Folge 20 風呂時間、水を差されて萎え萎えに
文字数 2,798文字
オレの右腕を枕にしてツィスカがこちらを眺めている。
オレは天井を眺めたまま無言。
ツィスカがオレの右頬を人差し指でなぞる。
腕枕から胸の上に頭を乗せ換えて両腕は上半身を抱える。
次に片耳をピタリと当てると目を閉じた。
耳を当てられていることで、自分でも普段気づきにくい鼓動が伝わっている。
ツィスカの体温も体勢を変えたことで妙に熱く感じられた。
余程普段から寂しさを感じているんだな。
頼る相手がオレで足りるのかな。
いずれは離れてしまうのかな。
いつもこの先には得体の知れない障害が現れるのでは。
そんな妄想をして自分で自分を苦しめる。
この喉につかえたような不愉快さはどうすれば払拭できるのか。
いつしか気にしなくなっているのだろうか。
ツィスカの体温を感じ、ただボーっとしている時間。
この中にいると幸せを感じるのではなく、ネガティブなことを考えてしまう。
――――何故?
無性に恐怖に似たものを感じ、両腕でツィスカを強く抱きしめた。
ツィスカの頭を腕枕に戻して今度は自分が上になる。
ゆっくりと顔を近づけて唇を――――
カルラはわざとあのタイミングで声を掛けたな。
どこから見ていたのやら。
改めて封筒を見るカルラ。
そのまま破こうとするからオレは止めた。
カルラは破く恰好をやめ、呆れたポーズを見せて封筒をオレに渡した。
オレは起き上がり、一通目と同じ黒い封筒を開けてみる。
未だにカルラは怒り心頭に発したままのようだ。
謝ろうとしているのを悪くは言えないじゃないか。
カルラはオレの両頬をぐにゅっと両手で挟み、顔を近づけて睨みつけて来た。
少し潤んだ目になった。
オレの事を心底思ってくれている気持ちが痛いほど伝わってくる。
あの二人をどうしても悪く思えないんだよね。
なんとなく勘がそう言っているんだよ。
うわっ!
カルラの瞳に炎が見える。
こ、怖ぇー。
ちょっと身体鍛えるようにしないとまずいかな。
日課に筋トレを加えておこう。
夕飯も終わり、風呂の時間。
まだまだ妹との時間は続きます。
どれだけ好きなんでしょうね。
寝る時間まではツィスカがオレのお相手ということで、二人で入っています。
その時だ。
少し開けられた風呂窓の隙間からピンク色をしたものがゆっくりと差し込まれるのが目に入った。
ガサゴソと走り去っていく音がする。
ツィスカの胸にくっついた両手。
そんな時でも名残惜しく思いながら離して立ち上がった。
走り去った音が聞こえた時点で間に合わない。
そう思ったが、窓を開けて外回りを探してみた。
やはり誰もいない。
窓枠に引っ掛かっている黒い封筒に目をやる。
確かに。
謝罪はあれで済ませたつもりだろうか。
いや、謝罪を待っているわけでもないんだけどな。
窓を閉めて風呂を出る。
家着に着替えてリビングへと移動。
カルラとタケルに風呂から出たことを告げる。
今日は二人で入るそうだ。
すでに二通の先客が入っているゴミ箱に黒い封筒を捨てる。
しばし止まってそれを見つめてしまった。
あの二人に対する接し方をどうしたものか。
この様子だとまだ何かしてきそうだし。
ウチにはこんなことに慣れている奴が三人もいたな。
聞いていると本当に気にせず跳ね返しているだけだけど。
差し当たり、様子見しかないな。
風呂場からは水しぶきと笑い声が聞こえていた。