Folge 03 うそだ!
文字数 5,156文字
こいつらは~。
いやうれしいよそりゃ、できりゃそうしてあげたいよ。
毎日のようにこいつらの中学校へ行きたいって言っている。
耳がタコになっちまうだろっ、なっちまったら気持ち悪ぃじゃねぇかって。
面白くない返しで毎度叩かれてるし。
あ、裕二ってオレの友達ね。
オレがこいつらにネガティブ発言をすると、必死に関係修復を試みてくるんだ。
実はオレがいつか離れて行きやしないかとビクビクしているらしい。
それが日頃の過剰な愛情表現となっている模様。
そりゃあ両親がほぼ不在の中で頼れるのはオレしかいないんだしね。
オレへの愛情表現がただの寂しさだけだったらと思うと、オレも辛いんだが。
そんなこと確認は……したいけどしない。
オレが必要ならそれに答えてあげるだけだ。
こんな純粋な子たちを見捨てたり離れたりするわけないじゃない。
でもたま~に弄ってやりたくもなるのが兄貴ってもんだ。
兄貴として精一杯の愛のムチ(ジャムとシロップたっぷり入ったやつ)だから受け取っておけ。
そう言っといて、自分がこいつらから離れるための自分へのムチってのが九割だけどね。
ま、手ぐらいは振っといてあげよう。
じゃないと授業どころじゃなくなって成績に影響あるかもだし。
あいつらの成績はあんな調子のくせに何故か三人とも上位集団の一員らしい。
だから面談に行くと先生からの評判がすこぶる良い。
ティーン真っ只中のオレが親の気持ちで喜んでしまう。
――――ただ。
一つだけ問題がある。
やたらとモテることは既にお伝えしている通り。
その点で随分とやらかしているようで。
特に双子。
女子から告白されることもあるという程らしい。
それはお友達なら構わないと返事をする。
問題は男子からの告白。
男子にしてみれば高嶺の花。
それでも想いを伝えたいのが男の性。
その気持ちはよ~くわかる。
告白にはパターンがあると思う。
一、玉砕覚悟で本人に直接伝える
二、女子と話すのが平気な男子に間接的に伝えてもらう。
三、馴染みのある女子に間接的に伝えてもらう。
四、もし既にある程度の知り合いであればチャットアプリを使う。
五、手紙等を何処ぞに置いておき読んでもらう。
こんなところがよくある話かな。
――――さて。
告白された時の対応については帰ってから実際に聞いてみよう。
ほぼ毎日のように三人のうち誰かが、もしくは全員が告白されるらしいから。
オレも報告をしてもらわないと心配だし。
脳内で整理しているうちに学校に着いちゃった。
ちなみに、中学校と高校共に自宅から歩いて十五分の所にある。
敷地は離れているけど、一貫校。
今日も敷地内に入るとあちこちからの視線を感じるぞ。
そんなに興味があるならオレも告白されたってよくない?
金髪系ではないけど栗毛で茶眼。
肌は白で顔も初見で日本人だと思う人はいないであろう容姿。
なのに、これまでに一度も告白されていない。
別に容姿で釣ろうとしているわけではない。
あまりにも告白なんてイベントが起きないからさ。
容姿のアピールもたまにはしたくなってしまう。
オレの名前がサダメだからってこんな呼び方を時々してきやがる。
カバンに安産祈願のお守り百個を一つずつ男結びにして付けてやろうか。
チョップしてきたのは
いつも俺の味方をしてくれる心強い奴です。
最近の裕二は以前とは変わったように思う。
半分面白がっていたオレんち事情に同情するようになってきているようで。
くっそ。裕二が高笑いしてやがる。
ああそうさ、オレこそ弟妹が大好きなんだよ。
割り切ったはずなのになんでまだ悶絶してるのかなあ。
そんな話をしているオレらの所へどなたかが。
黒髪ロングで前髪に真っ赤なコンコルド。
スリムなボディに透き通るような白い肌の美形女子。
そんな人がツカツカと足早に近づいてきた。
明らかにうちのクラスメイトではないことが分かる動き。
オレらだけでなく他のクラスメイト達もその女子に注目していた。
オレは裕二が高笑いを突然やめたから気づいたんだが。
その女子はオレらの所まで来て急停止した。
それも靴が鳴る程のブレーキ音を立てて。
思わずどこかで聞いたくだりで、それも関西弁で言ってしまった。
へ? 何か言おうとしたみたいだが詰まったようだ。
いやいや。
このまま何を言うか気にさせといて。
また来週とか続きはウェブで、なんて今更使われないようなエンディングじゃないだろうな。
いったんコマーシャル入るとかシャレにならんぞ。
ここまで威勢よく来たからてっきり冤罪でも突き付けられるかと。
『あなたね! さ、警察へ行きましょう』とか叫んで。
どこぞのお嬢様がサダメを連れて行ったぞ~、なんて展開。
そこまでオレの心は覚悟していたんだが。
声が小せぇ、わっかんね~。
どうも冤罪で連れて行かれる雰囲気ではない。
ホッとしつつ何の用なのか聞いてみた。
ゆうじ~、お前が聞くのかよ~。
用意した言葉が前歯の裏でUターンしていったぞ。
咽るわ。
えっ!
