Folge 18 さびしんぼう
文字数 3,851文字
昼までのんびり胸を揉ん……ゆっくりした。
ようやく全員動く気になる。
とりあえず食材を買いに行きたいというカルラの要望。
それを受け入れ、オレと二人で買い物に行くことになった。
そういえば最近買い物に付き合うなんてしていなかったな。
三人には相当な負担をかけてしまっていると今反省。
家事がやれないオレでもやれることの一つ。
それは買い物に付き合って荷物を持つこと。
こういうことぐらいしないとって続けていたことだった。
それが高校に上がってからは……。
部活もやっていないくせにそんな手伝いすら疎かになっていた。
一緒に行く話が決まってからはカルラが随分と明るく楽しそうだ。
それぐらい久しぶりってことだ。
スーパーに向かう途中は手を繋いで歩く。
懐かしく感じさえするこの光景。
オレも楽しい。
繋いだ手を大きく振ってみたり、引っ張り合って肩をぶつけて遊んでみたり。
何をしても笑みがこぼれた。
人懐っこい猫を見つけて顎を撫で始めたカルラの目が垂れている。
そう言って笑ったらカルラが頬を膨らませてこちらを睨む。
これで頬を赤らめちゃうんだから。
可愛いじゃん。
歩きを進めて行く中で、何気なく空を見上げる。
オレに言われて気づいたカルラが目を丸くしてオレに振り返る。
なんだか可笑しくなって笑い合った。
そんなやりとりをしているとスーパーに到着。
独特なスーパーの匂いがオレの鼻に久しぶりだな、と挨拶をしてくる。
こんなことも久しぶりになってしまうほど何をしていたんだろう。
ん~、特に何もしていないってことしかわからない。
これってまずいよな。
もう少し有意義に毎日を過ごせるようにしよう。
そんなことを脳内で喋りながらスーパーに入っていく。
カルラは慣れたものだ。
積み重なったカゴの一番上を取ってカートに乗せる。
そんなことも分からず、ただカルラの後を付いて行く。
まだ中学生とは思えない堂々とした買い物っぷり。
ただただ脱帽です。
本当にこの娘を奥さんにできたら最高なんだろうなと思う。
買い物以外のことを考えていたところに突然質問されて慌ててしまう。
頭が必死に引き出しを開けて何か答えなきゃと右往左往。
本当にこなれた夫婦のような会話だな。
結婚が叶わないと分かっている関係。
ならせめてそんな疑似体験ぐらい満喫させてもらおう。
ああ、無性に寂しくなるようなことを脳内で呟いてしまった。
どうにかならないのかな、この関係。
ある日寝て起きたら法律が変わっているとかさ。
野菜、肉、魚、冷凍食品。
牛乳やデザートのヨーグルト、シュークリーム、ロールケーキ。
うん、そうだ。
今日だけじゃないんだ。
また一緒に来ればいい。
果汁モノのジュースやら色々と買い込んで袋に詰めたら大きい袋が二つになった。
オレは買い物袋二つを両手に持った。
家事が何もできないオレ。
これは役にたっている感があって自己満足だけど楽しい。
そう言ってカルラはオレの腕に抱き着いてきた。
少々歩きにくくはなるけど、そんなの気にしていられない。
気にしていたらこの状況を楽しむなんてできない。
それに、これだけ楽しそうにしているカルラだ。
見ていたら何も気にならないよ。
あちこちから、「相変わらずあの兄妹は仲がいいわねえ」なんて声が。
歩いているとあちこちから耳に入って来る。
家の近所では日常茶飯だ。
どうだ、いいだろ。
なんて思ったりしてね。
帰りは荷物がある所為で大して遊ぶこともできず。
あっという間に家に着いてしまった。
ツィスカが待っていましたとばかりに抱き着いてきた。
軽くキスをして家に上がる。
カルラが冷蔵庫に買ってきたものを仕舞いながらそんなことを言う。
ツィスカがリビングをくるくると舞ながら嬉しさを表現している。
ほんとにそれぐらいで喜んでくれるんならいくらでもするよ。
そんな風に楽しそうにしているのを見たくて生きているようなものだから。
オレを含めた三人の動きがピタリと止まった。
俯いているタケルに全員が寄っていく。
三人共うまく言葉が出てこない。
タケル、そこまで思っていたのかよ。
確かに一般的な男の子扱いをできるだけしてきた。
それは容姿が綺麗過ぎることを本人も気にしていたから。
ちゃんと男の子だよって伝えるためだった。
まさかそれが逆効果になっていたのか!?
いや、容姿じゃない。
心の問題か。
凄く難しい問題に直面してしまったようだ――――
タケルは首を振って何かを否定しているようだ。
そう言ってオレはタケルをソファーへ座らせる。
自分の口で言いたいことを言わせることが必要だ。
でないと、引っかかっていることまで払拭することは難しいだろう。
とにかく全部言葉にして吐き出させることにした。
ツィスカがタケルの頭に手を置いて顔を覗き込んだ。
頭に置かれたツィスカの手。
タケルは両手で優しく掴んで自分の目の前に持ってきた。
ツィスカに目を向けるとツィスカも同じくこちらを見ていた。
タケルは大事そうにツィスカの手を握ったままだ。
ツィスカはそれに答えるように、空いている手でタケルの手を握ってあげた。
おお。
ツィスカが長女面を必死にしているぞ。
長女感は常に出していたいというところがツィスカの可愛いところだ。
一時はどんな話になるのかと少々焦った。
けど、いつも通りの藍原家な話で安心した。
それにしても寂しがり屋が四人もいるんだぞ。
両親よ、そろそろ現状を考えてくれ。