Folge 33 弟と。

文字数 2,975文字

 いやぁ、お風呂の時間だってさ。

 って、美乃咲姉妹もいるけどどうするの?

 藍原家仕様では入らない、よね?

どうする咲乃ちゃん、兄ちゃんと入る?
ボクが!? い、いきなりそれは恥ずかしいよ
それじゃあ後々入るとして、カルラ今日はどうする?
そうね、美咲ちゃんは?
わ、私? 構わないのですけど、どうなんでしょう

 否定しないの!?

 彼女なのは咲乃なのに。

 オレにはまだ気があるってことだろうか。

 自意識過剰かな。

 オレ、モテたことないからわからないんだよ。

 彼女の咲乃が遠慮しているのに美咲が入る気はある。

 美咲の気持ちってどうなっているの?

 その前に同級生同士で、それも女子と一緒にお風呂に入るってのは無いだろ。

 いくら付き合っていても無い、よね?

誰も兄ちゃんと入らないなら、僕が入る!

 そういえば。

 タケルと二人きりで風呂に入るなんて滅多に無いな。

うんそうね。タケルも兄ちゃんとゆっくり入りたいよね。じゃあ今日はそうしよう

 仕切りのツィスカが決めてしまいました。

 話が早くて凄く助かっている。

 兄のオレが妹に仕切ってもらって弟と風呂に。

 オレ、家の事で何か指示出したことあったっけ。

兄ちゃん、何をボーっとしているの? 僕中で待っているから
お、おう

 いかんいかん。

 またダンジョンに潜っていたみたい。

 ほんと最近潜るのが増えているから気を付けないと。

 毎回思うだけで実行できていないな。

 情けない。

兄ちゃん!
はいはい!

 ああもう!

 う。

 自分で両手ビンタするのも結構痛いな。

 さ、風呂に入ろう。

お待たせ
ほんとだよ、まったく
ごめん
兄ちゃん、謝ってばっかりだよ最近
ああ、ごめん
ほら。兄ちゃんはさ、僕らにとって一番安心できる人なんだから

 タケルは頭を洗いながらそんなことを言ってくれる。

オレ、前と変わったのかな
そうかも。堂々としていたもんね、少し前までは。最近は、弱腰な感じ

 弱腰か。

 子供からは成長しているから、色々と気にするようになったもんな。

 知らないうちに変わっていたのかも。

 それがこいつらの不安に繋がってしまうのなら、気を付けないとな。

 自分が築いていた()()()()()を忘れていた。

 自分こそ、その()()()()()に頼っていたのにな。

ありがと、タケル

 髪の毛を洗い終わったタケルはこちらを振り向いた。

何?
その、忘れていたことを思い出せたからさ
……そっか。兄ちゃんの役に立てたのは嬉しいな

 おいおい、なんだよその満面の笑みは。

 女子が見たら全員纏めて気絶させられるぞ。

 耐えられるのは妹たちしかいないだろう。

 今この笑みを見られるオレは幸せなんだよな。

 これが続くようにするためにも、忘れていた()()をやるか!

兄ちゃん、頭洗ってあげる
オレが洗ってあげたかったけど
だってもう洗っちゃったし、兄ちゃんが洗ってもらうことって少ないでしょ
言われてみれば、そうかも

 タケルが立ち上がり、イスに座るよう促してきた。

 では、お言葉に甘えて。

 シャワーの当たる角度が自分で洗う時と違うから新鮮だ。

 髪の毛全部を満遍なく濡らされて、え?

ん? タケル?
へへ。兄ちゃん動けないから今のうちにね

 目が開けられないようにって意味があったの!?

