Folge 04 尾行
文字数 3,768文字
裕二の奴、もう遊びモードに入ってやがる。
す~ぐオレで遊ぶんだ、こいつは。
今は授業も全て終わりホームルーム直後の下校前。
あれ以来、彼女は顔を出していない。
ま、クラス中に知られているし、あちらのクラスでも話題になっていることだろう。
さすがにそうなると気まずいんだろうね。
どうあれ、オレは早く弟妹たちの様子が知りたくてしょうがないんだよ。
あ~、帰りてえ。
確かになんだかイライラしている気がする。
こういう時は早く帰った方がいい。
裕二と校門で別れてから一人家路を急ぐ。
家までは十五分だから走ってまで急ごうとは思わない。
だけど、気持ち早歩きぐらいな感じで。
毎日歩く道を同じラインで歩いていた。
するとどうも自分のものではない不規則な足音がする。
加えて嫌な予感しかしない目線を感じる。
これはつけられている?
いやいや、オレごときを尾行したところで何の得にもならないでしょ。
気のせい気のせい。
中学校と高校それぞれに向かう分岐点となる交差点に差し掛かった。
ちらほらと下校している中学生。
その中に弟妹がいないか探してみるが、見当たらない。
もう家に着いているか、オレが先に着くか。
あ~、早くプライベートタイムに突入したい!
さあ、後は家まで直進するのみだ。
それだけのはずだが、やっぱり誰かついてきているんじゃないか?
振り返るぐらいしてみるか。
なんとなくフェイントまがいの動きをして振り返ってみた。
ひゃ?
今ひゃ? って聞こえたよな。
それに電柱に隠れているつもりの人間が見えているんだが。
電柱からはみ出ているのは、見慣れた制服のスカート裾と肩の一部。
女子につけられている!?
今日はどうしたんだ?
いよいよオレにも――――あ、そういえば。
心当たりがあったな。
あの娘なのか?
えーっ!
違いますって返事した後で猫のマネするかあ?
あの声には聞き覚えがある。
それにこんな返し方をする人と言えばやっぱり美乃咲さんじゃないか。
もう美乃咲さんだと確信して声をかけてみた。
ゆっくりと電柱から姿を現したのは、やはり彼女だった。
告白しに来た時と同じくレアなモジモジのカバン持ちバージョン。
その立ちスタイルで電柱の横に立っている。
近寄っては来ないみたいだから、オレから近づいてあげた。
美乃咲さんはモジモジの振りを強めて話を続けてきた。
な~んか話がズレている気がしてならない。
でもこの状況で納得してもらおうと思ったらある程度譲歩するしかないよな。
知ったという体で付き合うかどうかを考えればいい。
もしかしたらすっごくオレの好みな人かも知れないしね。
男ってのは……。
どうしてもこういう時、ハッピーエンドへの期待を持ってしまうんだよな。
こういうところを女子がダメ出ししているんだと思う。
チョロいんだよ、男は。
こんなんでもあれだけ喜んでくれるのか。
話は済ませられたから帰ろ。
――――あれ?
まだ美乃咲さんがいる。
ま、いっか。
家の鍵を出してドアを開けようとしたら、中から物凄い足音が迫ってきた。
ああ、これこれ!
なんだかんだ言ってオレもこれが無いとダメな奴になってんだよな。
――――いつものしてます。
カルラはツィスカをオレから剥がすように退かしてオレに抱き着く。
流れるような動きで濃厚なやつを口にしてきた。
ちょ、カルラ泣いてんじゃん!
うわあ、すっげえ可愛い。
涙を親指で拭いてあげたらウルウルな目でめっちゃオレをガン見してるよ。
だから可愛いってば。
こいつらほんと凄いわ。
タケル、実は小学校卒業まで合気道をやっていて、壱級を取得している。
ちょっとした防御ぐらいはこなせるのだ。
容姿が男らしくはないために習わされていたが、さらっと級位を上げていった。
タケルをハグしてやる。
本当に男とハグしている感覚ではない。
オレはさすがにタケルだとわかる。
だけど他の男子がこんなシーンを体験したら驚くんだろうなあ。
合気道に通っていた時も、相手の子がちょっと照れていたしな。
とその時、ツィスカが叫んだ。
振り返るとなんと!
美乃咲さんがこっちを見て立っていた。
せっかくの帰宅イベントが台無しだ。
変な空気のまま家に入ることになった。