Folge 100(終) 彼女
文字数 3,340文字
帰ってきた。
子供四人を放ったらかしている両親が。
仕事と私たち、どっちが大事なのよ!
なんてドラマなセリフが脳内を横切ったよ。
声からすると、何も変わっていないみたい。
マイペース人間はこういう所に腹が立つんだよね。
ストレス感じて少しは疲れて帰ってきなさいよ。
と、長男は思うのであった。
はい。
一番を取ることをモットーにしている長女が先頭。
あえて二番を選ぶことで長女の存在を上書きしていく次女が続く。
要領の良い次女にくっついて同じ効果を得ようとする次男。
お前ら、上手過ぎ。
ならもうちょっと帰る回数増やせよな。
呼ばれたので、行きますか。
母親はツィスカの喜び方と同じように目を思いっきり開く。
髪の毛まで広がっているような錯覚を感じさせながら。
どこかで聞いたセリフだな。
いや、元祖はこの人だった。
なるほど。
咲乃の言い回しがしっくりきやすい理由。
母親に刷り込まれたものを彷彿とさせているからだったのか。
鯖折りのようなハグ。
非常に辛い。
しかしこれぐらい力を込めないと納得できないらしい。
これを首が座った頃からされ続けている。
オレの身体よ、よく耐えてきたな。
褒めてやるぜ。
誰よりも濃厚なキスをされる。
母親のするレベルじゃない。
誰か代わってみてほしい。
今となっては複雑な心境になるということが分かるから。
面白いぐらいにガックリと
そのフォローはわきまえている。
こちらからね、軽くキスすればいいのです。
恥ずかしい!
始まった。
この隙に離れておくんだ。
奥ではさくみさが呆気にとられている。
そうでしょうね。
こんな家族はそうそうないでしょう。
軽く手を振ってにっこりしておいた。
その辺の話を母親とするんだ。
オレの声に即反応する母。
旦那を放り出してこちらへ走ってきた。
なんで『興奮』するんだよ。
このズレ感。
勝てないんだよね。
◇
自分の部屋に来てもらってこれまでのことを話した。
思い出せるもの全てを。
深々とお辞儀をされた。
立場とか関係なく、素直に動く。
この人の魅力の一つなんだと思う。
どちらかというと、その答えが聞きたい。
二人共彼女にしろって。
すでに妹が彼女だと言っている現状。
彼女が二人増えたところで何も言われないか。
『あっそ』の一言だろうな。
あはは。
これじゃあ相談になっていないよ。
それでも親の答えをもらったことで安心はできた。
良いかどうかは別とする。
うん、別とするよ。
◇
さくみさは絶句中。
しかし、母の言葉で戻ってきた。
お許しって。
何も悪いことはしていないでしょうに。
どちらかというと、オレでしょ。
さくみさは二人同時に真っ赤になって俯いた。
そんな大きな声で言うから。
家の中でも恥ずかしいよ。
冗談で言っているわけじゃないしなあ、この人。
この二人、どうにかならないかな。
拗れないのは助かるけれども。
そして、正式にさくみさが二人共彼女になりました。
案の定という感は否めないが。
二人に抱き着かれました。
長女に睨まれながら。
仮彼女とか企画したクセに。
さくみさがニヤニヤ。
母親が満足気。
なんで公開処刑的になっているんだよ。
もう。
隠れたいんだが。
理由がそれ?
タケルは嬉しそうだ。
あいつ、相当甘えるんじゃないかな。
末っ子だから両親とのやりとりは一番少ないからね。
直接謝られると何も言えないよ。
ズルいなあ。
でも二人のおかげでこんな生活ができているから。
背中をバンバンと叩かれる。
その後は二人で大笑いした。
引っかかっていた気持ちも取っ払ってもらったし。
そのおかげで支えてくれる人が増えることに。
この先は、これまで以上に賑やかそうだ。
どうするか。
もうね、楽しむしかないでしょ。
――――思いっきりイチャイチャしてやるんだっ!
(完)
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