Folge 27 体験版
文字数 3,516文字
さて。
咲乃が登校を再開した週の最終日。
金曜日だ。
火、水、木は症状も軽くならなくて大変だった。
途中保健室で休んだり、突然教室を飛び出してトイレに駆け込み吐いたり。
毎日ヘトヘトになっていた。
そして今日もオレにしがみ付いての教室入り。
クラスメイトも慣れてきたようだ、とオレは思い込んでいる。
じゃないと、あの目線に耐えられない。
咲乃は双子の姉である美咲と当然だが同様に美人。
雰囲気に多少の違いはあるものの、髪型から制服の着こなしまで同じ。
若干咲乃はスカートを短めにしているぐらいかな。
初見の人ならどちらか分からないだろう。
そんな子が男子と腕を組んで毎朝登校してくるわけだ。
おまけにその相手がオレ。
オレは弟妹好きな上に、妹と付き合っていると噂されている。
その所為で毎日白い目で見られている身。
噂は本当なので何も言い返せないのだけど。
そんな奴が美人で有名な女子の妹と毎日くっついている。
視線が優しいわけがない。
オレが吐きそうだよ。
あのな。
そういうセリフはオレが言いたいんだよ。
裕二はオレの一番言いたいことを全て持って行っちまう。
裕二は敬礼している。
相変わらず軽いなあ。
しかし驚いた。
咲乃はオレの気持ちが分かったのかと思った。
というより、そのままの意味でオレの言葉として聞きたかったのか。
なんだか嬉しいな。
つい、頭を撫でてしまった。
そういえばココ、学校だった。
咲乃は上目遣いでにっこりしている。
はっ!
そうか、そうなってしまうんだ。
痛い視線を気にしないためにも、咲乃の目を見ていよう。
ほらほら。
そういうこと言うからオレに痛い視線が突き刺さる。
上目遣いを続けたまま今度は目をうるうるさせている。
そんな表情されたらなんでも許してしまうじゃないか。
う~ん。
確かに付き合えない理由があるのかと問われると……。
無いんだよね。
どんな子か分かっている今となっては。
実は壁を無くしているんだよ。
これってもう、付き合えってことなのかな。
でも、最初に告白してくれた美咲の気持ちは?
最近美咲はオレに対して告白当初のようなアプローチは一切して来なくなっている。
やはり、タケルと……。
あ、それは置いておくんだった。
ああもう!
わからないんだよ!
◇
朝、散々裕二を交えて話してからあっという間に全ての授業が終わった。
今日咲乃は、明るい表情にはなれないようだったけど、酷い症状は出ずに過ごせた。
初めて一日無事に過ごせたんだ。
前進できて良かったなあ。
下校途中にそんなことを思いながら歩いていると、無意識に咲乃の頭を撫でていた。
咲乃の腕への抱き着きが強くなるまでそれに気づかずにいたよ。
まいっか。
咲乃がニコニコして調子が良ければ。
あれ?
それって、妹たちに思うことと一緒じゃないか?
う~む。
ということは、もしかして裕二が言っていたことって。
付き合っているようにしか見えないというより、もう、そうなのかな。
その方が自然なのかな。
そういえば、何か忘れているような……
美咲って、どこ?
冷静になってみると、後ろから付いてきている足音が聞こえる。
当然振り返るよね。
はは。
妹以外で双子から挟まれるなんてこと、考えもしなかったよ。
なんて言っているうちに藍原家が間近に迫ってきた頃、
よく通る元気な妹の声がした。
二人共走ってくる。
その二人の後ろにもう二人の姿が見える。
いつの間にかオレから離れていた美咲とタケルが道角で話していた。
やっぱりそういうことなのかな。
あたた。
ツィスカに思いっきり体当たりされた。
ツィスカはお得意の腰に両手の甲をあて、仁王立ちなポーズをとる。
もうツィスカポーズと言っていいのかも。
カルラもツイスカの横に並んで何やら話し出した。
二人で畳みかけてくるお話は毎度圧倒されるよ。
へ!?
それどういうこと?
それ凄い提案だな。
彼女から体験で彼女になれという提案。
聞いたことねえ。
あ、見透かされていた。
ってか分かるよな、この妹達なら。
妹二人は同時にため息。
なんか、すみません。
咲乃がここ最近で一番の笑顔になっていた。
そして、その笑顔をオレに向けて見せてくる。
こうなると、この子は可愛いや。
はぁ、オレの負けです。
ツィスカが釘を刺している。
妙に嬉しかったりして。
オレってつくづく妹が好きなんだな。
我ながら困ったもんだ。
にしても、咲乃と付き合うのか。
付き合うってどうするんだろ。
今までと何が違うんだろ。
実は、わかんねえ。
だってさ、妹とは仲良くしているだけだし。
他の人と仲良くせずに彼女とだけ仲良くするってこと、と違うのかな。
わっかんねえ。
言われて付き合うってのも良くないと思うけど、体験だもんね。
オレとしても体験版か。
気楽にやってみますか。
それで、いいんだよね?
ああ! わっかんねぇ!