 タケルは今、後ろから肩越しに抱き着いている。

 見えていないと妹たちと同じに思えるのがこいつの凄い所だ。

 タケルって何で出来ているんだろ。

 不思議な子だ。

 魅力が材料としか思えないぞ。

やっぱり兄ちゃんは落ち着くんだよなあ、最高

 抱きしめる腕に力が増される。

こんなんで良ければいつでもどうぞ
うん、やったね!
あ、でも言っておくぞ。お前が力を入れすぎると、オレ壊れるからな
あはは、忘れてた。僕は力の加減に注意だもんね

 そう。

 タケルは合気道壱級所持者。

 少し気合が入ると一般的な人よりは強い力が発揮されてしまう。

 合気道を続けていれば階級は随分と高くなっていたことだろう。

 しかし本人は家族が守れる程度の力があれば十分だと。

 いざという時の自分の役目を作っておきたいだけとのこと。

 ただの守られる末っ子では居たくないらしい。

 そういう健気なところが可愛いんだよね。

そろそろ風邪をひいてしまうから、洗ってくれるか?
そうだね。じゃあ、しっかり目を瞑っていて

 さっきから目は閉じらされているけれどね。

 頭を洗われるのはグルーミング効果で安らぐ。

 タケルも力加減が絶妙で。

 このまま寝てしまいそうだよ。


 なんとか眠気にも勝ち、身体も洗って湯船の時間。

 家族で入ることを考えられている風呂。

 二人なら余裕だ。

 この辺は親に感謝する部分だけども、いつ帰ってくるんだよ。

そういえばさ、タケルって最近、美咲とよく話しているよね
ああ、まあ、そうだね
なんだよ、何か含みがあるような言い方して
 タケルは一瞬俯いてからオレを見た。
気になってた?

 ニヤリとした笑みなんぞ浮かべながらそんなことを言ってくる。

 さては聞いてくるのを分かっていたのか。

 もしくは待っていたのか。

いつからあんなに話すようになったのかな、とは思っていたけど
やっぱり気になっていたんだ

 いや、そういう気になっていたとは違う、違わない、違う?

 聞かれると訳が分からなくなる。

相談を受けていたんだよ
相談?

 タケルに相談か。

 何を?

 見当がつかない。

うん。兄ちゃん絡みだよ
お前は楽しそうだな
 少し表情を曇らせてタケルは言った。
それが、楽しいばかりでもないんだよね
楽しいのは否定しないのかよ
あはは、まあね。でも、素直に喜べるものではないんだよ

 楽しいのに楽しくないって?

 聞いているこっちまで微妙な感じになるじゃないか。

で、オレが絡んでいるならぜひ内容を聞きたいけど、聞けること?
言っても大丈夫そうなことと、そうじゃないことがある
すっきりしないなあ
だって、そういうタイミングなんだもん
ということは、まだ相談事が解決していないと

 タケルは壁に背中を預けた。

 天井を見上げて少しジッとしている。

 相談されている時のことを思い出しでもしているのかな。

僕としては解決させるようにしているんだけど、どうもうまくいかなくて

 ほお。

 タケルがそんなに手こずっていたなんて。

 珍しいと思ってしまうけど、実はいつも悩む事はよくあったのかな。

 もっと話しをするようにしないと。

 この前みたいに構ってくれと爆発したこともあるわけだし。

 明らかに普段の話しが足りないってことだよな。

 反省。

タケル。普段からさ、できるだけでいいからオレに色んな事話してくれよ

 明るい顔になったタケルが天井からオレに目線を下ろした。

姉ちゃんたちが居ても、話があるなら合図をくれれば時間作るからさ
うん、嬉しい。なんかね、いつもタイミング逃していて自己解決してた
すまない。今回二人で風呂に入ったのは正解だったな。話しができて良かった
僕ももっと兄ちゃんに甘える! 姉ちゃんたちに負けないようにする!

 ありゃりゃ。

 年々弟妹からのアタックが強くなっていく。

 嬉しい悲鳴だな。

 時々ほんとに身体が悲鳴をあげるけど。

 とりあえず、タケルの問題を一つは解決できたのかな。

 後は相談事だけど、今後は何かあれば話してくれるだろう。

 そうすればオレもスッキリするわけだから。

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登場人物紹介

名前:藍原サダメ(あいはら さだめ)

学年:高校一年生

身長:177cm


藍原家長男。家事全般苦手な上に、不器用。

名前:藍原フランツィスカ(あいはら ふらんつぃすか)

   身内からはツィスカと呼ばれている。

学年:中学二年生

身長:157cm


藍原家長女。元気でポジティブ。

名前:藍原カルラ(あいはら かるら)

学年:中学二年生

身長:157cm


藍原家次女。冷静で負けず嫌い。なぜか肌は薄浅黒い。

名前:藍原タケル(あいはら たける)

学年:中学一年生

身長:156cm


女装をすると姉より美人になるほどの美形。基本大人しいが何かと不思議君。

名前:美乃咲美咲(みのさき みさき)

学年:高校一年生

身長:164cm


サダメの同級生。隣のクラス。


名前:美乃咲咲乃

学年:高校一年生

身長:164cm


美咲の双子の妹。サダメとはクラスメイト。

名前:左近裕二(さこん ゆうじ)

学年:高校一年生


サダメの親友(?)でクラスメイト。

隣の席。



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