第一章 第7話 古能代・若き日の葛藤 Ⅱ

文字数 7,038文字

 祖真紀(そまき)とは二度と会いたくも無かった。佐野の山小屋に連れて行かれてから一年が経った頃には、古能代ばかりでは無く五人全員が郎等らしき言葉使いや所作を身に着けていた。皆それぞれの葛藤が有ったが、結局はそうするしかないと悟ったのだ。しかし、風体(ふうてい)は相変わらず蝦夷装束(えみししょうぞく)のままだし、秀郷に目通りすることも無く、探索の毎日が続いていた。そして、相変わらず国時は口煩(くちうるさ)い。だが、支由威手(しゆいて)らにも徐々に国時の人柄が伝わり、陰では変わらず『(うるさ)い親父』などと言っているのだが、その言い方にも親しみが感じられるようになっていた。

 その日も国時と五人の若者達は山中を探索していた。以前から情報を掴んでいた山賊団を追っていたが、寸前で気取(けど)られ何度か逃げられている。国時を山道に残し、五人は草を払いながら斜面を登って行った。その上に、昨日多くの足跡を発見した場所がある。 
 夕暮れ近くのことだったので、今日改めて詳しく調べてみようということでやって来たのだが、道をそのまま上って行ったのでは賊と鉢合わせしてしまう可能性があるので、斜面を登って行くことにした。すぐ下の辺りから様子を探るが人影は見当たらなかった。上がって、昨日足跡を見付けた辺りを調べると、足跡はそのまま残っていた。
「かなりの数だなあ。気を付けろ」
 古能代が言った。
威手李裡(いていり)摩射手(まいて)見張れ」
 その時、摩射手(まいて)が「あっ!」と声を上げた。
 それと同時に、五人の周りに十本以上の矢が降り注がれた。そして、(くさむら)から木陰から山賊達が現れ、古能代達はすっかり取り囲まれた。おまけに、見上げると木の上から射掛けて来たのは、蝦夷の風体(ふうてい)をした者達だった。実際、この時代逃亡し盗賊に身を投じていた蝦夷も多く居たのだ。現れた山賊の数は二十余り。五人は蕨手刀(わらびてとう)を抜き放ち、背中合わせとなって構えた。
「掛かったな、青二才共。秀郷の犬か? もはや逃れられぬ、観念せい!」
 (かしら)らしき髭面(ひげずら)の男が薄笑いを浮かべながら言った。古能代は恐怖を感じたりはしていなかった。しかし、この人数で囲まれてしまい、蝦夷に木の上から狙われていては斬り抜けるのは不可能。矢をうまく(かわ)して何人か斬り倒してみても、結局は殺られる。それなら、捕まった方が、まだ生き伸びられる可能性は残る。そう瞬時に判断した。
 古能代は蕨手刀を投げ捨てた。あまりにあっさりと古能代が諦めてしまったので、呆気(あっけ)に取られたのは支由威手(しゆいて)ら四人であった。彼等はいずれも腰抜けではない。秀郷からの要請に答えて、祖真紀が選んだ若者達なのだ。この状況でも戦う気は十分にあった。しかし、古能代が太刀を投げ出してしまったので、一気に戦闘意欲が萎えてしまい構えた蕨手刀をだらりと下げた。
「ふふ。意外に物分かりの良い餓鬼共だな。それともただの腰抜けか?」
と頭目が薄笑いを浮かべて言う。その言葉に四人は挑発され、キッとなって太刀を構え直した。
「捨てろ!」
 空かさず古能代が怒鳴った。幸いにもまだ、樹上の蝦夷達は矢を放ってはいない。
「秀郷の為に命まで捨てる必要など無い。大体それほどのことをして貰っておる訳でもあるまい。命有っての物種だ。早く捨てろ!」
 古能代が四人をそう諭す。
「そ奴の申す通りだ。(なれ)達、()き使われているだけで、碌な物も食わして貰っておらんだろう。つまらぬ意地を張らぬが身の為だ」
