Folge 60 音痴
文字数 1,632文字
そう。
テストが終わったのだ。
めでたい。
解答用紙が回収された後の余韻。
力が抜けて机に突っ伏した。
きっちりと相槌を打っているのは裕二だ。
なんだか余裕を見せていやがる。
どうもオレが授業中に咲乃と云々しているのが気に入らなかったらしく。
咲乃はオレの背中を優しく撫でてくれている。
実は癒されていたのだ。
はっはっは。
裕二、お前には分かるまい。
この素晴らしく幸せな心地よさが。
羨ましいだろ。
羨ましいと言え。
はっはっは。
どうだ裕二。
これでもオレに勝つ気かね。
ぷぷぷ。
裕二、そろそろ降参しろ。
オレには勝てないのだよ。
はっはっは。
そうだ。
いいぞ。
そろそろ負けを認めろ。
お!
いよいよ言うのか?
負けた、と。
ぐはっ!
……負けた。
今回のテストはこいつに負けた可能性が高い。
連続一桁順位の記録も途絶えた上、こいつとの勝負にも負けるのか。
ああ咲乃。
なんて優しい子なんだ。
思わず飛び起きてしまった。
咲乃と目が合う。
おでこナデナデ。
嬉しい。
動揺して机の裏に膝をぶつけてやんの。
ぷぷぷ。
裕二は膝を摩りながら話しに割り込んできた。
冷え切り、刺すような眼で睨む咲乃。
裕二の何が彼女にそうさせるのか。
一途な咲乃が可愛すぎる。
……あれ?
美咲も妹もオレしか好きじゃないのか。
なんと。
改めて考えると、みんな可愛すぎる。
なんだか裕二が可哀そうになってきた。
いや、ざまあみろと言っておこう。
さっきの仕返しだ。
一人残された裕二。
まさにポツンと。
すっ飛んで来た美咲も合流した。
と同時に二人共のけ反った。
姉妹に手で口を塞がれる。
綺麗な手。
いや、なんで塞がれるんだよ。
廊下に響き渡る姉妹の声。
こりゃ歌えないな。
せっかく気分が良いのに。
ヒトカラでも行こうかな。