Folge 38 選手交代
文字数 1,537文字
咲乃の芳香で目が覚める。
ボクって言う子がこんなにいい匂い。
見た目はボーイッシュではない。
美咲と同じく色白の美人。
容姿からすれば納得できる。
となると、ギャップを感じるのは自分を『ボク』と呼ぶところか。
そして絡みつく美脚。
咲乃はオレのツボに嵌っている、ということなのかな。
咲乃が起きるみたい。
鼻の頭をオレの胸元から首筋、そして頬へと這わせて来た。
くすぐったいよ、と言おうとしたけど最後まで言わせてもらえなかった。
起きているオレが起きようとしている咲乃からモーニングキスをされる。
寝ている時にされると見ることができないから、これは嬉しいな。
寝ぼけ眼の女の子からのキス。
やっべ。
これ好きだ。
なんだこれ。
最高なんだが。
妹たちから数え切れないほど似たようなことをされているのに。
不思議だ。
照れて赤くなった顔を隠すようにおでこを擦りつける。
オレの鼻は咲乃の鼻で往復ビンタを食らっている。
かえって可愛さが増しているんだが。
唇を唇で受け止める。
彼女はすんなりと受け入れた。
キス、好きだもんね。
真っ赤な顔したままお互いの柔さを細胞に覚えさせるように。
そう声をかけながら部屋の前をタケルが通り過ぎていく。
ギュッとハグをして二人共起きた。
キリが無いからね。
目を見るだけで考えをシンクロさせる。
まさかここまでの仲になるなんて思わなかったな。
手を繋いでリビングへ。
美咲がソファーの前に立っていた。
そこへ咲乃がオレを連れて行く形で向かう。
ん?
何、そのやりとり。
程々とは。
咲乃が忠告するなんて。
軽く背筋に冷たいものが走った。
すぐにでも咲乃に抱き着きたくなったが、すると何かとマズそうだ。
先行きが不安になりつつ、この日から彼女は美咲へとチェンジした。
オレ、なんという生活しているんだ?
普通の生活が出来ていると思いたい。
美咲がにっこり笑みを見せた。
いきなり彼女モード。
そういえば美咲のテンションは極端だった。
振り幅が大きいから慣れるのが大変かも。
とはいえ、最初に告白してくれたのはこの子だ。
咲乃と会うタイミングが違っていたら……。
とっくに正式な彼女になっていたかもしれないんだよな。
そうだった。
告白してくれた気持ちは大切にしないと。
オレも切り替えなきゃ、だな。
咲乃によって繋がれた手は、握手へと。
にっこりしたままの美咲にオレも笑みを返した。
さて、どんな感じになるのかな。
期待はしてしまう。
なんだかんだ言って、オレもこの状況に慣らされてしまったのかな。
もういいや。
みんなが納得していればいいさ。
オレの存在がみんなにとって良いことならそれでいい。
それしか望んでいないんだ。
美咲はニコニコじゃないか。
うん、こういう表情を見られるなら。
オレが一緒にいるだけでそうできるなら。
さて、こうして妹とは違う女子と付き合ってみて感じたこと。
付き合い始めってどう接すればいいのか。
なんだかギクシャクしちゃうんだよな。
でもこの姉妹は良い意味で体当たりタイプ。
オレが悩む暇などくれない。
そこに甘えてしまうけれど凄く助かる。
男としては情けないとは思うけれど。