 古能代の言葉を幸いに、頭目がそう言葉を被せる。 
 お互いに顔を一度見合わせた後、四人も蕨手刀を投げ捨てた。しかし、彼等には古能代の言葉が、この場を逃れる為の策なのか本音なのかの判断が付いていない。

 山賊達が集まって来て、あっと言う間に五人は縛り上げられた。連れて行かれたのは大きな洞窟だった。一斉に松明(たいまつ)に火を点け、壁の所々にある穴に差しながら奥へと進んで行く。一番奥にある大岩の上に頭目が腰を降ろすと、五人はその前に引き据えられた。
「おい、そこの…… 名は何と言う?」
 頭目が古能代を太刀で指しながら言う。
「古能代だ」
 恐れる様子も無く、頭目を見上げて古能代が答えた。
「蝦夷だな。なにゆえ、秀郷の犬をやっておる?」
と尋ねる。
「我等が叛けば郷の者達が殺される」
 答えたのは沙記室(さきむろ)だ。
「成程。…… ならばここで死ね」
 頭目は悠然と言い放った。古能代以外の四人がハッとして頭目を見上げ、怒りの籠った目で睨み着ける。『こんなことなら、討ち死にした方がましだった』という思いがそれぞれの胸にこみ上げ、古能代を恨む気持ちが芽生えた。だが、古能代ひとりは平然としている。
(なれ)、いい度胸をしておるな。命乞いは、せんのか?」
と頭目が聞いた。古能代は何も答えない。暫くその目を見詰めていた頭目が突然笑い出した。
「気に入った、いい度胸だ。はっはっはっは。死んだことにすれば良い。そして我等の仲間になれ。死んだことにすれば郷の者達が殺されることも有るまい、どうだ。見ての通りここにはお前達の同族もおる。皆、嘲られ、扱き使われて逃げ出し、恨みを持って仲間に加わった者達だ」
 四人は、頭目から目を放し、古能代の表情を(うかが)った。
「いいだろう。何をすれば良い」
 古能代が落ち着いた様子で答える。
「ふっふ。(なれ)は話が早い。気に入った。まずは、あの郎等を殺せ。そして、死骸を始末し、ここを引き払って(ねぐら)を移す。郎等の死骸だけ見付かれば、(なれ)達が裏切ったのがばれてしまうでのう」
 そう言って古能代の目を見た。
「気を使って貰って、礼を言うべきかな?」
 皮肉っぽく古能代が返す。
「礼は今後の働きでして貰う。ちゃんと分け前は渡してやる。吾は秀郷と違って吝嗇(りんしょく)では無いからの。おい、縄を解いてやれ」
 命じられた子分たちに寄って、五人は縄を解かれた。きつく縛り上げられていた腕を擦りながら、ほっとした表情を見せた四人だが、古能代の態度をどう解して良いのか迷っていた。普段は口数の多い者達だが、この時ばかりは、うっかりしたことは言えないと思っていた。
「では、あの者を殺して来る」
 古能代は国時の名を口にしなかった。頭目が(あご)で指図すると、配下のひとりが蕨手刀(わらびてとう)を古能代に手渡した。
(なれ)ひとりで殺って来い。それまで、この四人は人質だ。裏切れば殺す。…… まだ、信用した訳ではないでのう。見張りも付ける」
 周りに居た配下の賊達が、支由威手(しゆいて)ら四人の首に太刀を突き付けた。四人が古能代を見、古能代も四人に視線を注ぐ。
「待っていろ」
 それだけ言うと、古能代は洞窟の入口に向かって足早に歩き始めた。賊の配下二人が後を追う。

 国時の待つ場所に向かいながら、古能代の頭は忙しく回転していた。まず、ぴったりと着いて来る二人の賊をどう始末するかだが、それは少し策を用いれば難無く出来る自信が有った。問題は四人をどう救い出すかだ。早めに二人を始末し、急いで戻って様子を探るか、国時と合流して二人で戻るか、或いは、国時に兵を呼びに戻って貰う方が良いか迷っていた。
