Folge 28 金縛り!?
文字数 3,150文字
朝から妹達にたっぷり惚気だか説教だかわからないお話を聞かされている。
咲乃とのことだ。
付き合っていいと言いつつなんだかんだと言われている。
オレはただ弱っている人の手助けをしていたつもりだったのだけど。
確かに美乃咲姉妹は付き合う人としてはオレ的にも問題は無いと思う。
でも付き合うって、しなきゃいけないことなのかな。
それすらわからないオレが付き合っていいのかってことなんだよ。
妹達とは元々仲良いし、その延長のような感じで楽しんでいられるんだ。
妹じゃない人。
これまで何を経験してきたのか知らない人。
そして、オレがこれまでどんな経験をしてきたのか知らない人。
そう考えてしまうと普段道ですれ違う人と何が違うのだろう。
さすがにすれ違う人よりは知っている人だな。
う~ん、常連のお店で知られている程度、かな。
常連ならおまけしてもらうとかあるけど、咲乃はお店の人ではない。
何か特典があるのかな。
カップルで特典付きなんて話は聞いたことが無い。
カップル限定イベントならあるけど。
じゃあ、なんでみんな付き合っているんだろう。
わっかんねえ。
うわぁ!
揺れる、揺れている!
こういう時に机ってないよな。
どこに隠れろってんだ?
時々ループダンジョンに入り込むことがある。
結論の出ないことを考えているとなるんだよな。
突然ボケっとし出すからすぐに分かるみたいだ。
普段は一人の時に発症することが多い。
でも最近は回数が増えているようで、どこにいても止まることがあるらしい。
なんだか呼び方が咲乃ちゃんに変わっている。
おまけにやたら付き合うことに乗り気だな。
オレの気持ちは?
あ、はあ。
オレってそんなに分かりやすい奴なのか。
頭の中を口にしていないのに、話をしているようになっているんだけど。
どれだけ漏れているんだ?
話しているのかいないのかが分からなくなってきた。
どうなってんの? わっかんねぇ!
家のチャイムが鳴る。
ウチに来る人なんて宅配便ぐらいのはずだけど。
誰が?
来てくれた、なんて伝えられる人は限られてくる。
まさか。
ちょっとちょっと。
オレの気持ちは全く整理ついていないのに。
展開が速すぎて付いて行けない。
妹二人から背中を押されて咲乃がオレに寄ってきた。
まだ息が整っていない。
ソファーに座っているオレの前に咲乃は立たされた。
走って来たのかな。
少し頬が赤らんでいる。
ただ朝の挨拶をしているだけなのに、緊張している。
顔と耳が熱くなっているのを感じる。
その反面、手先足先からは血の気が引いて行く。
力が入らなくなって震えすら感じ出した。
何、これ?
急に風邪にでもかかったような感覚。
咲乃と話さなきゃと思えば思う程血の気が引き、力が入らない。
普段の調子がどうだったか忘れてしまったような。
オレ自身がオレからどこかへ逃げ出してしまったの?
頼む。
ちょっと戻って来てくれないかな。
普通が分からないってこんなに怖くなるのか。
さ、咲乃が寄って来る!
くっ、どうしたらいいんだ!?
の、乗られた! 両頬を両手で挟むとか……。
は、はわ。
あ、あの、えっと、あれ? 声が出ない……。
いや、そんなことは、とにかく声が出ない。
汗が出てき始めた。
そんな、オレ、なんで動けないんだ!?
なんだよ!
仕方ないだろ! 一度も付き合ったことなんて無いんだからさ。
妹以外で。
これ、初めてのことなんだよう。
咲乃は妹が止めるのをスルーして、オレの頭を胸に抱え込んだ。
――――ああ何これ
力が抜けて行く。
凄くいい匂い。
妹にされるのとは何かが違う。
その何かはわからないけど。
とにかく、癒される~。
――――全身脱力。
緊張のあまり固まっていた身体が完全に融解したようだ。
はは。
力が入らないと笑いが込み上げてくる。
周りが気になってなんとか眼だけ動かしてみた。
妹達と咲乃が談笑している。
不思議な感じだ。
あれだけ言い合っていたのに。
にしても、咲乃が随分笑顔になっているな。
こっちもホッとするよ。
あれだけの笑顔になれるんだな。
凄く綺麗。
頭撫でてあげたくなってきた。
ふぅ。
そうやっていればいいのかな。
咲乃が喜んだらオレも喜ぶ。
悲しんだら慰める。
普段は可愛がってあげる。
なんだかな。
ペットじゃないんだからって変な考えしちゃう。
でも妹にしていることと一緒。
同じ気持ち。
それでいいのか。
わかったよ。
わかりました~。
付き合いますよ。
付き合えばいいんでしょ。
咲乃がまた膝に乗っかってきた。
激しく熱いキスだ。
何日ぶりだっけ。
こうして咲乃とのお試しお付き合いがスタートした。
つくづく藍原家は変わった家だな。
そして変わった人たちが寄って来る。
なんだかまだ問題を抱えている気が拭えない。
それも藍原家らしいのか。
初めて彼女ができたことを今は喜んでおこう。