Folge 02 藍原家の食事
文字数 2,802文字
朝飯の時間。
妹達がせっせと食事を用意してくれている。
オレが食卓に座ろうとした時、カルラがオレを見て一言指示を出してきた。
カルラに言われて洗面所へ向かう。
顔を洗って……うわ、水冷たい。
顔が赤くなっちゃったよ。
色が白いからすぐ赤くなるんだよな。
まだ温水で洗うべきだったか。
よし飯を食べに……いや、寝ぐせ直してないや。
ボケてるなあ。
洗面所入ってスイッチを押す。
五分間ボーっと立っていたらセット完了。
なんてボックスが開発されないかな。
タケルが見かねてオレの寝ぐせを直し始めた。
いや、ただオレをいじりたいだけか。
なんだか美容室に来たかのような手際であっという間に仕上げられた。
結果的に五分立っていなくても、自動でセットが完了した。
なんだ、もう開発されていたのか。
いい時代になったものだ。
ツィスカがオレの口元にウインナーを寄越してきていた。
反射的にパクッと食べちゃった。
にこにこしているツィスカのペースに乗せられているな。
新婚か!
これを毎日なんだよな。
この歳で新婚気分を味わうってどうなの。
彼女もできたことないのに。
彼女、か。
もしかして妹を超える子じゃないと、オレは付き合えないのだろうか。
それってヤバくない?
知らない間にオレの右横にカルラが座っていた。
そしてスライスしたゆで卵をレタスに乗せて、オレの口へと運んでいる。
なぜかノンオイル柚子ドレッシングが掛かっているサラダをいただいた。
まあ、大体ドレッシングはどれかけてもおいしくなるのだけど。
毎日こうなのだ。
だからわざわざこんなこと言わなくてもいいのだけどさ。
さっきツィスカに言った手前カルラに言わないと膨れるからね。
新婚か!
パートⅡ。
まったくこの娘ら、実は俺を殺しにかかっているのではないだろうか。
こういう時、タケルは黙って淡々と物事をこなしている。
姉を優先させる。
これは幼少の頃から受けてきた姉からの圧力により確立されているらしい。
オレの知らないところで三人はどんなミーティングをしているのか。
考えると怖くなってくるので、その辺は気にしないようにしている。
といっても、普段の行動で容易にわかるけど。
燕の雛のように双子から朝食をいただいた後は、全員が制服に着替える。
この着替えがウチの場合は多分、いや絶対に他の家庭とは違うのだと思う。
ウチは戸建ての5LDK。
両親の部屋、オレの部屋、双子の共用部屋、タケルの部屋、そして着替え部屋。
この着替え部屋。
タンスと化粧台、ハンガー掛けが置いてある。
まさに着替えるための部屋となっている。
一部の部屋着は自室にそれぞれ置いてある。
それ以外はすべてこの部屋にあるのだ。
そのために着替えるといえば、全員がこの部屋で着替えるわけだ。
頬っぺた膨らませてオレを睨むツィスカ。
あーもう!
この娘はなんで……いや、言うまい。
贅沢というものだ。
こんな状況が無い生活だったら多分逆の事を言っているだろうし。
オレは中学三年の時考えたんだ。
妹達が中学一年になった時。
さすがにいろいろと気にするべき。
そう考えて兄貴ではなく保護者意識を優先すると。
できるだけ一般的な家庭にしようと尽力してきたつもりだ。
――――だが。
三人はこちらの思いなどお構いなしにそれまで以上に懐きだしたのだ。
それでも自分なりに踏ん張ってはみたが全く効果無し。
幼少の頃から行われていることは継続された。
そして進化し、今の状況に至るわけだ。
だったら受け入れてやろうじゃないか、この世界を!
もういいや。
三人が幸せに暮らせるのならそれでいい。
オレの幸せにもなるのだから。
ツィスカのブラを、正直マジで直すとこなんて無い。
でも左右を掴み適当に下側へキュッとしわを伸ばすようなことをしてみた。
いちいちその歳の色気を限界突破させるんじゃない!
見慣れている胸に被せられている布切れ。
こいつを先ほどと同じように直した風にしてみる。
あ、さりげに凄いこと言ったかオレ?
妹達の様子でわかるとは思うが。
オレの前で裸が平気なのは言うまでもないこと。
風呂は毎日一緒に入っているから見慣れている。
小さい頃からずーっとね。
カルラが痺れを切らして要求してきた。
でしょうね。
一人構ったら最後、全員納得するまでお相手をしなければならないのだ。
ツィスカと同じようにしてあげると、カルラはまた隙をついてキスをしてきた。
ツィスカは自分からではなくてオレからしてもらうのが好き。
手を軽く顎に当てて上に向け……恥ずかしいからこの先は教えない。
タケルに何もしたくないわけじゃないんだよ。
でもね、男同士で着替えに関して手伝うってシチュエーションは無いでしょ。
まるで介護のようになっちまうからさ、気分的に。
なんとか着替えも済み、登校し始めないとまずい時間になってきた。
全員でぞろぞろと家から出ていく。
鍵を閉めて登校スタート。
近所の家から同じように出て来た中高生達の視線を感じる。
そんなことを気にするなんて今更無いオレ達。
共通の通学路間。
双子という花に両腕を抱えられ、背後に弟が付いてくるフォーメーションで歩き出す。
さあ、疲れる一日が始まるぞ。
―――― 始まるのか。