 早いに越したことは無いが、ひとりで戻ってあの人数を始末し、四人を無事救い出すことはほぼ不可能だ。考えられる策は、洞窟の入口付近に枯草を積んで火を点け、賊達が飛び出して来る隙を突いて洞窟に侵入し、中に残っている賊を倒して四人を救い出す方法だが、そうこちらの思惑通りには行くまいと思えた。
 国時と一緒に洞窟に戻っても、状況はそんなに変わらない。となれば、国時に兵を呼びに戻って貰うことだが、時が掛かり過ぎる。迷った挙句、一か八か、ひとりでやって見る以外に無いという結論に達した。
 古能代はぴたりと足を止めた。
「吾ひとりで殺るのか? それとも三人で殺るのか?」
 振り向いて、二人の賊に言った。
(なれ)ひとりで殺るに決まっておろう。怖いのか?」
 狐目の盗賊がそう答える。
「なら、この辺りで待っていてくれ」
と古能代。
「郎等がおるのはもっとずっと下だろう」
と狐目が(ただ)す。
「いや、いつの間にか、このすぐ下まで来ておる」
「何?」
「嘘だと思うなら、下を覗いて見ろ」
と古能代が狐目に言う。
「よし」と言って、狐目の賊が下を覗こうとした時、もうひとりが止めた。
「待て」と仲間を制し「…… おい、何を企んでおる」と古能代に疑いの目を向ける。
 そして、古能代に向かって「我等を突き落として逃げようとしても無駄だぞ。上を見ろ」と崖の上を指さした。
 古能代が見上げると、今降りて来た綴れ織りの道の上から下を覗いている、二人の賊の姿が有った。
「もし、我等に何か有れば、あの者達が走って(しら)せ、お前の仲間は殺される」
 勝ち誇ったように、古能代に告げる。
『畜生、二重に見張りを着けていたのか!』
 さすがの古能代も絶望的な気持ちになった。
 その時、グワーと声を上げたかと思うと上の二人の姿が消えた。驚いて上に駆け着けようとする二人の一瞬の隙を突いて蕨手刀を抜いた古能代は、まず、狐目の賊の腹を横に払い、振り向いたもうひとりの賊の頭から唐竹割りに斬り降ろした。刃が頭蓋骨に食い込む感触を感じた。古能代が生まれて初めて、実際に人を殺した瞬間である。しかも、一度に二人。
 顔から胸にかけて大量の返り血を浴びた古能代は、少しの間、茫然と立ち尽くしていたが、はっと気を取り直し、袖で顔の血を(ぬぐ)い、血だらけの蕨手刀を引提げたまま、足早に坂を上って道を引き返した。
 途中、上に居たふたりの賊の死体を見たが、誰が殺ったのか、他に人影は無かった。洞窟にだいぶ近付いたところで、古能代は、一旦、(くさむら)に転がり込んだ。初めて人を殺したことと、早足に坂道を上がって来たことに因り呼吸は乱れ、とても戦えるような状態では無いのだ。竹筒の水をごくごくと飲み干し、叢の中に大の字に転がって、古能代は、天を仰いで暫くの間、大きな呼吸を繰り返していた。やがて、呼吸が落ち着くと、刀の(つか)を握ったままの形で硬直してしまっている指を一本一本剥し、草で手を拭き柄や刀身の血も拭った。その時、古能代はハッとした。
『夕べの国時からの報告に基づいて、既に秀郷の兵達がこの山に入っているのではないか?』そう思い当たったのだ。
 たまたま上に居た賊二人は兵達に見付かり殺されたが、自分達にまでは気付かなかった。そう考えれば理屈は合うし、それ以外の可能性は考えづらい。とすれば、兵達は必死で賊の(ねぐら)を探している筈だ。しかし、恐らく秀郷と国時以外に自分達の存在を知る者は居ないだろうと思う。
 食料の雑穀など必要な物は、少なくなって来た頃、帰るといつの間にか補充されている。恐らく、国時が場所だけ教えて、自分達が留守の間に奴婢達に運び込ませているのだ。もし、兵達が洞窟を襲えば、支由威手(しゆいて)らは賊の一味として殺されてしまうかも知れない。急がねばならない。
