Folge 31 くちびるの日
文字数 2,970文字
――――はぁ。
ツィスカのハードになりかけたスキンシップをクリア。
なりかけた、というのはカルラが止めに入ったからだ。
お互いにけん制し合っているようだ。
そのおかげでオレも一線を越えずにいるのだけど。
って、そんなの無くても越えそうになるなよってとこだよな。
でもね、こんな妹を二人も相手にしていたら止めるの大変なんだよ。
そして現在は咲乃の番。
嬉し恥ずかしそうにオレの上にいる。
うう。
恥ずかしかったら無理にしなくても良いのだけど。
そういうことじゃないし。
オレも咲乃を感じたい気持ちはある。
でも、恥ずかしそうにされるとオレも照れてしまう。
オレから咲乃を横に並ぶように下ろす。
寝返りを打って咲乃を抱えた。
顔を正面に見る。
咲乃の顔は真っ赤だ。
まだ一言も発していない。
あれだけベタベタとくっついてきた子が恥ずかしいとこうなるのか。
むちゃくちゃに可愛いんですけど!
こういう時は別に話さなくてもいい。
ただ、身体のパーツそれぞれが動きたいようにさせるだけ。
可愛い顔を見たら頬や頭を撫でたくなる。
頬ずりをして鼻キス、ひたすら瞳を見つめるとか。
咲乃はジッとしてオレからされることを楽しんでいるようだ。
声を聞いたら反射的にキスをしてしまった。
ダメだ。
可愛すぎる。
オレからするのは……二度目だっけ。
これからはオレからの方が多くなるかも。
ははは。
ま、そんなもんだ。
二人共緊張の糸が切れてしまって、笑うしかなかった。
藍原家はこういう所だ。
◇
咲乃に足を絡ませられながら朝食を口にする。
オレって常に誰かに触れられているな。
そして咲乃の食事スタイルもこれで固定のようで。
ツィスカの睨みがたまに飛んできているけど、オレは知らんぞ。
脚はスリスリされている。
よくこの状態を維持したまま食事ができるな。
こっちが気になって食事が進まなくなっちまう。
なんだか凄く睨まれている。
もう、なんなんだよ。
どうしろってんだ!?
その疑問を解くように、カルラが口を開いた。
まあ、そうだろうね。
ツィスカが家でプンスカ怒るときは『やきもち』ぐらいだ。
なんて口にしたらまた大変なことになりそうだから言わないけどさ。
ご機嫌が直った、かな?
ははは。
ツィスカの思う通りじゃないとダメなわけね。
そうしたら何してもダメって言いそうだけどな。
オレからは今の所ほとんど動いていないし。
オレから動く時は妹がいないのを確認しないと。
なんでコソコソしなきゃならないんだ!?
監視されながら付き合うって、付き合っているの?
困ったもんだ。
たぶん、咲乃が構わず動くとは思うのだけど。
それって、人任せになっている……。
オレ、最低だな。
自分でなんとかしないと !
男なんだぞ、サダメ!
オレが動くべきなんだよ。
どう動けばいいのか分からないから困っているんだけどな!
付き合っている時の男はどうしたらいいんだ!?
◇
食事も終わっていつも通りソファでくつろぐ。
優雅に聞こえるな。
へ?
カルラ?
いや、咲乃だ。
カルラも驚いている。
敢えて仕掛けていく咲乃。
咲乃らしいんだけど、その、色々と荒れそう……。
うわぁ。
むやみに荒れそう。
おっと!
咲乃がオレの膝に乗ってきた。
思わずゴクっと唾を飲み込んでしまう。
両手で顔を優しく挟まれた。
するのか。
こうされると全く逃げられないオレ。
こういう時とか、みんなどうするの?
オレのこと好きで寄ってきている人なんだから、拒まないよね?
好きな人だったら好きなようにさせてあげるものだと思っているのだけど。
なんて考えているうちにしっかりとキスをされた。
当然のようにツィスカが叫んでいるけど、止めには来ない。
ははは。
なんだか笑える。
認めているけど認めていないっていう、どちらにも振り切れていない妹たち。
それを見て楽しむオレがいる。
悪い遊びを知ってしまったような。
そうか。
とりあえずそれを楽しんでみよう。
せっかくできた彼女だ。
彼女との時間を楽しまないと勿体ない。
彼女ができたから、妹たちの反応も変わって面白くなってきたんだ。
そうと決まれば!
うっわぁ。
結局それが着地点か。
オレに休息は訪れない。
そういえば、さっきから一人家族が足りない。
タケルだ。
咲乃とのキスを中断して妹に聞いてみる。
咲乃に顔をグイっと正面に向けられる。
こちらの双子は姉妹で争っているようだ。
キスが再開された。
こういう所が可愛くなっちゃうから身体は自然と受け入れてしまう。
寧ろこちらからも動いてしまって。
ツィスカは怒って部屋へ逃げちゃった。
カルラは家事を続けている。
これからはこのパターンになるんだろうな。
タケルが気にはなるけど、咲乃の気持ちに答えていよう。
今日はキスの日だ。
あ、いつもキスばっかりしていたっけ。
これは裕二に聞かせてはいけないやつだ。
口を滑らさないように気を付けよう。