Folge 10 ずたぼろ
文字数 3,059文字
ドサッ。
……。
…………。
………………。
ん? うわ、血の臭いがする。
頭もめちゃくちゃにいてえ。
首、肩、肘、体中打ち身だらけなのか?
今日は倒れてばっかりだな。
厄日だ。
誰かが手を握っている?
まさかうちの子たちってことはないだろうし。
保健の先生かな。
でも手を握るか?
を! 先生が実はオレの事を、いやいや。
――――こんな状況でも妄想するとか、そりゃ罰も当たるか。
ここまでこてんぱんにやられると、もうどうでもよくなってくるな。
いっそ先生とどうにかこうにかなって、転生したほうがいいのかも。
へ?
まさか返事がくるとは想定外だ。
ところで誰から?
ん~、オレってモテているんではないだろうか。
弟妹から毎日告白されているから麻痺していたけど。
ああ、手を握っているのは美乃咲さんか。
そして裕二が運んでくれたと。ありがとな。
病院の診察台。
見事に素人な運び方をされて痛みが増しているサダメです。
上半身打撲のようです。
頭も打っているから当分安静にしていろと。
皆勤賞は取れなかったか。
別に狙っていたわけじゃないけど、取れるなら取っておきたいものじゃない?
カルラが来ているってことは、随分時間が経ったみたいだな。
そんな会話をしているところへ医師が来た。
各傷をチェックして帰宅許可が出される。
幸い下半身は無事なので、歩いて帰れる。
だけど、上半身は動くたびに痛みが走る。
弟妹にも触れられず、なんともおあずけな状態。
さすがに先生も帰りまでは送ってくれず、タクシー代がキツイぜ。
タクシーを降りて家に入るまではタケルが手伝ってくれた。
見た目とは違い、ちゃんと男の子なんだよな。
触れると女子だけど。
オレの部屋に入った三人。
「ゆっくり休んで」と一声掛けてくれてそれぞれの部屋へ散った。
ツィスカは必死にオレの所へ来るのを我慢していたみたいだったな。
随分と責任を感じているらしい。
体調崩さなきゃいいけどな。
携帯の確認をしておくか。
受信の合図が目に入って気になっていたんだ。
さすがに電話は無いみたいだな。
チャットアプリは裕二からのみ。
いつも通りだな。
オレは本当に友達いねぇな。
えっと、美乃咲さんにお前の番号教えてあげたぞって、おい!
なんでお前がそういうことするの!?
いたたたた。
力入れるとあちこち痛い。
くっそ~裕二の奴、そういうやりとりも男子の楽しみの一つだろうが!
お前がオレの楽しみを奪うとはどういうこと?
いや、美乃咲さんとは何もないけど。
女子に番号教えるってイベントの一つだぞ!
そんな風ならあいつが付き合えばいいじゃん。
――――なんかそれも腹が立つな。
ああもう! あいつ全然オレに優しくない!
――――いや、あいつに優しくされても気持ち悪いな。
そういや美乃咲さん、あの時一人にしないでって言ってたっけ。
まだ何も彼女のこと知らないから妙に気になっちゃったよ。
いや、彼女ならもしかすると――
あんな時でもオレが気にするように仕向けていたのかもしれない。
いまいち本意が掴めないんだよなあ。
気になるところが満載だもんな。
付き合うための作戦?
そんなわけないよな。
ああ、男ってどうしてこう夢を見ようとしてしまうんだろ。
女子から男子へなんて期待しちゃだめだ。
そんなのは芸能人か芸能人級の一部だけだ。
なんだかまだ血の味と臭いがする所為か気分が悪くなってきた。
もう寝よう。
…………。
一人で寝るのってどうやるんだっけ?
タケル呼ぼうかな。
約束してたし。
その前に裕二にスタ連しといてやろ。
うわぁ! ツィスカの突進だ。
また怪我するかと思った。
しゅんとするツィスカは可愛い。
喜怒哀楽が全部マックスに振っているんだよなあ。
でもずっとドアの前にいたってことだよな。
何しても可愛い。
いかん、マジで強烈なシスコンじゃないか。
…………今更か。
両手を握りしめて上下に振っている。
爆発しそうな力をそこで散らしているんだろうか。
こういう時の「がんばる」は心配になるよね。
でもツィスカはいつになく慎重にアシストしてくれて、新鮮だった。
いつもと違うことが起こると、みんなの色々な面が見られて面白いね。
自分はボロボロって点は何も面白くないんだけど。
にしても今日はなんだか長い一日だった。
明日からは平穏な日々が続きますように。