 古能代は(くさむら)から這い出し、洞窟の様子を探った。二人の見張りが立っているだけで、幸いにも、まだ襲われた様子は無い。弓で射たのでは、ひとりを殺しても二の矢を放つ前に、もうひとりに大声を上げられてしまう可能性が大きい。賊達が飛び出して来た時、気付かれずに洞窟に入り込むなど到底不可能だ。古能代は、見張りに気付かれないように入口近いところまで進み身を潜めた。
「あの夷俘(いふ)野郎、郎等を殺して来るかな?」
 見張りのひとりが言った。
「他にどう出来る? 見張りが二重についているのだぞ」
 別のひとりが答える。
「この頃、秀郷の奴に壊滅させられた党は多い。もはや下野(しもつけ)は我等に取って住み(にく)い所となってしまっている。この辺が潮時、武蔵か上野(こうづけ)にでも逃れたいものだな」
「そいつは、お(かしら)次第だ」
「お頭とて……」
 そう言ったきり、後の言葉が聞こえないので、それぞれ別の方向を見張りながら話していた賊のひとりが振り向くと、一瞬、相棒が崩れ落ちる姿が目に入った。その後ろには古能代の姿。そして次の瞬間には、この賊も喉笛(のどぶえ)()き切られていた。
 先程とは打って変わって、古能代は落ち着いた様子で、袖で血を拭いて、蕨手刀を鞘に収めた。それから、二人の死体の足を持って引き摺って草陰に隠した。草を集めて火を点けなければならない。

 洞窟に入った時気付いていたことだが、一番奥の天井近くの横に裂け目が有り、自然の小さな穴が外に通じているらしい。松明(たいまつ)の火の揺れ方、肌に感じる空気の動きから見て、風が僅かながら入口から奥に向かって吹き込んでいる。床は入口から奥に行くに従って少し上り坂になっているので、通気口から流れ込んだ雨水で洞窟が水浸しになってしまうことも無いのだろう。賊達に取っては、誠に居心地の良い環境である。入口付近で草を焼けば煙は洞窟の中へ吸い込まれて行く。(いぶ)し出すにも絶好の環境なのだ。
『だが……』と古能代は考える。煙が上がれば兵達に気付かれてしまう。出来れば己の姿を隠せるほどの煙を上げたいのだが、もはや、それも出来ない。また、そんな準備をするほど時を費やす訳にも行かない。僅かな煙でも洞窟の中に流れ込めば、中では異変を感じ取るだろう。そうなれば一気に大勢が飛び出して来ることは無く、まず、一人か二人が様子を見に出て来る。それを殺る。
「後は成り行き次第か……」
 古能代は声に出して、そう呟いた。
『まずは草を集めなければ』そう思って草刈りに掛かる。
 その時、古能代は気配を感じて振り返った。いつの間にか、十間ほど先に人ひとりが立っている。直垂(ひたたれ)の袖と裾を絞り、顔を黒い布で覆っている。『敵か!』と一瞬思うが山賊の仲間ではない。かと言って秀郷の兵でもない。その体型と持っている武器に寄って、それが誰なのかが、間もなく古能代には分かった。
 言い知れぬ緊張感が古能代を襲う。今やらなければならないこととは無縁の別の緊張感。かなり距離が離れているにも関わらず、男の底知れぬ眼光が目の前に迫る。体も心もその動きを停止したかのように時が止まる。古能代は男を見詰めていた。黒覆面の男が右手を挙げると、同じ装束の者達十人ほどが現れ、足音も無くその男に続いて洞窟の中へ雪崩れ込んで行った。一瞬、その光景を幻影でも見るように眺めていた古能代が、ふと我に帰って慌てて後を追う。

