のボールがあまりにも早かったから衝撃でぷっとおならが出たんだけれど、女の子達はなかったことにして見過ごしてくれたよ。小学生でだぞ」
「すげーな、お前」
「だろ」上田はすごく嬉しそうな顔をしていた。

「中学は星ブーとは、地区の関係で別々の中学校に行くことになった。そんなことどうでもいいから、俺はバスケ部に入って部活に集中して、それなりに活躍した。俺が中二になったある日、俺の中学に星ブーが仲間10人連れて来て、上田を出せって校門で騒いでんだよ。俺は、急に友達から呼ばれて、今大変なことになっている。他中の星って奴が、俺を出せと言っているらしいぞ、と言っている。俺は嫌な予感がして、その日のバスケ部の練習はミスばっかりだった。汗もいっぱいかいた。ようやく帰る時間になって、みんなと一緒に帰っていたら、
『上田くーん、遊ぼうよ』星ブーが、そう言った。身長が伸びていて、当時の俺と同じくらいの175はあったな。目は一重だったからにらめを聞かせた顔が怖くて、眉毛が細くて、パンチパーマだったから、一瞬この時代にビーバップハイスクールかよって思ったけれど、豊ブーの連れを見たら、りょうがいた。髪の毛が赤色だった。俺とは目を合わせなかった。

「近藤さんの縦笛パーンチ」から始まって、マジでボコられた。俺を殴る、星ブーは一瞬格好いいと思うくらい、昔の面影なんて、なかった。そして滅茶苦茶強かった。俺は土下座させられて、近藤さんの縦笛のことを謝ったら、彼は一言、
「お前、一生許さねーからな」
今から5年前、彼はどんだけ傷ついたのだろう、みじめな思いもたくさんしたに違いない。俺を復讐するために今日までどういう思いで過ごしたのだろう。そんなことを考えたら、またボコられた。膝がブルブル震えていた。顔をあげたらりょうと目が合った。星ブーにボコられて、俺は鼻血ブーになったよ」
「そこはつまんねえな」
「すまん」当時のことを思いだしたのか、上田はすまんといった。

次の日、俺は学校をサボった。またボコられるんじゃないか。怖かったのもある。それ以上に星ブーが一生ゆるしてくれないなら、俺は一生赦されない罪を背負い、うしろめたい気持ちを持ち続けて一生を終えるのか。どうしたらいいか怖くなって部屋から出られなかった。そんなことを2時間くらいうじうじ考えていたら、急に教会で学んだイエスキリストの十字架を思い出して、教会に行きたくなった。

教会に着いて、牧師の山川先生に話をしたら、
「イエス様も最初十字架にかかることを嫌がったんだよ」
「えっイエス様が?」
「うん、御心でなかったら、やめていただきたいって、神様に祈った。でも、それは神様の御心だよと神様に言われたんだ」
「イエス様って神様じゃないんですか」
「神様だよ。神様、イエス様、聖霊様。三位一体の神様。イエス様は神様なのに人となって、この世にきた。紀元前って言葉がBCって言うでしょ、あれビフォークライストを指す、イエスキリスト以前って意味だよ。それほど偉大なんだ。だって神様だからね。イエス様は処女マリア様から馬小屋の飼いばおけから生まれた。男女の営みなしで、汚い臭いところで生まれた。そして、人の罪を背負って赦すために十字架にかかった」
「なんで、罪を赦すために十字架にかからなければならなかったんですか」
「星君のように、人は一生赦さないし、罪を犯した人も赦されないからだよ。だから赦すかたが必要で、赦されるということが人には必要なんだ。赦されるという経験をしないと赦すということも人は出来ないと思う。逆もまたしかりだと思う」
「うーん、でも、イエス様が十字架にかかっても、人は戦争や殺し合いばっかりがずっと続いているんじゃないんですか。」
「例えば、本当に車が好きな人って、好みはあるけれど、どんなメーカーの車もいいところを認めて好きなんだと思う。でも、トヨタが好きな人のなかには、トヨタが一番で、中にはトヨタ以外の車の悪いところや、トヨタ以外は本物の車じゃなって人もいると思う。あくまで例えだけれど、その人たちのことをトヨタ教の信者としよう。この話は、例えだからね。先生はもう一回念をおした。で、そうすると日産教の信者、ホンダ教の信者、外国の車こそ本物の車と思う信者がいると思う。自分の信じているものが一番だと思っていると自分と違うものを信じている○○教の信者を否定したり、馬鹿にしたりする。そうして、関係が悪化して喧嘩をしたりする。車をこよなく愛する人はそれを見て、悲しむよね。神様もね車をこよなく愛する人と同じだと思う。
人を造った偉大なるメーカーである神様は、人をこよなく愛している。私があなた方を愛しているように、あなた方も愛いし合いなさいと言ったのに、人は宗教を作ってしまった。それも色んな宗教を作って、自分たちにとって都合がいい神様像を作って、更に教祖という人を神として崇めて、互いにいがみ合う。自分の信じている○○教が真理なのに、そうでない△△教の信者に真理を分からせるために、聖戦と称して、殺しあったりして、戦争をする。もちろん、戦争は国家の関係や歴史、色んなことがあるから、宗教だけで片付けされるものではないけれど、根本的な図式は宗教と同じだと思う。今まで話したいがみあいの原因に、神様はいないよね。そこで、そんな罪深い、自分勝手な人間のために、イエス様が来られた。上田君が星君に犯した罪も、星君は一生許せないと言っている。当たり前だよね。でも、神が人なって世に来られて、何も罪を犯していないのに、十字架にかけられて、全ての人の罪を贖った。十字架にかかっているイエス様の絵ってふんどしがついているよね。でも、先生は全裸だったと思う。それぐらい壮絶な処刑だった思う。上田君の罪は先生だって君の身代わりになって赦すことはできない。だけれど、イエス様だけが罪を赦すことが出来る。全ての罪を贖ってくださった。イエス様は神様からのギフトなんだよ」
「俺はその話を聞いて、星ブーのことを赦してくれるなら、イエス様に赦してほしいと願ったし、本当にイエス様しか見えなかったよ。そして、先生と悔い改めの祈りとイエス様が自分の罪の贖い主であることを告白して心に受け入れたよ。そして心がすごく楽になったよ。」
上田の話は、結構すごし話だなと思ったし、上田にそんな経験があったことにびっくりしたよ。
「その日から、毎週日曜日は教会に行くようになった。バスケ部は続けたけれど、日曜日は教会に行っている俺を見て、仲間だけでなく、先生もびっくりしていたよ。そのおかげであだ名が牧師になっちゃったけどな。てな、感じだ。もういいだろうこれで。誰にも言うなよ。あー俺、眠くなってきた」
上田はそう言って、ふとんにくるまって、横になって、少ししたら寝始めた。
その時、ブーと上田のおならの音がなって、滅茶苦茶臭かった。
ノンダミンはおならの臭いまで消すことは出来ないみたいだ。

おしまい
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

篠崎修三・・・20歳で初めて出来た彼女がクリスチャンだった。

佐藤英子・・・修三の彼女。3年前にクリスチャンになった。ちなみに修三とは保育園の時の同級生

上田基一・・・修三と同じ大学で同級生の友達。両親がクリスチャンで、小学校に入る前から教会に通い14歳の時に洗礼を受けてクリスチャンとなる。高校に入ったころから、高校3年生あたりから教会生活やクリスチャンに疑問を抱くようになり、大学に入学してから間もなく教会を離れる。現在は彼女、飲み会など遊ぶことが楽しく、教会を離れて良かったと思っている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み