Folge 36 仮の最終日
文字数 2,201文字
はあ。
とうとう咲乃の彼女体験が終了だ。
ん?
今オレ、ため息ついたな。
なんでだろ。
下校途中、狭い路地や美乃咲家などに連れ込まれそうになった。
まったく。
そういう時、女の子であることを疑いたくなる力を出す。
それをどう回避するかというと。
まあ、その……。
引っ張られたらすぐにキスをする。
すると納得してくれる。
こうして回避している。
あれ?
回避……。
ツィスカを先頭にウチの三人が出迎えてくれた。
この時、咲乃はささっとオレから離れる。
すぐ傍にはいるけれど。
妹に嫌われると彼女になれないと思っているようで。
確かにそうなのだけど。
毎度そこにオレの意向が存在していないことが納得いかない。
弟妹からの愛情表現であると自分を納得させている。
それ以外無いけど。
タケルがオレの後ろにいた美咲に声をかけた。
って、いたのかよ!
全く気付かなかったぞ。
咲乃も気づいていなかったし。
ということは、キスを全部見られていたと!?
なんてことだ……。
ただいまぁ?
美咲がそんな甘い声出すなんて。
タケルとはやっぱり……。
なんだよ二人でニコニコと。
妹との抱擁が済んだところでタケルが来る。
後で、ね。
きちんと聞かせてもらおうか。
風呂で話した時は解決していないと言っていたやつかな。
解決したから話せるってことか?
オレ絡みって言っていたよな。
オレ絡み――
あれ?
タケルとの仲じゃないのか?
てっきり二人がそういう関係にって展開になっていると思っていたけど。
まあいいや。
教えてくれるなら考えていてもしょうがない。
おっと。
ダンジョンに入りかけていた。
咲乃が改めてしがみ付いてきたから戻れた。
そうなんだよ。
今日は咲乃との最終日。
仮彼女のね。
できるだけ一緒にいてあげないと。
ん?
今日は妙に気になる言葉が出てきているな。
駄目だ。
ダンジョンに入るから考えるのはやめよう。
ツィスカがオレの前に立ち塞がる。
怒っちゃった。
今のは失言だったな。
確かにこいつらの顔を見るとホッとするんだ。
毎日帰って来たんだって気になる。
なんだろ。
嬉しいのは確かなのにオレ、何か変わってきているのかな。
そう、何も悪くないんだ。
どうしてこんなことを言っているんだろう。
カルラが割って入ってきた。
押し付けられた手のひらに思いっきり息を噴射したらしい。
オナラの真似にしては豪快過ぎる。
押し付けられたまま何か文句を言っているらしい。
わからん。
次女はよくできた子だ。
長女をうまくコントロールする。
いや違うな。
カルラは常に冷静だ。
穏やかな雰囲気で家族を包んでくれている。
家族のいる空間が暗く染まることを嫌う。
それを家族は全員知っている。
ツィスカはワザと遊んでいるわけだ。
だって、文句を言いたければ手を退かせばいいのだから。
美咲がクスクス笑っている。
仮彼女が始まるからなのか?
でも咲乃がくっつきだしてからは、オレから離れていた。
初めて会った時のアレはなんだったのかと。
聞きたい衝動を何度抑えたことか。
タケルが全員を誘導する。
家に入るととりあえずリビングのソファーへ。
美乃咲姉妹が来るようになって、賑やかになったよな。
妹も女子トークが盛り上がるときは楽しそうだし。
全然予想していなかった状況だ。
お互いに細かいことを気にせず話せる相手が増えて良かったよ。
にしても、咲乃はひたすらくっついている。
どうやって離れずにいられるのか。
くっつかれているオレが不思議に思う。
とにかく真っすぐなんだよな。
ところで。
決して嫌では無いのだけど。
いや、寧ろ大好きだ。
大好きだと最初に知られたから仕方ないけど!
オレの太ももに脚を乗せてスリスリしている。
ほんとにもう。
めっちゃ綺麗な脚だなおい!
あれ?
オレは何を言おうとしている!?
大人し過ぎてさ。
大胆な部分は欠かしていないけど。
なんだか可哀そうになっちゃって。
だってオレだよ?
オレをこんなに好いてくれるなんて。
激レア当てているでしょ。
自然と頭を撫でていた。
そんな二人の世界に浸っていたのだが。
どうも目線が気になる。
これって。
感じる目線の方へ向いてみる。
こちらをジッと見つめながらにっこりとしている咲乃似の女の子。
妹と同じく一卵性の双子だ。
似ていて当然。
その人物とは……。
深々とお辞儀をする美咲がいた。
にこやかなのは良いことだ。
でも何かひっかかるんだよ。
早くタケルに話を聞きたい。