Folge 09 致し方ない
文字数 3,651文字
こいつら……。
また殺しにかかってるよ。
殺人未遂数が半端ねえぞ。
えっと、この声は……。
藍原四人組は一瞬全員が固まった。
ちょうど弟妹と別れるポイントに彼女は立っていた。
ツィスカが一歩前に出て胸を張り、腕を組んで啖呵を切りだした。
美乃咲さんはニコニコ顔のまま自分の行動を肯定する。
ツィスカは言ってみたものの、これといった武器になるネタを用意していたわけではなかったようで、返す言葉が出ずに唸るだけとなってしまった。
ああそうだよね。まだ血が出ているし、腫れ対策で保冷剤をタオルで巻いて血も拭けるようにしていたんだけど、顔のほとんどが隠れているし、真っ先にこれを指摘されなかったことの方が不思議だな。
唸ったままのツィスカが自分のやらかしたことを思い出したようで、オレの後ろに隠れてしまった。
それだと私が犯人ですと言っているようなものなんだけど。
――――可愛い。
う~ん、これってうまくいくのかな。
なんだか嫌な予感しかしないのはオレだけじゃないよね?
三人にも聞いてみるか。
ツィスカはすっかり勢いが無くなってしまった。
後半のセリフはフェイドアウトしちゃったよ。
ふむ。
ここは怪我を全面に押し出してやり過ごすとするか。
と返事をしてくれた。
まんまとこちらの弱みに付け込まれて美乃咲さんの作戦に乗せられた感があるな。
でも致し方あるまい。
弟妹たちは弱々しく手を振っていた。
実はもう鼻血とは言えないんじゃないかと言うほどに血が出ている。
その証拠に若干フラフラしているんだ。
こんな体調での一人登校は不安でしかなかった。
正直言って、美乃咲さんがいてくれるのは助かる。
――――ビシッ!
へ?
なんか凄い音が聞こえて来た。
いやいやいや。
十分酷いことしていると思うんですけど。
女の子だからね、何かあってからでは遅い。
それしかオレが許している理由無いから。
またこの人の分からない展開が始まったぞ。
でもこの人、オレたちがシス&ブラコンの四人だと分かってるはず。
それなのにオレにアタックしてくるんだよな。
結局オレがモテない理由とは。
シス&ブラコンなことが一部に知られてそれがあっという間に広まった。
オレに告白するのは変わっているやつに違いない。
そんなレッテルを貼られてしまうのを恐れているから。
裕二に言わせるとオレはモテていないわけではない、と言うんだ。
告白したくてもその気持ちを抑え込んでしまうほどの風評被害がある、と。
それをわざわざ否定して回ったところで拗れるだけ。
だからオレは諦めたというわけ。
幸い、女子は可愛い妹が二人もいる上にオレのことを好きだと言ってくれている。
だからもういいや、ってね。
デートもできちゃう弟までいるし。
そんな壁をいともたやすく乗り越えてしまったのがこの美乃咲さんなわけだ。
これってやっぱり無視できることじゃないよな。
すっげぇポジティブだな。
グイグイと迫ってくるタイプには慣れっこだ。
その所為か、妙にしっくりきてしまうのだが。
振り子のように鞄を持つ手がさらに大きく振り出す。
美乃咲さんの笑顔も増し増しになった。
結構毒舌だよな。
心までは美しく咲かせていないのかな。
ギリギリで学校に着いた。
ということは、生徒達はすでに全員校内にいるということになる。
わざわざ目立つ状態とわかっていて入って行くのはしんどいな。
オレたち二人のことが目に入った生徒達は案の定ヒソヒソ話を始める。
雰囲気の悪い花道を作ってくれていた。
なんとも気分の悪い光景だ。
でも、美乃咲さんがいることで不思議と平気になってくる。
これも美乃咲さんの狙いなのだろうか。
鼻血をためておいてぶっかけてやりゃよかった。
今先生の声を聞いたということで、遅刻せずに済んだのだと実感した。
でも、意識がなんだか遠い気がする――――