Folge 11 弟の色気とお鼻詰め
文字数 3,645文字
携帯のアラームが鳴っている。
なんで?
あ、起こしてくれているのか。
ありがとう、でもうるさいんだ。
とりあえず止めて……止めて……止め、て?
あれ?
いつもの所に無いぞ。
こうなると携帯って無きゃいいのにって思うんだよな。
めっちゃ困るくせに。
にしてもどこだよ。
まあ、ちゃんと起きて探せばいいだけなのだが。
寝起きってさ、できるだけ寝たままで事を済ませたいって思うじゃない。
それに今は凄く気持ちがいいんだよな。
毎朝寝起きにいいもの用意されていて良きかな良きかな。
今日はタケルと二人で寝たんだ。
こいつって、どっかにチャックでも付いているんじゃないのか?
だってさ、脱いだら女の子なんじゃないだろうかってぐらい女子な男子。
男の体でこんなに楽しんでしまっていいのかな、いいんですっ!
いや、誰かが勝手に頭の中でそう叫べって。
操作されたようで、モノマネさせられた。
それはそうと、携帯だよ。
ああもう、ちょいっと触るだけで鳴り止むのに。
これか?
指をスライド!
ん?
逆に鳴ったな。
これかも、指をスライド!
あれ?
やっぱり鳴るぞ。
そういえば携帯ってこんなに柔らかかったっけ?
仕方ない、携帯よ負けを認めよう。
軽く上半身を起こすぐらいは譲歩してやる。
なんだ、タケルの顔の目の前にあるじゃないか。
とりあえず止めてっと。
じゃあさっきスライドしたのは?
眼を瞑ったままにっこりとしているよ。
性別の境界線を消し去ったこの表情。
どう受け取ればいいのか、未だにオレの脳では未解決だ。
おや?
タケルのパジャマってこんなだっけ?
女子な弟を連れて一階へ降りていくと、双子が朝食の用意をしていた。
まだカルラに隠れたままだ。
突進は止められないのね。
はは。
カルラの横からこっちへ五歩ぐらいツツツツツっと小走りに出て来たぞ。
まるで小動物だな。
今日は痛みで何度か起きるかも。
登校中。
弟妹との分岐点。
恒例になりつつある光景があった。
ウェイティング美乃咲さんだ。
綺麗なオブジェのようにオレたちを待っていた。
美乃咲さんとの会話を弟妹たちは黙って聞いていた。
彼女に対しての敵意は今回の件での行動で随分と低減されたようだ。
オレもその一人だが。
三人を代表してカルラが答えた。
ん~、どうもオレはスイッチを入れるのが上手いようだな。
また鞄を持つ手の振りが激しくなっている。
熟知まではいっていないと思うぞ。
いつも返される答えを言っただけだし。
まあでも、ニコニコしている美乃咲さんは綺麗だなあ。
いくらでも相手になる人が居そうなのに、なんでオレなんだろ。
普段は周りともあまり関わっていないらしいし、未知な部分が多いよなあ。
会ってからまだ数日なんだから当然か。
まともに話したことなんて実際無いに等しいしな。
黙秘権ですか?
何も反応が無い。
やべ、これ結構垂れてくるやつだ。
タオル持って来るのを忘れちゃったな。
ティッシュはあったはず、どこだっけ?
話を振っておいて腰を折ってしまったな。
ティッシュをとりあえず詰めておこう。
間抜けな声になってる~。
女子と話す恰好としては最悪な部類だなこりゃ。
結果的にオレ自身で美乃咲さんの番号やアプリのIDやらを聞くことに。
これでオレ的対女子イベントを経験できた。
オレが軽く手を挙げると美乃咲さんは深々とお辞儀をしていた。
どんな話が聞けるのか、楽しみのような不安のような何が飛び出してくるのかな。
あと、ウチの三人にとっても色々彼女の事がわかっていいかもな。
にしても、鼻にティッシュを詰めたまま教室に入っていくのは間抜けだ。