Folge 29 初日
文字数 3,082文字
さて、できてしまったけど。
か、彼女が。
どうしたらいいんだろ。
妹という彼女もいるのに。
それを彼女としてカウントしていいものなのか?
カウントすると、三股になるぞ。
お付き合い未経験者なのに三股。
オレ、プレイボーイ……。
似合わないよ。
カルラの勧めで、というか言われるままにオレの部屋にいるわけだが。
ベッドに二人で座っている。
咲乃もソワソワしていていつものモーションは仕掛けてこない。
オレの腕にしがみ付いたままだ。
ずっとこうしているのも悪くない。
悪くは無いのだけど、やっぱり話ぐらいするべき、だよな。
と言っても話すこと、う~ん、ネタが思い浮かばない。
落語や漫談をするわけじゃないのだけど、それに近いようなネタを探してしまう。
困った。
咲乃の表情は少し頬を赤らめながら満足気。
それを見るとオレもこれで良かったんだなとは思えるよ。
どうも無理に話をする必要もなさそうな雰囲気だし。
ふぅ。
にしても。
まだ朝なんだよね。
このまま寝るっていう気分でもないし、違うと思うし。
どうしたらいいの?
困りながら話す時。
痒くも無い頭を掻きながら話す。
照れとか、話しのネタがないとかを隠しているんだよね。
このままかぁ。
それじゃあ、とりあえずこのままで。
へ?
ツィスカが上ずった声で尋ねてきた。
ほんとに、なんて声出してるんだか。
その不慣れな感じはなんなのさ。
バイト初日の接客じゃないんだから。
まったく。
何に緊張しているんだ?
普段から大声な上に活舌ばっちりで通る声なのに。
な!?
今度はカルラかよ。
何をしている何を!
絶対いつものカルラじゃないよね!
なんなの!?
ヘラヘラしたまま部屋を出て行ったし。
あいつら……。
うわぁ。
あいつらとはまた違う色気満載の上目遣い。
ふむ。
そういうことか。
だから妹はあれだけくっつきたがるのか。
なるほど。
いや、他人事じゃないんだからしっかりしなきゃ。
そう言ってオレを押し倒してきた。
いきなりですか!?
そういうことになるんだな。
受け入れたんだもんな。
今までで一番優しいキスじゃないかな、これ。
唇にそっと触れてから……。
なんだか新鮮だ。
ファーストキスな気がする。
いや、付き合うことになってから初めてのキス。
これこそがファーストキスなのかもしれない。
だから新鮮なのかな。
なんだろうね、この甘い感じ。
触れている口もそうだけど、心も体もそれを包み込む空気さえも。
付き合うって、こういうことか。
この先、こんな風に、新しい感覚に触れていくのかな。
そんなことを考えていたら、身体が勝手に咲乃を抱きしめていた。
すごく愛おしい。
妹に対する気持ちとは、何故か違う。
なぜか嬉しくなってさらにきつく抱きしめた。
咲乃はそのまま受け入れてくれている。
こんな気持ちをわかってくれるのか。
苦しくないのかな。
でも、溶け込み合うほどにもっと抱きしめたい。
情けなくなんてない!
咲乃自身が引き起こしていることじゃないんだから。
何も悪くないんだ。
うるさい奴らだなあ。
覗きを堂々とバレるようにやるんじゃない!
二人の妹は一瞬固まってからギシギシと音が鳴りそうな動きでこちらを見た。
笑いたい所だけど、ここは怒っている顔を見せておきたい。
堪えるのが辛いけど。
逃げ方下手か!
まったく。
咲乃が思いっきり笑顔だ。
澄んだ笑顔。
これをオレが引き出しているのか。
うん、気分良いな。
オレは咲乃の肩を抱いて引き寄せながらドヤ顔をして見せた。
あ!?
それは卑怯な表情だろ。
澄んだ笑顔なだけでもグッときているのに、さらに目を潤ませるとか。
はい、落とされました。
証明印押しときます。
なんとなく階段付近からの目線を感じるが。
二人の世界に無理やり集中して、この初体験を脳に焼き付けた。