第16話不思議なマリモの分析結果が出た

文字数 2,981文字

そして時が過ぎ、秋の彼岸も終わり北杜市の朝晩はメッキリと冷え込むようになってきた。
そしてある日、俺がいつも通りに研究所へと出勤すると総務課長から、研究室のデータルームへ直ぐに行くようにと促された。
「ヤッター、ずっと待ちわびていた不思議なマリモの検査結果が出たんだ」
と内心喜びながら小走りで俺はデータルームへと向かった。
するとそこに待ち構えていた研究室長がモニター画面を指さしながらこう言ったのである。
「小林君、我々が期待していた以上の結果が出たぞ」
その言葉に俺は思わず、その画面を覗き込んでみた。
するとそこには、このような分析結果が載っていた。
「今回はX線、CT装置、及び目視による非破壊検査を中心に成分分析を行いました。
その結果、不思議なマリモの成分の半分以上が稲藁であることが判明しました。
そしてその他の物質としましては、八ヶ岳周辺に自生している光苔の一部であろうと思われる繊維質、それと鳥類の羽毛だと思われる物質も多数混入しておりました。
それらの事から推測致しますと不思議なマリモが発見された八ヶ岳の山中には、長年に渡り何かしらの鳥類が棲みついており食料として、その辺りに自生していた光苔を食べていたのだと思われます。
しかしその羽毛の一部を取り出し簡易検査をしてみたところ、それと一致する鳥類は現存しないことが判明しました。
それと今回の一番の注目点と致しまして、特筆すべき物質が検出されたのです。
それは地球の内部に存在するマグマの成分が全体に湿潤していました。
しかしそのマグマ成分が検出された事につきましては、今のところ原因はよく分かっておりません。
最後に、不思議なマリモが丸い形状になった事に関しましては次のように推測ができます。
巣の内部にあった稲藁を掻き集めて作ったであろう寝床の形状が、すり鉢状になっていた。
そこには主の抜け落ちた羽毛や、
食料としていた光苔の一部とが堆積していた。
その後、その巣の主が居なくなってから長年に渡り風などの影響を受け、それらが揺らされ転がり続けて、今のような形状になったのだと思われます。以上」

俺はその画面を何度も何度も読み返してみた。
そしてその中で特に気になったポイントが二つあった。
その一つめとしては
「鳥類の羽毛だと思われる物質が多数混入していたのだが検査の結果、それと一致する鳥類は現存しなかった」
という点であった。
それは、どういう事を意味しているのであろうか?
やはり高松塚古墳で発見された文字の中にあった鳳凰と、八ヶ岳に棲みついていた鳥とは同一なのかも知れない。
するとあの不思議なマリモには、鳳凰の抜け落ちた羽が含まれている事になる。
それともう一つのポイントとして、
「あの不思議なマリモの中から地球内部に存在するマグマの成分が検出された」
という点だ。
やはりそれも鳳凰が関係しているという事なのだろうか?
俺は研究室長に頼んで、その不思議なマリモの分析報告書をA4サイズの用紙にプリントアウトしてもらい、部屋をあとにした。
その後、午前中は総務課での仕事をこなし、昼食後に研究室へと向かったのである。
そして一人で研究室内にある書庫へと入り、不思議なマリモの分析報告書を開き、改めて一項目ずつチェックしてみる事にした。
そして先ず最初に調べてみたのは、あの場所に棲みついていた鳥が食料として、その辺りに自生していた光苔を食べていたという分析結果であった。
そこで俺は植物辞典を手に取り、光苔について調べてみたのである。
するとそこには、このように書いてあった。
「日本列島の中部地方以北にある山中の洞穴などに生え、高さが1cmほどになる。
原糸体がレンズ状の細胞からなり光線を反射する。
その反射する色は条件により黄緑色、エメラルドグリーン、または黄金色の色となって反射する事もある」
「ああ、そういう事だったんだ。
そう言えば不思議なマリモに懐中電灯の光を当ててみる度に、緑色の蛍光色を発してした。
元々、不思議なマリモは深緑色をしているのだが、何故ライトを当てると緑色の蛍光色を発するのか、ずっと疑問に思っていたんだ。
そうか分かったぞ。
光苔の一部の成分が、あの巣の中に残っていたからだったんだ。
よし、これで一つの疑問が解決したぞ。
それからもう一つの疑問だが何故、不思議なマリモ全体に地球内部のマグマ成分が湿潤していたのであろうか?」
俺はスマホを手に取り、八ヶ岳の山としての歴史を調べてみることにした。
すると俺の勉強不足でもあったのだが、なんと八ヶ岳は南北の長さが30kmもある大火山群であったのだ。
そこで今から一番近い噴火の記録を調べてみた。
すると今から600年から800年前の間に、八ヶ岳の中でも北側に位置する横岳で、噴火活動があった事が載っていた。
「ああ、なるほど、そういう事だったんだ」
と俺は思わず声を上げてしまった。
それは今まで不思議に思っていた点どうしが一つに繋がった瞬間でもあった。
そしてその時、俺は若い頃に読んだ本で、フェニックスの話を思い出した。
そこには確か、こう書いてあった。
「フェニックスは不死身では有るのだが、実際には生死を繰り返している。
現世に於いて寿命が尽きる頃、自らが炎の中へと飛び込み、そしてまた蘇ってくる」
という話であった。
俺はその話を初めて知った時から今まで、そんなこと現実には有り得ない、ただの伝説だけの話だと思っていた。
しかしそれに関する事柄で今回の報告書の中に、もう一つ、それと符号する記述が載っていたのだ。
それとは、今回の不思議なマリモの中から発見された羽毛は簡易検査の結果、地球上には生息していない鳥の物であることが証明されていた。
それらは全て、何を意味しているのであろうか?
やはり高松塚古墳から発見された
「鳳凰を照らした」
という文字は本当だったのかも知れない。
すなわち鳳凰イコール不死鳥、イコールフェニックスなのだ。
すると、あの不思議なマリモの中に入っていた羽毛とは、まさに鳳凰が残していった遺物という事になる。
これは本当に大変なことになって来たぞ。
あの不思議なマリモには、とんでもない奇跡を起こす成分が含まれているのかも知れない。

俺はその時、不意に思い浮かんだ事があった。
それは南方熊楠のことだった。
「もしかすると熊楠も、この鳳凰と例えられた不思議なマリモのことを探し続けていたのではないのだろうか?
本人は明治時代から大正時代にかけて人種差別と闘い、環境保護活動の先頭に立って尽力されてきた素晴らしい人格者でもある。
世界に不要のものは無しとの名文句も残している。
それだけの人であったのだから世界平和と、身近にいる人たちの病気平癒も願っていたのではないのだろうか?
確か考古学、天文学、宗教学のエキスパートでもあったはずだ。
高松塚古墳も鎌倉時代には既に盗掘の被害に遭っていたというから、熊楠も和歌山から近い高松塚古墳の存在は知っていた可能性が高いと思う。
しかしその偉大な熊楠でさえ、この不思議なマリモのことは見つけ出すことは出来なかった。
これは俺の考え過ぎかな?


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