「我等ばかりではない。今の坂東は、いや、この国全体が賊ばかりよ。山賊、海賊ばかりではないぞ。土豪達とて、裏に回れば山賊と同じ。そればかりでは無い。都から下って来る役人から京に()公家(くげ)達まで、どいつもこいつも、ひとの上前(うわまえ)()ねて生きておるのよ。馬鹿を見ているのは、力の無い者達だけだ。そう思わんか?」
 頭目が支由威手(しゆいて)らに話し掛けている。もはや、四人は首に刃物を突き着けられてはいない。
「実は、我等も山賊に成ろうとしたことがある」
 支由威手(しゆいて)が答えた。
「ほう…… 何故(なにゆえ)成らなかった?」
怖気(おじけ)付いたのよ。郷が焼かれると聞いてな……」
と答える。
「誰がそう言った」
と頭目がそこを突く。
「古能代だ」
 沙記室(さきむろ)が答えた。
「ふん?…… あ奴がやめさせたのか?」
と言って、頭目は何か考えている様子だ。
「いや、我等が怖気(おじけ)付いたのだ。もし、我等が『やろう』と言っていたら『いや、本気ではなかった』などと逃げる男では無い。きっとやっていた」
 沙記室(さきむろ)は、古能代は本気だったと言う。
「そうか! 使えそうな奴よの。だが古能代が裏切ったら、(なれ)達はここで死ぬことになる。あ奴が裏切らぬか心配ではないのか?」
「古能代は我等を見捨てたりはせぬ!」
 摩射手(まいて)が強く言った。
「となると……」と言いかけた時、頭目の頭を嫌な予感が()ぎった。その動物的な勘で、数々の危機を逃れて来た男だ。理屈では無く、己の勘に絶対の自信を持っている。
「ここを早く出なければならん! あ奴。こ奴らを助けに戻って来るぞ、兵を連れてな」
 突然配下達に向かって(わめ)き始めた。
「ぐずぐずするな! こ奴らを始末して、ずらかるんだ」
 支由威手(しゆいて)らは蒼白となった。『(はか)られた』と思った。油断をさせて、何かを引き出したのだ。自分でも気付かぬうちに、決定的に疑われる何かを喋ってしまったのだ。『それが何かは分からぬが、きっとそうに違い無い』と思った。

 頭目の勘は当たったが、その読みは半分当たり、半分は外れていた。秀郷の兵達では無かった。山賊達が、一斉に太刀を抜き放ったその時、十ほどの黒い影が突然現れ、入口方向を塞いだ。しかも、その(すべ)ての影が矢を(つが)えた短弓を引き絞っており、その先は、頭目を始めとして賊達に向けられている。
『こ奴らを盾にするしかない』そう思ったひとりの賊が、支由威手(しゆいて)に刃を突き着けようとした瞬間、一斉に矢が放たれ、賊の半数以上が倒れた。頭目は首に矢を受けて転げ落ち、その危うい生涯を閉じた。今度ばかりは、その自慢の勘が働くのが少し遅過ぎた。生き残った賊達は慌てて得物(えもの)を放り出し、地べたに這い(つくば)った。残ったのはたったの八人である。最初に現れた男が合図をすると、黒覆面の男達が、床に伏せた山賊達を縛り上げる。
 男達の後ろから走り込んで来た古能代は、複雑な表情を見せて、ただその光景を見詰めている。まず、ほっとした後、(いぶか)しげに黒覆面の男達を見ていた支由威手(しゆいて)達四人だったが、
「兄者!」
 突然、沙記室(さきむろ)が叫んだ。背の高い覆面男が沙記室(さきむろ)に近付き軽く頭を小突(こづ)いた。
「手間を掛けさせるな」
 覆面の男達は、祖真紀率いる郷の男達だった。沙記室(さきむろ)の十一歳年上の兄、摩射手(まいて)の叔父、威手李裡(いていり)の父。その体型や動きからそれぞれが誰か、じきに察しが付いた。
 古能代以外の四人は、ほっとすると同時に、有り難さと懐かしさに思わず涙ぐみそうになっていた。
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