Folge 94 とっておきの場所
文字数 2,246文字
到着寸前からこれまでとは違う雰囲気を感じていた。
気づけば道が広がり野原へと移る。
少し湿地帯になっているようだ。
その所為なのか、呼吸を楽しませるような瑞々しい匂いに変った。
改めて山に来ているんだなと思わされる澄んだ空気。
手を繋いだまま野原を抜けてゆく。
何かのお話に入り込んだような幻想的な場所。
オレだけ楽しんでしまって申し訳ないと思ってしまう。
でもこれは美咲がオレに見せたいもの。
無粋なことを考えるもんじゃない。
綺麗な子と歩く素敵な場所。
ガイドブックでも作った方が良くないか?
――――まただ。
余計なことは考えるな。
ただ美咲の作り出す最高の世界に浸らせてもらうんだよ。
野原の外周は木々の壁で囲まれている。
森の中にぽっかりと出来た場所のようだ。
外周は一部だけ木の間から日が差し込んでいる。
美咲に合わせてその隙間へと足を向けた。
手を離され、先に行くよう促してきた。
先に抜けるしかないようだ。
言われるまま足を進めた。
確かに。
こんな所が待っているとは思わなかった。
抜けてきた野原よりはるかに広い野原。
そして丘になっている。
朝露が少しだけ残っているのかな。
部分的にキラキラとしている。
それもこの場所の特別感に貢献しているんだろう。
今度はオレが美咲を連れていく形で手を繋ぐ。
どんな所でも人が入ったことのある所ばかりだろうに。
よくこの状態で残っていたな。
山脈や山間にある集落が見える。
美咲はその全てに釘付けだ。
濡れていない場所を探してお互いに座った。
これは少しだけカッコつけたかったから。
確か映画だったと思うけど、そんなシーンがあったんだよね。
実際にすると、実は変かも。
街中だと人目が気になる分、恥ずかしくなるのか。
二人きりで自然の中なら。
場所がちがうと印象って随分変わるもんだな。
当たり前のことでも感心してしまった。
カッコつけようなんて似合わないことを考えるもんじゃないな。
長い髪を前に垂らしながらこちらを覗き込む。
正座を崩した座り方。
女の子らし過ぎて思わずじっと見てしまうじゃないか。
良い意味ならいくらでも弄りに来てくれて構わない。
寧ろ、来てほしい。
美咲は目を丸くしている。
自然に醸し出ている色気を置き去りにして。
その言葉で元の美咲に戻った。
少し沈んだ顔だけどね。
沈んだ顔に期待が混じる。
妹級イコール彼女級。
妹は彼女だから……彼女ってことになるのかな。
同じ事考えていたね。
やっぱりそうなるのかな。
いっそそうするか?
姉妹揃って同じ人に同じ想い……。
こういうのって揉めるはずだよね。
なのに妹もさくみさも、自分が彼女として認識してもらうことが重要で。
それが叶えば幸せだと。
――――幸せに、なれるのか。