Folge 16 不意打ち
文字数 3,762文字
寝始めた時と同じ格好で同じ感触のままいきなり目が覚めた。
明らかに朝ではなく夜中だと身体が訴えてくる。
眠った時間の短いことが分かる感覚。
これは眠れていない。
時間を確認してみようとベッド際に置いてあるツィスカの時計に目をやる。
イルミネーションをピンクにしているデジタル時計が二時七分と教えてくれた。
やっぱり。
朝までたっぷり時間があるじゃないか。
このまま妹を堪能させてくれればいいのに。
よりによって丑三つ時に目覚めさせるとは。
仕方がないのでトイレぐらい済ませるか。
その後は朝までの時間を妹成分の充填に充てるのだ。
と囁きながらベッドを降りる。
寝ているんだから待つも何もそのままいるはずなんだけど。
オレの気持ち的には待っててもらうってのがしっくりくる。
結局カルラを起こしちゃった。
すぐに戻るから許してくれ。
でも、起きて一緒に寝ていることを確認。
その方が嬉しく感じられるのかも。
そんなことを考えながら廊下を歩いてトイレに向かう。
夜中のトイレって、他が暗いから妙に明るく感じるんだよね。
明かりを点けているだけなんだけど。
気分的なものだからすぐに用も済ませた。
静かに、そして気持ちはそそくさと妹たちの所へ。
その時、いきなり口を塞がれた。
それも生暖かいモノで。
生暖かいもの。
それはさらに熱を持ったものをオレの口の中へと捻じ込ませて来た。
突然のことでどう抵抗していいのかわからない。
トイレの照明に明るさを合わせてしまった目。
そのために暗闇でのサーチを封じられている。
これではどうにも状況が飲み込めない。
足がつまずき倒れそうになる。
何かに支えられてゆっくりと床に下ろされていく。
そして口を塞がれたまま両手両脚でがっちりと抱え込まれた。
そのまま床を引きずられてどこかへ連れて行かれるようだ。
こんなことをする奴らと言えば、あの二人しかいないだろう。
なんて冷静に語っている場合じゃない!
こんな夜中になんてことをしているんだあいつらは!
引きずられた終点はオレの部屋のようだ。
あの二人が犯人ならば当然だな。
それにしてもオレをホールドしているのは誰だ?
いや、考えるまでもないか。
こんな大胆なことを考える奴は咲乃しかいない。
あ~、せっかく美人な二人なんだからさ。
もうちょっとムードとシチュエーションを大事にして欲しかったなあ。
このやり方は付き合い始めて四か月ぐらいで週に一~二度?
そんなペースで会うぐらいのカップルだよ。
それなら部屋に入るなりする行動として納得するが。
と、オレの頭は妄想する。
付き合ってもいない女子からすっぽんの様に吸い付かれている。
さらにがっちりと抱き締められて逃げるどころか声も出せないなんて。
これじゃあ胸が熱くならないよ。
全くってのは言い過ぎか。
美人から一方的に攻められる。
百パーセント嫌だと思う男はいないな。
それも同じ歳の知っている女子だ。
あ、顔が浮かんできたら動悸が激しくなってきた。
うわ、傍から見たらとんでもない恰好だ。
男女が、それも高校生が!
激しいアピール合戦をしているようにしか見えないのでは。
咲乃からの一方的なアピールだからね!
オレからは何もしていないよ!
そこ大事!
今度テストに出るから!
って、いつまでオレは口を吸われていりゃいいんだ?
妹で慣れているとはいえ、相手が違うだけに勝手がわからん。
ホールドの力も半端ないから色んな所が体中で確認できてしまって。
ちゃんと彼女と言える人だったら。
それならどれだけの幸せを感じられたんだろう。
この状況でこれだけ冷静に考え事が出来てしまうオレもどうなの?
ふむ。
咲乃の暴走か。
納得できるけど納得できない!
にしてもオレ、いい加減息苦しくなってきているんですけど。
咲乃の口の勢いが止まらない。
今度は口の中が腫れてしまうのか!?
もう怪我はしたくないよ。
あんまり大丈夫じゃないなんだが。
でもね、これだけのキスをされているんだ。
男スイッチが入ってしまいそう。
というかもう入っているかもしれない。
自分にしがみつくように抱き着いて離す気配がない。
必死に口にむしゃぶりついている女子高生。
薄暗い部屋というシチュエーション。
この中での彼女の表情は妙に色気を演出されている。
こんな状態で理性を保てだなんて生き地獄としか思えない。
あ、シチュエーション考えてのことなの!?
いやいや、ムードが無いよムードが!
オレが息苦しさを感じているぐらいだ。
咲乃も息が荒くなってきていている。
それがさらに気持ちを熱くしてくる。
この状態を見ている美咲は、何故止めないんだ?
オレ、このまま美咲の前で公開なんちゃらに持ち込んでしまいそうだぞ。
カルラ!?
そうか!
トイレに行ってすぐに戻ると言ったきり戻ってこないんだもんな。
カルラなら当然探しに来るよな。
カルラが必死に咲乃とオレを離れさせようとする。
でも咲乃のホールドがきつくてなかなか離れない。
これの所為でオレも段々変な気になってきていたわけだけど。
美咲が咲乃の鼻をつまんだらようやく口が解放された。
マジで苦しかった。
ここまで取り乱したカルラは初めて見るな。
オレも反省してしまう。
こんな思いをさせる気なんて全くなかったのに。
咲乃は床に座り込んだままカルラに頭を下げていた。
オレはカルラの腕を軽くポンポンと叩いて話しかけた。
そう言ってカルラは改めてオレの頭を抱え込んだ。
声が籠ってしまう状態だけど、そのままの体勢で美乃咲姉妹にそう伝えた。
泣き顔のカルラはコクリと頷き、部屋を後にした。
カルラを連れてリビングへ。
ソファーの前でカルラを自分の方へ向かせる。
まだ若干べそをかいたカルラの顔を確認して、そのままキスをする。
とにかく思いっきりカルラを抱きしめた。
色んな思いが湧いてきた。
けど、それをいちいち言葉にするよりこの方が伝わると思ったんだ。
カルラも力いっぱい抱きしめてくれた。
やっぱり安心して気持ちを通わせられる。
それはこの子たちなんだな、と改めて思う。
特に最近カルラへの気持ちは自分の中で少し違ってきているようだ。
なんだろう、この感覚。
随分長いトイレタイムになってしまった。
部屋に戻ってからは事件の起こる前と同じ体勢で、改めて眠りに就いた。
あ、ちょっと違うな。
寝始めの時よりもっとカルラを感じられるように抱きしめた。
するとカルラもようやく安心したみたい。
それからは可愛らしい息遣いになったんだ――――