急に物凄く大きな声が出たんですけど。
ビビった~。
おまけに鬼の形相で裕二を睨んでるよ。
なんなのこの子。
裕二もビビっちゃって噛んでるし。
オレこういう緊迫した雰囲気でも笑っちゃう。
裕二の言った『ごま』でゴマ粒とかゴマフアザラシを想像しちゃったり。
普段ならゲラゲラ笑ってるとこなんだけど、笑いを堪えてみた。
オレって偉い!
それはそうと。
肝心の彼女。
両手を前で絡ませて足もジッとさせられないような動き。
簡単に言えば、モジモジしている。
今どきこんなモジモジした動きをする子なんてマンガでも出てこないよ。
ガチャ引きマニアの場合で例える。
叫んで喜ぶコレクションアイテムかもしれない。
だが、一般人には『わっかんね』ってお蔵入りになるタイプを引いた。
そんな感じかな。
まずいな。
オレ真剣味が足らなかった。
この子に失礼なことを頭の中で展開していたわ。
では、改めて。
なんかこの子深呼吸しだした。
また大音量での攻撃か!?
ちょっと官房長官に許可貰って軍事配備するからその間は待っててくれるかな。
オレすげぇな、そんなことできるのか。
だから冗談を考えてる場合じゃ――――
隣の裕二がとなりのなんちゃらみたいに大きく口を開けたまま固まっていた。
だよね。
オレがそうなるところなのに。
代わりにやってくれちゃったからオレができねえじゃん。
被せてきたよ。
オレに告白しに来たってこと?
んなバカな。
そんなわけ……あるんだよな、これ。
はあ、これが世に言う告られるということなのか。
勉強になったわ。
来週の予告はまだかな?
あれ?
まだこの子いる。
ってことはドラマじゃなくてノンフィクション?
リ・ア・ル?
ははぁん、わかったぞ。
これ、誰かが仕掛けたドッキリだな。
そんなことにこのサダメ様が騙されるわけないんだからね!
いや、ツンな娘じゃあるまいし。
正直、これどうしたらいいの?
あ、裕二に聞こう。
彼女は両手で顔を隠している。
照れているのかな?
照れ方もレアか。
ははぁん、さてはこの娘天然だな。
ご両親はどれだけ美しく咲かせたかったんだろう。
ちょちょちょっ。
周りがざわつき始めましたよ。
また理由が軽いなあ。
美談じゃないの、オレ覚えてないけど。
オレは美乃咲さんに後ろを見るよう目で合図した。
授業が始まっていたんだよね。
鐘の音をオレも気にしてなかったけどさ。
授業のお陰であの場から解放されました。
でも初めて告白されたんだよな。
このまま無かったことにするのは勿体ない。
なんて感じているってことは、オレが男である証拠でしょうか。
そうか、オレは高校一年生になってようやく男として扱われたのか。
悪い気はしない。
いや、全く気持ち悪くない。
とんでもなくくすぐったいけど気持ちいい。
オレは恋に恋をしそうだ。
あ、美乃咲さんのことを忘れてはいかん。
美乃咲さんあってのこの感覚。
ってことは、美乃咲さんと付き合うべきなのだろうか。
――――みなさんならどうするんですか?